パリで建物を見上げれば、いたるところに煙突が立っている

写真拡大

パリから暖炉が消える。パリを含むイル・ド・フランス地域圏では、2015年1月から、まきを使った伝統的な暖炉の使用が禁止になる。暖炉を禁止することで、まきを燃やし放出される有害物質を減らし、近年ひどくなっている大気汚染を抑えようとの目的からだ。

「暖炉」と言われても日本ではピンと来ないが、フランスでは身近だ。昔からの建物を使い続けているパリでは、今でも暖炉を持つ部屋は普通にあり、ワンルームの賃貸物件でも暖炉を備えた部屋がある。ただし、煙突掃除など手間がかかり、インテリアとなっていることは多い。現代では、窓の下に取り付けられた各家庭個別の電気式のヒーターか、建物全体で管理する中央暖房のどちらかが用いられる。

暖炉はクリスマスとも切り離せない。例えば、フランスのクリスマスに食べられる定番ケーキ、ブッシュ・ド・ノエルはまきの形を元にしている。寒い冬に暖炉の前に集まり家族で食卓を囲むこと、今は電気暖房などに取って代わられたが、暖炉はクリスマスの原風景だ。

当然のことながら今回の暖炉禁止について、関連業者は反対している。ロワイヤル環境相も禁止措置の見直しを求めると表明した。個人的にもパリの風物詩の1つが無くなってしまうのは残念である。

しかし大気汚染そのものは深刻だ。今年3月には、汚染が一定の基準を超えたため、公共交通機関を無料にし、車の排気ガスを抑えようと試みた日があった。汚染レベルは、世界でも問題が深刻化している北京と、日によって同程度と言われた。同月17日に至っては、当局はパリと周辺市町村で車の使用を、原則奇数ナンバーのみに制限した。

欧州の街はどこも煙突があるが、規制に踏み切ったのはパリだけなのだろうか。
汚染の程度は異なるものの、かつて同じ悩みを持っていたのがロンドンだ。ここではすでに、暖炉の使用が制限されている。
「霧の都」と形容されるロンドンの「霧」とは、産業革命以後、石炭燃料の燃焼により発生したスモッグのことである。これによりロンドンは視界が悪くなっただけでなく、大気汚染による多くの死者も出た。このため、1956年と1968年の大気浄化法、1954年のロンドン市法によって排煙を制限することで、空気の改善を図った。

暖炉を規制することによりパリの悩みは晴れるのか。とにかく年明けからは、パリの暖炉からその火は消える。
(加藤亨延)