科学的根拠(エビデンス)重視の現代医療では、脇に追いやられがちな「生薬」。しかし、何千年も積み重ねられてきた「経験と実践」は侮れない。先日、アルツハイマー型認知症(AD)患者に対する生薬と処方薬との比較結果が報告された。

 試験は北インドのバラナス・ヒンドゥ大学の研究者らによるもの。60〜75歳の高齢AD患者123人と健常者109人を生薬群と処方薬群に無作為に割り付け行われた。生薬群は、インドの伝統医学で使う「オトメアゼナ(バコパ)」の全草、「スナジグミ(ヒッポファエ)」の葉と実および「ヤマノイモ(ディオスコレア)」のむかごからの抽出物を含む試験薬を500ミリグラム/日服用。処方薬群は、ADの進行を抑制する塩酸ドネペジルを10ミリグラム×2回/日服用した(日本の投与量上限は1日10ミリグラム)。

 投与期間は12カ月で、3カ月ごとに認知機能検査(MMSE)や短時間に同じ図形を見分ける全般的脳機能検査(DSS)、うつ病スコアなどの脳機能検査を実施。同時に血液検査で酸化ストレスや炎症の存在をチェックした。

 さて、注目の試験結果である。生薬群は処方薬群よりも、DSSと即時記憶の改善を認めたほか、うつ病スコアと洗面や着替え、排泄などの日常生活の障害も有意な改善を示した。さらに、酸化ストレスや炎症を表す検査値も生薬群で著しく低下したのだ。一方、MMSEや一定の言葉を30分後に思い出すといった遅延再生記憶についての有意差は生じなかった。

 また、健常高齢者を対象とした場合、薬効がないプラセボ服用群と比べて、生薬群はMMSE、DSSなどの全般的認知機能とうつ病スコアで有意に改善が認められた。研究者は「アルツハイマー型の認知症治療の新しい可能性を示した」としている。

 ADに対する生薬の効果については動物実験レベルだが、日本でもホップの雌株の花から抽出したエキスや釣藤紘(チョウトウコウ)の予防効果が確認されている。次の一手がいまだに見つからないAD治療だからこそ、謙虚に昔のデータベースを検索しなおす時かもしれない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)