11月26日(水)、松岡正剛さん(写真左)とイシイジロウさん(同右)の対談が東京・豪徳寺の編集工学研究所にて行われた

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11月26日(水)、編集工学研究所の所長を務める松岡正剛さんと、ゲーム「428 封鎖された渋谷で」などで知られるアドベンチャーゲームの第一人者、イシイジロウさんの対談が行われた。テーマは、スマートフォンをはじめとする「新たなデバイスにおける物語の編集力」。コンテンツ業界の未来を示唆する意見が交わされる濃密な1時間となった。

【写真を見る】対談の会場となった、松岡正剛さんが所長を務める編集工学研究所はまさに本の海!

この対談は、「電子書籍」と「ゲーム」が融合した謎解きアプリ「NAZO」を提供するサイバードによる企画。松岡さんが監修した「NAZO」はスマートフォンで読ませる物語への新たな挑戦となっており、その可能性を探る一環として本対談が実現したのだ。

「70年代後半ぐらいから『スペースインベーダー』や『ゼビウス』などのゲームが次々に出てきて、1人のユーザーが向こうの世界とインタラクション(相互作用)できるように。そのことに衝撃を受けました」と松岡さんは語った。その上で、「スマートフォンをはじめとするデバイスの発展で、ゲームなどのインタラクティビティの高いメディアと本などは統合され、その可能性が試される時期に来ているのかもしれません。ゲームが本をよみがえらせるということも考えられます」と、自身の見解を述べた。

一方、イシイさんは、「まだ印刷がなかった時代、語り部(ストーリーテラー)は観衆やその反応に応じて物語の伝え方を変えていたはず。その『ストーリーテリング』という思考をプログラミングすることがゲームデザイナーの仕事です」と主張。さらに、「ゲームにおける物語がすごいのは、ユーザー選択によるストーリー分岐によって、2周目以降のゲームプレイでもユーザーが面白いと思ったところはもっと膨らませられるかもしれないところ」とも言及した。

物語を読者に決めさせるという仕組み以上に、イシイさんに衝撃を与えたものがあるそうだ。「例えば、ヒロインが死んでしまうというストーリーをユーザーが選択した時に、そのヒロインは『私は何のために生きてきたの?』という問いをどこに向ければ良いか分かりません」、つまり登場人物の感情や存在意義すらユーザーの選択によって変動してしまうということ。イシイさんは「この感情構造はゲームを作っていないと生まれてこないですね」と語った。

また、あくまで現在の市場の問題だと前置きした上で「スマートフォンのゲームに物語がなかなか導入されない理由はマネタイズの問題」だと言う。「アプリストアなどのTOP10は分かりやすく言うとカジノ。マネタイズしやすいものが並んでいます」とし、物語性が目立たない市場であることを指摘。ただ、それはゲーム制作者の今後の課題として、「3年後には物語性がもっと価値を持つと予想しています」と未来への明るい展望を示した。それに対しては松岡さんも「現状はゲームの深さに比べて、セレクトショップの数が足りない。それが増えることで、初めて個性が出てきます」と同調した。

今後も、新しいデバイスにおける物語への挑戦をますます加速させるという2人の動向から目が離せない!【東京ウォーカー】