金保有大国として知られるスイスで、国民投票が行なわれることになった。かつて大量に売却された金を買い戻すことが今回のテーマとされている。スイスの金保有の歴史をひもとくとともに、今後の流れにも目を向けてみよう。

政府に対して金の購入を促すための国民投票

金融市場での注目度は低いが、金市場の一部で注目されているのが、11月30日に予定されているスイスでの国民投票だ。その内容は、過去に中央銀行であるSNB(スイス国立銀行)が大量に売却した金を買い戻すかどうかというもので、テーマも「スイスの金を救え」となっている。

スイスは金保有大国で知られた国。今でも1040トンを保有しており、保有量は国際ランキングの8位につけるほどだ。しかし、1999年当時には2600トンを保有していた。永世中立国として知られるスイスだが、第2次世界大戦中もナチス・ドイツとの貿易なども行なっていた。当時その決済のため価値に不安のない金を求め、ドイツからスイスへ大量の金が移動したとされている。

秘密口座で知られ、世界中の富裕層の資金を集めてきた金融立国スイスだが、この金が1990年代末に問題視された。金の多くがユダヤ人迫害に伴ない略奪されたものだと全米ユダヤ人協会が主張し、スイス最大の銀行UBSなどスイスの大手銀行との取引のボイコットを呼びかける騒動が起こったのだ。大きな産業基盤が揺らぐことを危惧したスイス政府は、国民投票の末に保有する金の売却を決め、5年以上をかけて段階的に売却を進めた。そして、その一部を使ってユダヤ人救済基金を設立したのだ。結果、保有量が以前の半分以下となったのである。

この金を買い戻すことが今回の国民投票のテーマで、スイス国民党が10万人以上の署名を集めて申請。スイス政府は7月2日に国民投票の実施を告知した。議題は次の3点だ。

1つ目が、SNBのこれ以上の金売却を禁止すること。2つ目は、国外に預けている金を回収し国内で保管することをスイス当局に促すこと。3つ目は、SNBの資産の最低20%を金で保有すること―となっている。

金市場が関心を示しているのは3つ目だが、2014年6月末時点の金の比率は7・5%となっており、基準を満たすためには約2700トンの保有が必要である。現在の保有量1040トンから逆算すると、1660トンの購入が必要となる。可決される可能性は低いが、ECB(欧州中央銀行)が量的緩和策に踏み込む可能性が高まるなど通貨価値に対する関心が高まっている時期でもあり、予断を許さない状況といえる。実際に10月末の世論調査では44%が贊成とした。

亀井幸一郎
PROFILE OF KOICHIRO KAMEI
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表。中央大学法学部卒業。山一證券、に勤務後、日本初のFP会社MMI、金の国際広報機関WGCを経て独立し、2002年より現職。市場分析、執筆講演など幅広く活躍中。


この記事は「ネットマネー2015年1月号」に掲載されたものです。