by NIAID

これまでHIVは治癒が困難だとされてきましたが、近年の研究によってHIVによる致死率と感染率が低下してきたことが分かりました。「ウイルスがマイルドな形になってきている」というHIVの現在の状況についてBBCがまとめています。

Impact of HLA-driven HIV adaptation on virulence in populations of high HIV seroprevalence

http://www.pnas.org/content/early/2014/11/26/1413339111

BBC News - HIV evolving 'into milder form'

http://www.bbc.com/news/health-30254697

研究を行ったオックスフォード大学のチームによると、HIVは「マイルドな形になって」きており、HIVがエイズを引き起こすまでの時間が長くなってきていると共に、パンデミックを起こす可能性も減ってきているとのこと。「このままいけば、HIVがほぼ無害になる日が来るかもしれない」と語る研究者もいるほどです。

世界には3500万人のHIV感染者が存在し、感染者の体の中ではウイルスと免疫系との間で戦いが繰り広げられます。HIVは、すぐに感染者の免疫系に自身を適合させますが、まれに体内の免疫システムが強力で適合に時間がかかる場合があります。

この時ウイルスは身動きが取れず、生き残るため自身に変化を起こすことになりますが、変化には負担がかかります。この負担が「複製能力の低下」であり、ウイルスの感染率を下げたりエイズを引き起こすまでの時間が長くしたりしているわけです。そして弱体化したウイルスが人から人へと伝わっていくことで、弱体化のサイクルが生まれているとのこと。



by EMSL

ボツワナでは長年HIVが深刻な問題となっていましたが、研究チームはボツワナでまん延したHIVと、ボツワナでの流行から約10年後に起こった南アフリカのHIV流行を比較することで、HIVの弱体化を示しました。

研究を行ったゴルダー教授がBBCの取材に答えたところによると、ボツワナのウイルスは南アフリカのウイルスに比べ複製能力が10%低かったとのこと。「我々はウイルスの変化を目の当たりにしましたが、この変化は驚くほど速いスピードで起こりました。ウイルスの持つ複製能力の低下はウイルスの存在自体を消失させるのに役立つでしょう」とゴルダー教授は語っています。

さらに、逆転写酵素を持つRNAウイルス類のことをレトロウイルスと呼び、HIVはこのレトロウイルス科に属するものですが、米国科学アカデミー紀要の発見によると、抗レトロウイルス薬もHIVをマイルドな形にしているとのこと。抗レトロウイルス薬はウイルスの体内での増殖能力を抑制し、エイズの発症を抑えるもので、最も危険だと考えられている種類のHIVに向けて作られました。

「20年前、ボツワナでHIVに感染してからエイズを発症するまでの時間は10年でしたが、過去10年で、その期間は12.5年に延びています。これがどんどん延びていけば、将来的にHIV感染者はエイズを発症させることなく数十年生きることが可能になるでしょう」とゴルダー教授。



by Gates Foundation

しかし、弱体化したHIVであっても危険であることは変わらず、エイズを発症させる可能性が十分にあるとも研究チームは警告しています。

HIVはサル免疫不全ウイルス(SIV)が突然変異によって人への感染性を持ったと考えられていますが、もともと感染率は低いものでした。ノッティンガム大学のウイルス学者ジョナサン・ボール教授はウイルスの弱体化について「もしこのような傾向が続くのであれば、HIVに関する状況は世界的に変化するでしょう。仮説ですが、今後、HIVの弱体化に伴い現在の我々よりもウイルスに耐性がある人類が出てくる可能性もあります。そうなればHIVはほとんど無害です」と語っています。楽観的に聞こえるかもしれませんが、上記のような出来事は実際に歴史上で起こっていた可能性もあるそうです。

一方で、カーディフ大学のアンドリュー・フリードマン教授は「ボツワナでまん延したHIVと南アフリカでまん延したHIVを比較して、伝染力が弱まっていると実証したこの研究は非常に興味深いものです。ウイルスの弱体化は、抗レトロウイルス治療が広まりエイズ発症までの時間が延びたことと併せて、HIVまん延をコントロールしていると言えます」と肯定的な立場を取りつつも、ウイルスが無害になるまでには「恐ろしく長い時間がかかる」ともコメント。ウイルスの弱体化そのものよりは、治療法の発展や医療の一般化によってHIVが過去の病になる日が近いと考えているようです。



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