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毎年、年末のこの時期になると、ごく日常的な会話の中で「お忙しいですか?」という言葉が飛び交う。ところが宣伝・広報という仕事をしていると、業界の習慣なのかは分からないが、この「お忙しいですか?」というフレーズをあまり使わない。特にタレントさんやフリーランスの方と接する時には、むしろ"厳禁"とされることもある。

○相手が答えようもない質問

忙しい相手に「お忙しいですか?」と聞いたところで、聞かれた方は「忙しいです」とも「忙しくないです」とも答えようがない。これは相手の立場で考えてみればよくわかる。フリーランスの人(のような立場の人も含む)が、仮に「お忙しいですか?」と尋ねられて「忙しいです」と答えてしまえば、「忙しいなら仕事はこれ以上お願いできないか…」と思われてしまう。せっかくの仕事が依頼されなくなるかもしれない。逆に「忙しくないです」と答えてしまえば、「あの人はこの忙しい時期にも仕事の依頼がないのか?」と人気に疑いを持たれてしまいかねない。

つまり、「お忙しいですか?」と聞かれたところで、人気商売の人は、たとえ実際に忙しくても、忙しくなくても、本当のことはお茶を濁さざるを得ない。相手がどうにも答えにくい会話をあえて持ち出さないというのも、ある種の「お約束」だったりする。だからあまり「お忙しいですか?」とは著名人には尋ねない。これは「生活の知恵」でもある。

もっとも、大阪の商人の人同士には、「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんな〜」という会話がある(もちろん、日常ではこんな挨拶はまずしないが)。本当に「儲かっているか?」と知りたいから聞くわけでもない。これは、少なくとも東京よりも古くから都市生活を営んできた生活者同士の知恵なのだと思う。互いに商売人同士であれば、相手の商売はうまくいっているのかは最大の関心事に決まっている。当然、相手に不躾に「儲かっているか?」などは、よほど仲が良い友人でもなければ聞けるわけもない。その核心に「触れない」のではなく、さらりと挨拶のような軽いコミュニケーションがお約束になっているところが、大阪人ならではの知恵と歴史が生む懐の深さでもある。(くれぐれも日常では使わない挨拶なので、大阪以外の土地の人が初対面の関西の人にむやみに使ってはいけない…)

とかく我々は日常生活で相手が答えにくい質問をしてしまう時がある。よほど聞かねばならない事情がある場合以外は、これには気を付けたい。

芸能人や大阪の商売人の例をあえて出したが、中小企業経営者に「今の景気はどうですか?」と聞けば、良くても悪くても「あまり良くはない」あるいは「まあまあです」としか答えようがない。「絶好調です」とも言えない。「倒産しそうです」とも言えない。事実とは違うと指摘するのは野暮なので、そこは空気をよみたい。

就活生への面接で「当社は第一希望ですか?」というのも、いい加減にやめた方がいい。本当のことを答えたとしてどうなるのだろう。「御社が第一希望です」としか答えようがない。

転職の面接の際の質問で「前職を辞めたいと思ったのは何故ですか?」という問い。まさか「ブラック企業だったから」「上司のパワハラが酷いから」「給料が安すぎて生活が苦しいから」…などは本当であったとしても絶対に言ってはならない。「御社にて新しいチャレンジをしてみたいと以前から思っていたが、やっと機会を得られた」などが模範解答なのだろうか。

そして結婚式での神父さんの言葉。「あなたは永遠の愛を誓いますか?」もっとも、これは「はい」と答えるのが、今も昔も最善であろう。

<著者プロフィール>片岡英彦1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。(現 株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役)主に企業の戦略PR、マーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2011年から国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立代表理事就任。