『小説検定』南陀楼綾繁/新潮文庫

写真拡大

大槻ケンヂのバンド小説『■ラバーソウル』の■にはいるブルーハーツの曲名は?
1954年に永井荷風が電車のなかでなくした預金通帳の残高は?
〈蕎麦は正午に食べないとうまくない〉って言った作家ってだれ?

これは『小説検定』(新潮文庫)にあった問題だ。
《yom yom》で連載されてきた南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)さんの『小説検定』が本になった。
小説や、ひいては文学作品、さらには文学者にかんするクイズ集だ。出題形式は選択問題、あるいは選択肢同士を結びつけるスタイルになっている。
ところで《yom yom》って、yomとyomとの間にスペースがあるのが正しいみたい。以前からどっちなんだろうって思ってたけど。

文学についてのクイズって、じつはそうそうおもしろくなりにくい。マニアックな「トリビア」的知識だったら、クイズにしないでそれ自体を蘊蓄として読んだほうが楽しいに決まっている。
南陀楼さんは「不忍ブックストリート」一箱古本市の仕掛人でもある。
南陀楼さんとか『蔵書の苦しみ』(光文社新書)の岡崎武志さん、あるいは『定本 古本泣き笑い日記』(みずのわ出版)の山本善行さん、『本と怠け者』(ちくま文庫)の荻原魚雷さん、そして『ボマルツォのどんぐり』(晶文社)の扉野良人さん、といった古本男子の文章が読んでて楽しいのは、彼らの該博な知識──なにしろ、彼らの本にはこちらが知らないことばかり出てくるのだ──がただの情報などではなく、書物への個人的な愛情に発したものだからだと思う。
文学や出版にかんする知識というのはそういうものなのだ。

ところが南陀楼さんは《yom yom》の『小説検定』で、選択式クイズという思いっきりはじけた形式にチャレンジしてきた。
本書は、クイズのテーマにしたがって「食べ物」「動物」「青春」「旅」「恋愛」「お金と仕事」「家族」「音楽」という8部門から構成されている。
各部門がさらに、初級・中級・上級各6問からなっている。だから6×3×8で全144問。
上級問題ともなると、さすがに全問正解は難しい。
上級問題で印象的だったのは、「動物」篇上級の問5だ。

〈飼った猿に代々「三ちゃん」と名づけ、可愛がった時代小説家の子母沢寛〔しもざわかん〕。彼が心筋梗塞で急逝した翌日に見るつもりだった映画は?

  A 猿の惑星 
  B モンキー・ビジネス
  C 丹下左膳 こけ猿の壺
  D 猿飛佐助〉

えええー!? これのなかのどれかが正解なの? ホントに?
なんて人生だ子母沢寛!
神さまも1日くらい待ってやれよ、楽しみにしてたんだから!
もそも《新選組》3部作(1928-55、のち中公文庫)やNHK大河ドラマの原作『勝海舟』(1953、のち新潮文庫)また三隅研次『座頭市物語』(勝新太郎主演、1962)の原案となった『ふところ手帖』(1961、のち中公文庫)などで知られる子母沢寛が猿好きだったことも知らなかった。

あと「食べ物」篇上級の問2もいい。

〈次に挙げる料理名が入ったタイトルのうち、小説として存在しないものは?

  A 『やきそば三国志』
  B 『かつどん協議会』
  C 『冷やし中華太平記』
  D 『支那そば館の謎』〉

各テーマの末尾には、3ページのコラムがついている。「青春」問題のコラム「青春記よ、よみがえれ!」では、小説家をはじめとする著名人の青春記回想エッセイのおもしろさを語り、
〈私が中年になったせいか、読者の需要が変わったのか、最近、現役作家による青春記をあまり目にしないようだ(その代わりと言うべきか、テレビドラマ化された島本和彦の『アオイホノオ』をはじめ、小林まこと『青春少年マガジン1978〜1983』、吉田聡『七月の骨』など漫画による青春記は多い)〉

とか、椎名誠『哀愁の町に霧が降るのだ』(小学館文庫)について、

〈本作でだらしない連中をまとめる木村晋介は、〈トキワ荘〉におけるテラさん(寺田ヒロオ)にあたる存在なのだ〉

といったような指摘がいちいちグッと来る。また「音楽」問題に附したコラム「ブラバン小説万歳!」では、直木賞作家・有明夏夫に『俺たちの行進曲』(文春文庫)というブラバン青春小説があることを教えてもらった。なにそれ興味あるんだけど!

ところで、あとがきで南陀楼さんはこう書いている。
〈作品としては面白いのにうまく問題にならないということで、泣く泣く外したものもあって、「検定」という形式なりの苦労もあります。じつは、難問をつくるよりは、誰でも答えられる易しい問題を面白く見せる方がタイヘンなのです〉

そうだよねー。知識があってクイズに答えられる人は多いけど、「クイズを作る」という作業にはまた、べつのセンスが必要なのだ。
〈誰でも答えられる易しい問題〉のなかで、僕が好きなのは、やっぱり「青春」篇初級の問2かな。よく思いついたなー。

〈司馬遼太郎が『燃えよ剣』で描いた集団は?
   A 山口組
   B 新選組〉
(千野帽子)