『ワセダ』

 90回目を迎えた伝統の早明戦の前日。恒例のジャージ授与式の際、早大の後藤禎和監督は決意の寄せ書きの模造紙のど真ん中にこう、黒字で書いた。

 後藤監督が説明する。「僕は初めて、"ワセダ"をゲームのキーワードに使いました。早明戦が、ラグビー界で一番注目される形で続いてきたことを尊重する。それを今週、みんなで考えてきた。ワセダのDNA、伝統、文化、プライド......。そういうものを背負ってやる戦いだったのです」と。

 師走の7日。東京・国立競技場が改築されるため、1972(昭和47)年以来、42年ぶりに秩父宮ラグビー場で開催された。早明のOBらも多数駆けつけ、スタンドはほぼ満員の2万2千の観客で埋まった。37−24。早大が下馬評を覆(くつがえ)した。

 後藤監督が小さく笑う。「みんな、絶対、向こうが勝つと思っていたでしょう。その中で勝つのって気持ちいいですね」
 
 早大は変わった。先発のSO(※1)に大ケガから復帰した1年生の横山陽介(神奈川・桐蔭学園高)が入り、これまでSOだった小倉順平がCTB(※2)に回った。さらにエースの日本代表、藤田慶和がFB(※3)で今季初めて先発出場した。

※1 スタンドオフ。スクラムやラックなどの密集からボールが出てきたときに最初にボールを受け取るポジション
※2 センター・スリークォーターバック。SOからウイングへパスを回す中継役。自ら突破を仕掛けるスピードも求められる
※3 フルバック。最後尾に位置して、バックスを統率。攻守にわたって、要のポジション

 試合前の校歌斉唱。藤田は笑っていた。6月の日本代表戦で右肩を負傷し、ようやくの一軍戦復帰である。試合後、述懐する。

「ワセダの試合が久しぶりだな、と思っていました。こんな大歓声の中でプレーできるのは幸せだなって。114人(の部員)がいる中で、23人しかアカクロのジャージを着て、校歌も歌えないのですから」

 そのエースが、反撃ののろしを上げる。明大に7点をリードされた前半28分、フェアキャッチから素早いリスタートでカウンターを仕掛け、個人技で40メートルほど大幅ゲインし、右側のポイントから左に回した。最後はSO横山からCTB小倉にボールが渡り、小倉が快足を飛ばして左隅にトライ。ゴールも決まり、同点に追いついた。

 その後も、早大ラインはよく前に出た。バックスのキーワードのひとつが「ストレート・ラン」。基本である。SO横山が効果的なキック、長くてはやいパスを出せば、CTB小倉はスペースを見つけてはタテに切り込んでいく。藤田も自在に走り、明大ディフェンスをほんろうした。

 藤田が振り返る。「ぼくの判断は悪かったのですが、チームとしてはいい試合ができて満足しています。この1週間、ワクワクしていました。大歓声の中で楽しめたので、よかったと思います」と。秩父宮ラグビー場での早明戦。歓声の量は国立に劣るだろうが、「観客が(フィールドに)近くて、いろんな声も聞けて楽しかった」という。

 ルーキーの横山はこうだ。「学校のプライドをかけた戦いというのがメチャクチャ印象に残りました。リラックスしてゲームを楽しむことができました」

 実は、藤田がチームに戻って、小倉も早朝練習に取り組むようになっている。午前6時半頃から30分間。ハンドリングとコミュニケーション、判断を磨いている。小倉が笑いながら説明する。「スキルが低いので。個性がそれぞれあるので、長所を互いに生かしながらやるのが大事なのかな、と思います」

 もちろん、早大バックスが機能したのも、FWの奮闘があったからである。とくに勝負どころの後半25分からのゴール前ピンチ。ラインアウトからの明大モールをつぶし、スクラムでは8人が結束して押し返した。これこそワセダのプライドの結晶だった。

 まだラインアウトやハンドリングの精度など課題も多いが、大一番で持ち味を出したことは大きい。新布陣への自信も膨らむ。主将のロック大峯功三は言い切った。「この勝利でチーム力が上がったと思います」

 対照的に明大は"らしさ"を発揮できなかった。武器としてきたスクラムで圧力をかけられず、ディフェンス、キック、キックチェイスとも雑だった。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)も、ボールキャリアが踏ん張れず、2人目、3人目のリアクションも遅かった。あっさり先行したため、どこかに慢心が生まれたのかもしれない。

 明大の丹羽政彦監督は手厳しかった。「今シーズンの中で一番ダメな試合でした。自分たちのラグビーをまったくできませんでした」と。救いは、大物ルーキー、CTB梶村祐介(兵庫・報徳学園)の鋭いランか。

 梶村は「まだ80分間、MAXで走れる体じゃないと思いました」と反省する。

 ただ明治もFWが前にラッシュしたときの迫力は凄まじかった。バックスもスピードがある。やはりスクラムさえ押せれば、大きく変わる可能性を秘める。カギは、「ひたむきさ」と「まとまり」か。

 早大も明大も、全国大学選手権2次リーグでは難敵が待ち構えている。課題をどう克服し、チームを意思統一していくのか。『打倒!帝京大』、いや、まずは正月明けの準決勝(1月2日)進出に向けた厳しい戦いが始まる。プライドをかけて。 

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu