「吉野家HP」より

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 吉野家ホールディングスの牛丼チェーン、吉野家は「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」の第2弾を10月29日に発売した。牛肉を熟成させて赤身のおいしさを引き出したほか、タレのうまみを増すといった改良を加えた。輸入牛肉の値上がりを受け「並盛」の税込価格を第1弾より40円高い630円とした。

 昨年12月に売り出した第1弾は、今年5月末までの6カ月間に1400万食を売る大ヒット商品となったが、同社の業績改善の立役者となっただけではない。ライバルであるゼンショーホールディングス傘下のすき家の店舗を閉鎖に追い込むという思いがけない副作用をもたらした。吉野家は2度目の「牛すき鍋」効果を狙う。

 吉野家は昨年12月5日、「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」を全国発売した。「牛すき鍋膳」は吉野家の牛丼の源流といえるもので、牛肉や野菜、豆腐などを甘口タレで煮込んだものだ。吉野家として初となる、火のついたコンロに鍋をのせて出す商品だ。牛丼といえば急いで食べるというイメージがあるが、早さ重視の牛丼チェーンでは初の試みだった。並盛590円と通常の牛丼より300円も高かったが、家族連れなどの幅広い層から好評だったという。

 13年12月の既存店売上高は前年同月比16.0%増となった。「牛すき鍋膳」の効果で14年1〜3月の既存店売上高は連続して前年同月比2ケタ増を記録した。これにより同社の業績は好転。14年2月期の連結売上高は前期比5%増の1734億円、営業利益は16%増の21億円と、減益予想から一転して2ケタの増益となった。

 4月の消費増税後、既存店売上高はマイナスに転じた。中でも客数の減少が大きく、冬場の人気メニュー「牛すき鍋膳」の投入で客の呼び戻しを図る。15年2月期連結決算は売上高が0.9%増の1750億円、営業利益は51.4%増の33億円と増収増益の予想を立てている。

 第1弾で既存店売上高は2ケタの伸びを記録したが、第2弾が同じような伸びを達成するのは至難の業だ。11月の既存店の売上高と客数が「牛すき鍋膳」効果を占う試金石となっていたが、前年同月比19.5%増と大幅に伸び4カ月連続のプラスとなった。ゆっくりと食事をしたい高齢者や女性客を呼び込んだようだ。ちなみにすき家は同1.4%増となり7カ月連続で前年実績を上回り、松屋フーズの「松屋」は同0.9%減だった。

●すき家、店舗閉鎖と初の営業赤字に

 吉野家とは対照的に、すき家は「牛すき鍋」に足元をすくわれた。吉野家の成功を受けて、すき家はすき焼きを約10年ぶりに復活させ、今年2月14日からすき焼きをメインに据えた鍋商品3商品の全国販売を始めた。

 価格は「牛すき鍋定食」が580円、「とろりチーズカレー鍋定食」と「野菜たっぷり牛ちり鍋定食」は650円。同社の定食としては最高価格だ。牛丼は工場である程度調理済みのものを店舗で温めて提供していたが、店頭での仕込みの手間が格段に求められる。すき家はコストを下げるためにぎりぎりの人員しか配置してこなかった。1人で勤務する「ワンオペ店」では時間と手間がかかる鍋商品がメニューに加わったため、激務に耐えかねアルバイト店員が大量に辞め、これが一部店舗の閉店につながった。

 労働環境に批判が強まり新規のアルバイト店員を採用できず、今年4月、最大で123の店舗が営業できない状態となった。これを受けゼンショーの小川賢太郎会長兼社長は第三者委員会(委員長・久保利英明弁護士)を設置し、改善策を求めた。7月31日、同委員会は調査報告書を公表し、深夜の時間帯におけるワンオペの解消を求めた。

 ワンオペ解消は業績を直撃した。15年3月期連結業績予想を大幅に下方修正し、売上高は157億円減額して5092億円、営業損益は98億円減額して17億円の赤字に転落する。13億円と見ていた最終赤字は6倍近い75億円に拡大する見通しだ。

 10月から深夜のワンオペを取りやめ、対応できない店舗は深夜営業を休止したが、この一連の措置による収入減と費用増のダブルパンチで収支の悪化が避けられない。さらに牛肉などの資材高騰も追い打ちをかけた。ゼンショーにとって営業赤字・最終赤字は1982年の創業以来初めて。年間8円を予定していた株主配当も初めて見送り、ゼロとする。その挽回策として、11月27日から「牛すき鍋定食」の販売を開始した。価格は734円(税込)。今冬の吉野家とすき家の「鍋対決」は、どちらに軍配が上がるのか、注目が集まっている。

 吉野家の14年8月中間期(3〜8月)連結決算の売上高は前期比2.5%増の889億円、純利益は4.3倍増の9億円と増収増益だった。消費税が引き上げられた4月、牛丼並盛280円という業界横並びの価格設定が崩れた。吉野家は300円に値上げしたことが収益を押し上げた。

 松屋フーズは280円から290円に値上げ、すき家は270円に値下げしたが、15年3月期に赤字転落する見通しとなったため牛丼メニューを一律で20〜40円値上げした。

「牛丼は500円時代になる」(外食業界関係者)ともいわれる中、デフレ時代の勝ち組だった牛丼業界は大きな変化の過渡期を迎えた。
(文=編集部)