12月5日に開幕した柔道グランドスラム東京。注目された新旧対決は、男女ともに新勢力が勝利する結果になった。

 最初は男子66kg級準決勝、ロンドン五輪3位で世界選手権は3連覇中の海老沼匡(パーク24)に、高校2年の阿部一二三(神港学園高)が挑戦する試合だった。中学生の頃から「将来の金メダル候補」と期待されていた阿部は、今年のインターハイを制してユース五輪でも優勝した。10月の世界ジュニア選手権では逆転負けを喫したが、シニアとの対戦だった11月の講道館杯では優勝と一気に頭角を現してきた選手だ。

 この試合で先手を取ったのは海老沼だった。開始30秒に内股返しで"有効"を奪った。さらにその直後にも阿部に"指導"が出される。

 阿部はこの試合をこう振り返る。「最初に組んだ時は『すごい強いな』と感じて。それで前半は様子を見て相手につきあってしまったので有効を取られた。でも後半に入った時にこのままでは勝てないなと思い、自分のいいところでもある前に出る柔道をやったら相手がすごく嫌がったというか、圧力がかかり、それが技ありにつながった」

 海老沼は「今日は頭を使った柔道ができなかったので、いつかは負けるだろうなと思ってやっていた。阿部との準決勝は最初に有効を取ったので守りに入ったが、その時点で負けていました」という。

 前に出る柔道に転じた阿部は「相手が返そうとしてきたけど重心が後ろにかかっていたのでちょうどタイミングがあった」と、4分14秒に大内刈りで"技あり"を奪い、海老沼を下した。

 そして「世界ジュニアで負けて悔しかったが、外国人選手との試合で組み手や気持ちの面で落ち着いてできないという課題が残った。でも今日は相手の 組み手や動き、技がすごくよく見えたので、その面では成長できたと思います」と言うように、決勝でもゴラン・ポラック(イスラエル)を相手に1分42秒に 大外返しで"有効"を獲得。
その後も攻め続けて付け入る隙を与えず、シニアの国際大会で初優勝を果たした。

「海老沼さんとの試合は思い切っ た柔道をして楽しんで、世界チャンピオンの強さを経験できたらいいなと思っていました。今日の自分は失うものもなかったから、気持ちの面でも落ち着いて自 分の柔道に集中できた。東京五輪ではもちろん金メダルを狙うが、今大会の優勝でリオデジャネイロ五輪も近づいてきたと思うからリオでも優勝を狙ってみた い」

 こう話す阿部を井上康生男子監督は「今日は怖いもの知らずで行けたが、プレッシャーを感じるようになってからどう成長していくかが問 題。技の数を増やしたりそれを磨いていくなど伸ばさなければいけないところはあるが、大きな可能性を持った選手であるのは事実。3位決定戦で負けた海老沼 も1大会で2度負けたのは久しぶりだろうから、それをエネルギーにしていくと思う」とこれからの二人に期待する。

 一方女子48kg級の新旧対決は頂上決戦でもあった。浅見八瑠奈(コマツ)は10年と11年世界選手権を連覇して13年は2位。対する19歳の近藤亜美(三井住友海上火災)は今年の世界王者。ともにオール一本勝ちで決勝まで駒を進めていた。

 浅見は昨年の世界選手権で右ひじ靱帯を痛めて以降休養し、今年8月の実業団個人選手権で復帰すると、11月の講道館杯で優勝。それに対して近藤は4月の全日本体重別初優勝のあとは、8月の世界選手権だけでなく10月の世界ジュニアでも優勝して波に乗っている選手だ。

 その勢いは決勝でも前半から出た。試合開始早々は、近藤が突っ込んで激突するような組み手に。

「釣 り手を持ったら絶対に落とされるのはわかっていたので、相手をつかんだら迷わずに思い切ってというのが今日の目標だった」と近藤が言うように、開始11秒 で巴投げを仕掛けた。「巴投げをかけてくるのわかっていた」と言う浅見もいったんは耐えたが、そのまま強引に体を返して近藤が"有効"を奪った。

 その後は浅見の組み手の上手さに試合をコントロールされる場面もあったが、「有効で終わるつもりはなかったので下がる気持ちはなかった。浅見さんは組み手がうまいが、前に圧をかけてそれを封じ込めるつもりだった」と反撃する余裕を与えずに押し切った。

「浅見さんとは初対決だったので、自分はチャレンジャーだと思って立ち向かった。今回はポイントを取って勝つのが目標だったけど、それができたので次に対戦するときは一本を取って勝ちたい」

 そう話す近藤は昨年、この大会で優勝して次への道を切り開いていた。

「去年はこの大会で一歩飛躍したけど、まさか(優勝まで)いけるとは思っていなかったし狙って獲ったものではなかった。今年はしっかり狙って結果を出せたから、来年も狙って獲る年にしたいと思います」という。だが浅見との戦いで、彼女のスピードや組み手の厳しさを改めて感じ、「パワーだけではやっていけない」ということも感じたと言う。

 それに対して浅見は「今回が3試合目だが、(私も)回数をこなすごとに良くなって来ていると思うし、これからもっと積極的に挑戦者として戦うことができるのではないかと思った。近藤さんと戦って勝てるかどうかはわからないが、もう一度やりたいという気持ちはあります」と勝気な気持ちを見せる。

 南條充寿女子監督も「有効を取ったあと、両者とも指導がひとつも出ないいい試合だった。近藤は昨年のこの大会で優勝して世界の頂点までいったが、同じ大会で結果を残せたのは自信になるはず。浅見も1試合目はもたついたが、そのあとは吹っ切れたように持ち味と強さを出せていた」と評価する。

 今回は若い選手が勝った男女の新旧対決。これからリオデジャネイロ五輪へ向けて、さらにその戦いはヒートアップしていきそうだ。

折山淑美●取材・文text by Oriyama Toshimi