NHKフィギュア名物、オネエ解説「豊の部屋」が消えちゃった!
 グランプリシリーズ中国大会でのショッキングな事故で負傷した羽生結弦選手。その演技に注目が集まった今年のフィギュアスケートNHK杯。しかし長年のフィギュアファンの間で、それ以上に話題となっていたのが解説者・樋口豊氏(65歳・元男子フィギュア選手)の不在だったかもしれません。

◆ねっとり「豊の部屋」はどこへ?

 NHK杯の中継は長きにわたってこの樋口氏と刈屋富士雄アナウンサーとのコンビが鉄板でした。スケーティングにまつわる豊富な知識、それに基づいた選手とのディープな会話。しかしときにユーモアを交えた軽妙なやり取りも楽しい名物コーナー「豊の部屋」は、もはや深秋の風物詩と言っても過言ではありませんでした。(※ネット上にいっぱい動画が残ってます)

「豊の部屋」は、客席に設けられたセットに一人一人招かれた選手が豊と対面形式で演技を振り返るという、いわば煉獄のような企画でした。「ん〜、ここちょっと失敗しちゃったねぇ」と、人差し指の腹で肩をなでなでするように語り掛ける豊。言いよどむ選手に「どうしちゃったのかなぁ」と耳元で息を吹きかけるようにして、さらに責め立てる豊。

 しかしそうして昇天寸前まで追いつめながらも、最後には必ず優しくフォローする。「次はもっと上手にできるからがんばろうねっ!」。そんな飴と鞭を使い分ける高等テクをライブで感じられる。それこそが「豊の部屋」の醍醐味だったのです。

 秋も深まった夕暮れに、私達はこのようなやり取りを目にすることで「今年もそろそろ終わりだな」と感じることができました。

◆女子力の織田も、豊の熟女力にはかなわない

 ところが今年、出演者が一新されてしまったのです。メインの解説者に織田信成、鈴木明子といった現役を退いたばかりの二人が起用され、浅田舞がリンクサイドのレポーターを務めるなど一気に若返り。豊と富士雄のねっとりムーディーなトーンから、爽やかな緑風へと劇的に様変わりした光景にうろたえたファンも少なくないのではないでしょうか。

 となると注目はここのところ「高い女子力」が売りの織田信成。競技の一線から身を引き、タレントへと転身して一気に才能が開花した様子ですが、今回の解説でもその一端を垣間見ることができました。選手思いで決してネガティブなことは言わず、励ましエールを送ることに重心を置いたコメントは、生放送の制約の中で慎重に選び抜かれた言葉でした。ただし誰を傷つけることもない安心感がある反面、やはりそこに物足りなさを感じてしまったのもまた事実。

 なぜなら、私達はすでに豊の熟女力を知ってしまっているからです。あのソフト・アンド・ウェットで濃密な空間がないままに、2014年の秋が終わろうとしている。なんだか締まらないのです。

 今大会女子シングルで優勝したグレイシー・ゴールド選手が、表彰式のあと放送席へ招かれインタビューを受けました。しかし信成、鈴木明子はおろか、一柳亜矢子アナウンサーまでもが話を広げることができませんでした。ああ、ここに豊(プラス富士雄)がいたならば。どの世界にも新陳代謝は必要ですが、ことNHK杯フィギュアにおいてはまだまだ樋口豊氏の力が必要である。それを痛感させられた大会でした。

<TEXT/沢渡風太>