『放蕩記』(集英社文庫)

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 9歳年下の夫と再婚して軽井沢でラブラブ生活を送っていたはずの売れっこ作家・村山由佳が2度目の離婚をしていた──。

「婦人公論」(12月7日号)のインタビューで、村山は自身の離婚について告白した。だがそれは「『結局、オレはポイ捨てかよ』 彼の言葉が胸に突き刺さる」というタイトルにあるように、赤裸々なものだった。

「私たちの間には、お金に関するいくつものトラブルがありました。そのことで、信頼関係が根底から覆されてしまった」

 村山は2003年に「星々の舟」で第129回直木賞を受賞、その後も夫以外との性愛を描いた「ダブル・ファンタジー」や母親との葛藤を描いた「放蕩記」など、自身の内面をモチーフにした作品が高い評価を浴びる売れっこ作家だ。特に「ダブル・ファンタジー」はそれまで少女の青春恋愛ものから作風を一変させ、女性の奥底に蠢く性愛、複数の男たちとの官能的な描写がちりばめられた作品であり、その後の村山の作風を決定づけた作品でもあった。そしてこの作品を執筆中の07年、17年寄り添った最初の夫と離婚、今回離婚することになる9歳年下の男性と再婚した。

 その後も自身の内面に抱えた"性へのドグマ"をテーマにした作品をいくつも世に出し続ける村山だが、その陰には村山自身「男度が高い」といつもノロけていた再婚相手の夫の存在があった。いや、そうだったはずだ。そんな2人に一体なにがあったのか。

 村山は「婦人公論」インタビューでいくつかの事例をあげ、こう話している。

「彼はもともと小説家志望で、私と出会った後、仕事を辞めました。形のうえは私の事務所の社長で、お金に関しては自由でした」

 村山を知る文芸関係者によると、「結婚前はバーテンなど水商売していた村山さんの夫は野性的でワイルドなタイプ。でも事務所社長とはいっても実際には作家のマネージメントや秘書的な仕事はしていなかった」という。いわば夫はほぼ無職で、生活費などすべては村山の腕にかかっていたらしい。実際、村山のインタビューでも金銭的な葛藤、そして仕事のない夫のプライドが結婚生活に陰を落としていたらしい。

「妻が一家の稼ぎ手で夫には収入がないという状態でありながら、男としてのプライドを保つのは、きっと彼でなくても難しいことですよ」
「最近の私は、自分の限界を超えるほどの仕事を引き受けていたけれど、出て行くお金が多くて、働けど働けど、な状態でした」

 こうした状態が夫への不信感にも繋がったと村山は言うが、小説家志望だったにもかかわらず、その夢がどうやら叶うことはなかった夫の立ち位置も大きかったようだ。

「常に小説という魔物と向き合う私が、人一倍モラリストのくせに一方でモラルなんてくそくらえと思っていることなども、彼はすべて知っていましたから、いっしょにいてしんどかっただろうなと思います」

 そんな鬱屈した夫は借金や浮気に走ってもいく。

「『女遊びしたのも借金を作ったのも、どこか由佳への復讐みたいな気持ちがあった』と淡々と言われた時、ああ、それは男の人としてすごく自然な感情だな、と思えました」

 だが、誤解を恐れずに言えば、村山が夫の女性関係や金銭問題程度で離婚を決意するとは思えない。実際、村山は結婚当初、夫が抱えていた借金を肩代わりしたこともあったし、結婚後、夫が仕事を辞めることに問題を感じていた節はない。もうひとつ指摘すれば、村山は最初の結婚の際も、夫を自分の事務所社長に据え、マネージメントや秘書的役割を与えている。

 今回も、夫をスポイルしたのは、村山自身ではないのか。しかも、村山自身は2番目の夫に影響され、大型ハーレーに乗り、胸にタトゥーを入れるなど大きく変わった。そんな夫をその程度で手放すはずがないのでは、と。

 インタビューで村山は、いくつもの問題があり、それらが積もり積もったものがある日溢れてしまったと語っているが、しかし離婚の最大の鍵は村山作品に象徴される女性としての"性愛""官能"の部分にあると思えるのだ。告白記事の中に、こんなそれを思わせるこんな記述も存在する。

「私の望みは『私を女にしておいてね』ということだけでした。恋愛のことを多く小説に書いている私にとって、それは創作の原動力であり、根源的な問題です」

 しかし現実はまた、村山の思いとは裏腹のものだったという。

「実際の関係としては、かなり早い段階から男と女ではなくなっていた」

 村山は以前、再婚直後のインタビューで夫、そして自らの性についてこう語っている。

「性は、私のなかでとても大きなものでした(略)私はまだ極めていない、知らずに死ねるか」
「私、たぶん、殺されても死なないくらい生命力が強いと思います。それくらい性欲が強いのです(笑)。」(「婦人公論」09年2月22日号)

 その上でそして2番目の夫との"性"に関しても同インタビューでこう語っていた。

「身体だけでなく気持ちまで達してしまうセックスを経験してしまうと、それに勝るものはないというのが実感です。満たされてますよ。でも、もっと上があるかもしれないし、フフフ」

 しかし2度の結婚生活も、村山が当初思い描いていた理想とは違っていた。そしてセックスレス──。日常生活の中、夫は村山を「女にしておいて」くれなかったのだ。

 しかし作家としての村山に、今後の心配はないだろう。最初の離婚で新境地である「ダブル・ファンタジー」を発表し、母親が認知症になり、母親からの呪縛が解けたことで初めてその実像を「放蕩記」に描く。

 村山は自らが抱える性やドグマ、体験を肥やしに、実生活に近い作品を赤裸々に描き上げる数少ない作家だ。抑圧から解放された時、その真価をどう発揮するのか。

「東京での仕事が増えて不在がちになった私に対して、(夫は)何らかの疑いはもっていたと思います」

 新たな相手を予感させる意味深なことを語った村山。2度の離婚を経験した今後の新境地に期待したい。
(林グンマ)