『トイ・ストーリー4』でも登板?ランディ先生が哂うチープな“愛国心”
 ここ最近“日本の底力を再発見”的なテレビ番組が増えていることに気付いている人も多いかと思います。そういった番組の多くは、「世界が驚いた」だとか「世界が認める」だとかいったフレーズを冠している。“日本のダメさ加減を徹底的に語りつくす”番組が多数を占めていた数年前の状況を考えると、隔世の感があります。

 それでも日本人による日本人のための、このあけすけな“日本アゲ”には「ちょっとやりすぎじゃないの?」と、こそばゆくなってくるのも事実。良きにつけ悪しきにつけ、どうしてこうも極端に振れてしまうのでしょうか。

◆ランディ・ニューマンの真骨頂は……

 先日、続編はないと思われていた映画『トイ・ストーリー4』の製作決定のニュースが報じられました(2017年公開)。このシリーズの過去3作すべてで音楽を担当してきたのが、アメリカのシンガーソングライター、ランディ・ニューマン。

 彼のソロワークは映画での仕事に比べると一般的にはあまり知られていないのですが、薄っぺらな自尊心と熱っぽいようで冷え切った愛国心がマジョリティとなった世界を描かせたら右に出る者はいません。彼が過去に残してきた名曲から、このいまの日本を支配しつつある奇妙で脆いプライドの謎を解く鍵が見つかるでしょうか。

◆俺たちの国を気に入らないヤツらはブチのめせ

 1972年に発表された彼の代表作『Sail Away』に収録された「Political science」では、ゆるいラグタイム調の曲に乗せて、「俺らのことが気に入らない奴らには、デカいのを一発お見舞いしてやれ」というアメリカの外交政策が揶揄された詞が歌われています。

<We give them money ? but are they grateful ?
奴らにはカネをくれてやった でも感謝されてるか?

No, they’re spiteful and they’re hateful
とんでもない、いつまでも意地悪でどこまでも憎たらしい連中だ>

 だから「デカいのを一発お見舞いして」、完膚なきまでに叩きのめしてやれと歌詞は続きます。登場する国をいろいろと置き換えれば、少し胸の痛む話ではないでしょうか。

 しかしランディ・ニューマンは、この短小なマチズムを音楽で成敗しています。「どデカいの」をあざ笑うかのように、キュートなピアノの高音で曲が締められている。その爆弾は、“チャリ〜ン♪”程度の威力だよ、と。

⇒【YouTube】Randy Newman‐Political Science from Live in London http://youtu.be/gAElK16OkjQ

◆自分自身よりも大きなものを信じることができるのなら

 本人の言葉によると「Political science」は、「狂信的排外主義をからかうこと」がその主旨だといいます。しかしその16年後に発表された「Follow the flag」(アルバム『Land of dreams』収録)という曲では、作者の視点は詞、曲の両面においてさらに抑制され、その解釈の多くが聴き手にゆだねられています。それでもキーとなるフレーズで、ヒントがほのめかされている。

<If you can believe in something bigger than yourself
もし自分自身よりも大きなものを信じることができるのなら

You can follow the flag forever
死ぬまで国旗を追い続けられるだろう>

 曲は「Political science」にあったユーモアが封印され、国歌のように荘厳です。しかし、その曲の大きさ自体に危険があることが示唆されている。つまり、美しく荘厳なメロディに気持ちを高揚させる効果があり、永遠に国旗を追い続けてもかまわないと決意させてしまうかもしれない。明治生まれの作曲家・信時潔が戦中「海ゆかば」について思い悩んだことにも通じるでしょうか。

⇒【YouTube】Randy Newman‐17 Follow The Flag(Jazz Open 06) http://youtu.be/vot72b6UobM

◆自分の国をそんなに悪く言うなよ

 こうしてチープな尊厳を冷やかすだけでなく重たい問いをも投げかけてきたランディ・ニューマンですが、現時点での最新作『Harps and angels』に収録されている「A few words in defense of our country」では「我々のいただいてきた最低の指導者も、世界史を振り返ればかわいいものだ」と言って、曲名の通りアメリカを擁護しています。ヒトラーやスターリンといった名前に続いて登場する、ベルギーのレオポルド2世について歌ったフレーズは傑作です。

<King Leopord of Belgium,that’s right
レオポルド2世を忘れちゃいけない

Everyone thinks he’s so great
みんなあの王様が偉大だと信じて疑わない

Well he owned The Congo and he tore it up too
コンゴを占領してめちゃくちゃにしたっけ

He took the diamonds He took the silver He took the gold
ダイアモンドを奪って 金銀も根こそぎ持ってった

You know what he left them with ?
そのお返しでコンゴに何をあげたか知ってるよね?

Malaria
そう、マラリアだね>

 だからアメリカをそんなに悪く言うなよ、という意味で擁護しているのです。しかしそうまでしなければ肯定することのできない帝国なんてもう終わりだと、「さよなら、さよなら」というフレーズで曲は終わります。

⇒【YouTube】http://youtu.be/OldToIF5ZGs

 もっとも、テレビ番組でのちょっとした「日本すげー」の乱発は不況時の慰み程度のものなのでしょうが、そうした易きに流される状態を放置しておくと、後々その代償は大きなものとなるのかもしれません。ランディ・ニューマンの50年近いキャリアにおける楽曲の変化が、それを如実に物語っているように思います。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>