敵ながらあっぱれ。お見事! と、拍手を送りたくなったのが、ケーヒルのヘディングシュートだ。大阪・長居で行われた対豪州戦。その終了間際の出来事だが、それしかないと分かっていながら決められた日本代表を嘆きたくなる気持ちより、警戒されていたにもかかわらず、見事に叩き込んだケーヒルを讃える気持ちの方が勝る。

 身長178センチ。ラストパスとなったクロスボールを被ってしまった森重真人が183センチなので、ケーヒルの身長は彼より5センチ低いことになる。にもかかわらず、やすやすと決めた、ように見えた。決まって当然と言いたくなる、高々としたジャンプをした。

 単に強いのではない。ビディッチ、ぺぺ、コンパニ、チアゴ・シウバ等、体躯を活かした力感溢れるジャンプとは違う。軽やかに上方向へふわりと浮く。腰が軽そうに見える選手。ヘディングが強いと言われる選手の中でも、少し変わったタイプだ。真上にスッと、垂直跳びをしたように頭が出る。

 想起する選手は何人かいる。最近ではゴディンがその代表格。アトレティコのセットプレイが強力なのは、そのジャンプ力のおかげだ。

 元アルゼンチン代表名ディフェンダー、アジャラもその一人。身長は178センチだが、打点が高い。最高点まで一瞬のうちに到達する。その系譜を遡れば、同じく元アルゼンチン代表の名ディフェンダー、パサレラの名前が出てくる。身長は、さらに低く174センチ。こちらのヘディングは滞空時間が長かった。ふわりと浮いて上空で停止する。

 滞空時間の長いジャンプと言えば、元チリ代表のストライカー、サモラーノも忘れられない。長髪を靡かせながらの迫力溢れるジャンプは、鳥が滑空している姿を連想させた。身長174センチでありながら、本格派ストライカーの看板を維持したのは、そのヘディング力と大きな関係がある。

 その流れをいまに受け継いでいるのがファルカオ(178センチ)。サモラーノよりやや長身だが、長髪を靡かせ、荒々しくゴールに迫る様はそっくりだ。

 欧州でこの手のタイプは不思議にも少ない。あえて挙げるとすれば、178センチの元スウェーデン代表、ヘンリク・ラーションになる。こちらは、ヘディングのみならず、すべてのプレイが軽やかだった。

 アレックス、クローゼ、バラック、セルヒオ・ラモスなど、180センチ以上でも、腰が軽そうなスマートなジャンプをする選手はいる。日本人には絶対にいそうもないタイプになる。日本は低身長国。180センチ以上で、特殊な運動能力に優れた選手は少ない。彼らのようなタイプはまず存在しない。長身選手の武器は、あくまで身長差でしかない。例外は、原博実(現協会専務理事・183センチ)ぐらいだろう。

 とはいえ、170センチ台の選手に、そうしたタイプが数多くいるかと言えばノーだ。ケーヒル、サモラーノのようなタイプはいない。鹿島アントラーズで長く活躍した元日本代表選手、長谷川祥之(179センチ)。日本が誇る世界的ストライカー釜本邦茂(179センチ)。パッと思い浮かぶのは、この2人ぐらいだ。

 現代表で、空中戦が望めるのは、吉田麻也、森重真人の両センターバックがセットプレイで上がった時と、小林悠に少し可能性を感じる程度だ。あとは豊田陽平(185センチ)になるが、攻撃の流れの中に、立体感を出しにくい状況にある。W杯出場国の中で、日本の平均身長は後ろから3番目だが、ヘディングの強さ、立体感のある攻撃という点では、最下位にランクされることになるだろう。
 
 ケーヒルを見て、つい無い物ねだりをしたくなる理由だが、空中戦を好まない国かと言えば、あながちそうでもない。何よりザックジャパンがそうだった。ブラジルW杯で恥も外聞もなく、それを堂々と披露している。