アギーレジャパンを診断する
サッカージャーナリスト座談会(3)

年が明けるとすぐに、アギーレジャパンはオーストラリアで開催されるアジアカップに挑む。そこで、どんな戦いを見せてくれるのか、多くのファンが期待していることだろう。だが、チームを作り始めたばかりで、いきなり優勝などという結果を求めるのは、酷な話。では、どういった内容のサッカーを見せて、どれぐらいの成績を残せば"合格点"と言えるのか。再び杉山茂樹氏、浅田真樹氏、中山淳氏、3人のサッカージャーナリストに話を聞いた。

◆アジアカップ(2015年1月9日〜31日/オーストラリア)
グループA=オーストラリア、韓国、オマーン、クウェート
グループB=ウズベキスタン、サウジアラビア、中国、北朝鮮
グループC=イラン、UAE、カタール、バーレーン
グループD=日本、ヨルダン、イラク、パレスチナ
※各組2位までが決勝トーナメント進出


■"W杯組"に頼って優勝できなければ、監督はクビか?

――アギーレジャパンが1月、アジアカップに参戦します。今回の座談会の1回目(11月26日配信「迷走を始めたアギーレジャパン、最大の責任者は誰か」)に、日本サッカー協会(以下、協会)による、同大会の位置づけがはっきりしていないという話がありましたが、その話はひとまず置いておいて、みなさんはこのアジアカップで、アギーレジャパンに何を求めたいですか。

浅田:個人的な意見を言えば、アジアカップ優勝、ということに対しては、それほどメリットを感じていない。ゆえに、本来であれば、結果をそれほど問うこともなく、若い選手、新しい戦力をどんどん使って、アジアにおける厳しい戦いの中で、今後のための経験を積んでくれればいいな、と思っていた。ところが、11月の親善試合(6−0ホンジュラス、2−1オーストラリア)で、いわゆる"ブラジルW杯組"がチームの主流となって、そのメンバーでアジアカップにも臨みそうなムードになっている。そうした現状を踏まえると、アジアカップで何を求めるべきか、ちょっと難しい話になってきたよね。

杉山:僕も、アジアカップで優勝して、W杯前年のコンフェデレーションズカップ(以下、コンフェデ)の出場権を得ることについては、昔ほど重要だと思っていない。むしろその期間は、コンフェデに出ていない強豪チームと、できればアウェーで親善試合をやったほうがいいと思っている。結構、いいチームが残っているから、コーディネート次第ではかなりいい強化になると思う。そういう意味でも、アジアカップには新しいメンバーで戦って、地力強化を図るとか、経験を積むとか、そういったスタンスで臨んで、できるだけ多くの試合をこなせればいいんじゃないかと思っていた。準々決勝で十分だけど、準決勝まで進めたら、申し分ないよね。それが結局、11月のメンバーでアジアカップに挑むとなれば、決して先を見据えているわけではないから、誰もが結果を求めるようになる。アギーレジャパンにとっては、もう「絶対に負けられない大会」になってしまう。それって、かなりやばいと思うよ。万が一、準々決勝あたりで負けたら、目も当てられないことになる。コンフェデの出場権を得られなければ、何にも収穫がないってことになるから、アギーレ監督も、協会も、相当バッシングを受けるんじゃないかな。アギーレ監督は、立場的にもかなり危うくなっちゃうよね。

――実際、アジアカップは"ブラジルW杯組"中心のメンバーで臨むんでしょうか。

浅田:そうでしょ。だって、ホンジュラス戦が終わったあと、アギーレ監督は自身が考えうる「ベストの11人でオーストラリア戦に臨む」って言って、それが、あの(ブラジルW杯組中心の)メンバーだったわけだから。当然、アジアカップにはベストメンバーを連れていくだろうから、少なくともスタメンのベースになるのは、11月の2試合で起用した選手たちでしょ。もちろん、代表23名の顔ぶれは、11月のメンバーから多少は入れ替えがあるだろうけど。

杉山:しかもあのとき、なぜかアギーレ監督も急に「勝ちにいく」なんて言い出した。アジアカップでも、結果を出すつもりでいるんじゃないの。

――そうすると、アジアカップで結果が出なければ、アギーレ監督は解任、ということになりますか。

浅田:いやいや、その判断は難しいよ。結果が出なかった場合、すべてアギーレ監督の責任なのか、という話にもなってくるから。

中山:僕は、(アギーレ監督の解任は)アジアカップの結果だけで判断しないほうがいいと思っています。システムを4−3−3でやるのか、4−2−3−1でやるのか、誰をどこでどう使うのか、という采配を見て、判断したいですね。

杉山:それは、一理ある。

中山:例えば、僕が注目したいのは、MF遠藤保仁(ガンバ大阪)という駒の扱い。11月の2戦で遠藤は、4−3−3の中盤の2列目に、香川真司(ドルトムント/ドイツ)と並んで使われました。しかしオーストラリア戦の前半は、展開が悪かった。それでアギーレ監督は、前半途中からシステムを4−2−3−1に変えて、遠藤を2ボランチの一角に下げた。つまり、守備力に欠ける遠藤と香川を2列目の中盤で併用した場合、オーストラリアくらいのレベルが相手になると通用しないことがわかった。そのうえで、後半開始から、守備力の高い今野泰幸(ガンバ大阪)を遠藤に代えて投入した。この2段階の変更は、アギーレ監督が明らかに守備の改善を行なったわけです。それが最善と判断したことになります。にもかかわらず、アジアカップでも4−3−3のシステムで、しかも香川とセットで遠藤を中盤の2列目にスタメン起用してきたら、アギーレ監督はあまり自分の考えを貫くタイプじゃないんだなってことがわかる。この人は、考えがブレまくる人なんだな、と。そうしたら、マイナス評価になりますよね。要は、優勝とか、グループリーグ敗退とか、結果とは関係ないところで、監督の力量が見極められる要素が十分にあると思うんです。それによって、まだチーム力を伸ばせる監督なのか、それとも4年間指揮を執っていたらチームを停滞させてしまうのか、確認したい。アジアカップは公式戦だし、そういう"監督力"というものが初めて見えてくる大会なのではないでしょうか。

杉山:そうだね、監督の力量は結果だけでは推し量れない部分がたくさんある。そこを、我々はしっかりと見極める必要がある。

中山:オーストラリア戦での采配を考えたら、極端なことを言えば、遠藤はアジアカップのメンバーから漏れてもおかしくない。もしそれができれば、アギーレ監督は芯のある指揮官と、見ることができるかもしれない。

杉山:まあ、遠藤自身はいい選手だから23人のメンバーに入ってもいいと思うけど、もしスタメンで、それも主軸として使うようだったら、このチームの進歩はない。まして、中盤の2列目のポジションで、なおかつ香川と並んで起用されたら、その瞬間に「おいおい、ちょっと勘弁してくださいよ」って言いたくなる。明らかに、世間のムードに流されている証拠で、アギーレ監督は完全にブレまくる人ってことになる。

浅田:確かに、結果以外にも監督の力を見定めることはできる。ただ、アギーレ監督は、基本的に華麗なサッカーを目指しているわけじゃなくて、どちらかと言えば、現実的な戦いをして勝つタイプの監督だと思う。そう考えると、アジアカップで結果を出せなかった場合、内容で周囲を納得させるのは、結構難しいことかもしれない。要するに、ザッケローニ監督のときは、コンフェデのイタリア戦(3−4)で負けても、そのゲーム内容から「よくやった」と、多くのファンやメディアから支持を得たけど、アギーレ監督のサッカーでは、そういう評価は得られないんじゃないかな、と。

杉山:そこで、キーワードになるのは、遠藤だよ。遠藤をフルに使っていたら、この先のアギーレジャパンには期待できない。「ダメ」ってこと。もちろん、遠藤を別のポジションとか、状況によって起用法を変えてくるなら別だよ。でも、判で押したようにスタメンで使い続けていたら、未来はない。

中山:さっき言ったオーストラリア戦での采配で、少なくともチームの流れはよくなったわけですからね。それを踏まえれば、アジアカップで4−3−3を使うにしても、遠藤をスタメンから外していたら、采配に筋が通っていることになる。世間の空気にも流されていないと判断できるし、結果が出なくても希望はあるかな、と。その場合は、いきなりクビにしなくてもいいと思いますよ。

杉山:最初はアギーレ監督を応援しようかと思っていたんだけど、"ブラジルW杯組"を中心に戦った11月の2試合は、明らかに減点。世間のムードに流されちゃって、自らのチーム作りにブレーキを踏んじゃった感があるよね。流された理由は、アギーレ監督だけの問題じゃないと思うけど、形としてそう見えちゃう。それを払拭するためにも、アジアカップでは自分の信念を貫いてやってほしいよね。

■アジアカップでアギーレ監督の手腕を見極めるポイント

――遠藤の起用法の他に、アジアカップでアギーレ監督の評価を下すポイントはありますか。

浅田:もしアジアカップ優勝のために"ブラジルW杯組"が最善と考えるなら、それはそれでありだと思う。でも、その選択をした場合、結果が出なかったら何も残らない。だったら、優勝がマスト、と考えていいんじゃないかな。将来の上積みが期待できないメンバーで固定し、大会を通じて入れ替えもせずに戦った挙句、優勝を逃すようならクビ、でもいいと思う。ただ、さすがにそんなことはないだろうという期待を込めるとすれば、FW武藤嘉紀(FC東京)やMF柴崎岳(鹿島アントラーズ)、DF酒井高徳(シュツットガルト/ドイツ)ぐらいは、アジアカップで一人前にしてほしい。彼らが、チームの主力として存在感を示すほどにね。もちちん、そういう選手がたくさん出てくることに越したことはないけど、最低この3人。それができればよし、というか、そのくらいのことは果たしてほしいよね。

杉山:まずは、メンバーのやりくり。というのも、次のW杯では5試合くらい(ベスト8進出)は戦ってほしい、という希望があるわけ。で、5試合を戦うためには、駒の使い方が重要になる。そこで、3試合で終わる監督と、5試合戦える監督の違いが出る。グループリーグ3戦すべて同じメンバーで、目の前の一勝にこだわって戦っているようなら、3試合で終わる監督。論外と言えるだろうね。うまく選手を使い分けて、各選手の余力を残した戦い方をしていたら、かなり見込みがある。だから、遠藤だって使っていいんだよ。要はその使い方が問題で、決勝トーナメントを勝ち抜くために、アギーレ監督がどういう(選手起用の)方法論を持っているのか、そこはしっかりと見極めたい。それと、オーストラリア戦での布陣変更みたいなのも、トーナメントを勝ち上がるためには重要で、そういう修正能力なんかも、注視したいポイントだよね。

中山:杉山さんと同じで、僕も選手起用は重要なチェックポイントになりますね。あと、オーストラリア戦で、4−2−3−1でやれる手応えはつかんだと思うので、それをベースにしていくのか。それとも、やはり4−3−3を基本にして、4−2−3−1は緊急事態用に使うのか。選手個々で言えば、武藤はスタメンなのか、サブなのか。そういうところで、アギーレ監督が何を考えているのか、見えてくると思うんです。その浮き彫りになった考え方を見て、しっかり評価を下したいですね。繰り返しになりますが、何にしても、11月のオーストラリア戦の先発メンバーを基本にして、そのまま戦い続けるようであれば、先はないかな、と思いますけど。

浅田:でも、そのオーストラリア戦のメンバーで戦って優勝しても、さすがにアギーレ監督は、そのままのメンバーでアジアカップ後もやっていこうとは思わないでしょ。

杉山:結果に関係なく、さっさと崩すと思うよ。今はあくまでも、世間やメディアからの批判を回避しようという緊急措置でしょ。とにかく、アジアカップは真剣勝負の場だから、大きな経験になる。そういう意味でも本来は、成績は度外視して、若くて可能性のある選手を使ってほしいんだけどね。まあでも、それを決めるのは、やっぱり協会だから......。それからすると、協会がコンフェデに出たいから「絶対に優勝してくれ」って言うんだったらわかるけど、そうじゃない。それなのに、世間では「優勝がマスト」といった空気になっている。アギーレ監督も大変だよね。僕は、2年間は静観しようと思っています。

スポルティーバ●構成 text by Sportiva