日米野球は侍ジャパンがMLB選抜に3勝2敗(親善試合は除く)と勝ち越して終わった。とはいっても、相手のモチベーションやコンディションを考えれば、単純に「双方の力の差はなくなった」などと言えないことは、言うまでもない。

 ただ、今回の日米野球ではっきりしたことがひとつある。それは、パ・リーグとセ・リーグの格差だ。豪快なスイングでMVPを獲得した柳田悠岐(ソフトバンク)、負け投手にはなったが4イニングで7個の三振を奪った大谷翔平(日本ハム)をはじめ、パ・リーグの選手の活躍が目立った。ちなみに、選ばれた28人のうちパ・リーグが18人、セ・リーグは10人だった。

 さらに、侍ジャパンのクリーンアップを担ったのは糸井嘉男(オリックス)、中田翔(日本ハム)、内川聖一(ソフトバンク)の3人。そして、何より象徴的だったのが第3戦。MLB相手に則本昂大(楽天)、西勇輝(オリックス)、牧田和久(西武)、西野勇士(ロッテ)の4人の投手リレーでノーヒット・ノーランを演じたのだ。彼らはみんなパ・リーグの選手である。

 それに対してセ・リーグの選手はどうか。菊池涼介(広島)が攻守にはつらつとしたプレイを見せたが、その他に強烈なインパクトを残した選手となるとすぐに思いつかない。実際、メジャースカウトから名前が挙がった選手も、大谷や則本を筆頭にパ・リーグの選手の方が圧倒的に多かった。

 こうしたセ・パの格差は、何も今回の日米野球だけに見られた現象ではない。

 たとえばWBC。初代王者となった2006年のメンバーの内訳を見ると、パ・リーグが16人、セ・リーグが12人、メジャーが2人。連覇を果たした2009年は、パ・リーグが12人、セ・リーグが11人、メジャーが5人。2013年はパ・リーグ15人、セ・リーグ13人と、いずれの大会もパ・リーグの選手の方が多い。

 さらに顕著なのは投手陣だ。これまでWBCで日本代表は通算17勝をマークしているが、そのうちパ・リーグの投手が挙げた勝ち星は10勝(セ・リーグ4勝、メジャー3勝)に上る。2006年は上原浩治(当時・巨人)、2013年は前田健太(広島)がそれぞれ2勝を挙げるなど活躍したが、2009年にいたっては7勝のうち3勝が松坂で、ダルビッシュ有(当時・日本ハム)が2勝、岩隈久志(当時・楽天)が1勝、涌井秀章(当時・西武)が1勝と、セ・リーグの投手はひとりも勝ち星を挙げていない。

 たとえば、日本一を決める日本シリーズ。2010年以降の5年間は、パ・リーグが4勝1敗と圧倒している。今年もセ・リーグの阪神がソフトバンク相手に1勝するのがやっとだった。それ以前の2000年から2009年までの日本シリーズは5勝5敗と拮抗していたのだから、セ・リーグの凋落は近年著しいと見ていいのではないか。

 それは、毎年、その年の最高の投手に贈られる沢村賞の受賞者を見てもわかる。セ・リーグの投手は2010年に前田健太(広島)が受賞したあと、ひとりも受賞していない。今年の金子千尋(オリックス)まで4年連続パ・リーグの投手が沢村賞の栄誉を手にしている。そもそも2000年以降、セ・リーグの受賞者は上原浩治(当時・巨人)、井川慶(当時・阪神)、川上憲伸(中日)、そして前田の4人しかいない。

 昔から「人気のセ、実力のパ」と言われたものだが、その傾向はここに来て一層強まっているのではないか。

 問題はその理由だ。なぜ、そのようなことが起きたのか。解説者の与田剛氏は次のように語る。

「交流戦や日本シリーズを見て感じるのは、パ・リーグの選手の力強さです。日米野球で見せた柳田のスイングや大谷の投球に代表されるように、パ・リーグの選手は力勝負で負けないように心掛けているように思います。投手は打者を力でねじ伏せようとするし、打者はそれに負けないようにフルスイングで応える。そうした傾向は昔からありましたが、いい意味でその伝統は今も受け継がれている。それに比べてセ・リーグは強さよりも技術のある選手が多い気がします。国を代表するチームになった場合、どうしてもスケールの大きい選手が目立ってしまいますよね」

 与田氏はもうひとつ、パ・リーグの育成方法にも注目する。

「パ・リーグのチームは『この選手を育てる』となれば、結果にとらわれず起用する。実戦での経験を大事にする球団が多い気がします。代表的なのが中田翔です。2012年は開幕から4番を任されるも25打席ノーヒットなど、シーズン序盤は打率1割台と苦しみました。それでも4番として最後まで使い続けた。そして今年は打点王のタイトルを獲得し、侍ジャパンでは不動の4番です。地位が選手を育てた好例だと思います。日本一になったソフトバンクなども、柳田や今宮健太といった選手を、ある程度結果に目をつぶりながら起用して育てた。他の球団にもそういう選手が出てきて、互いに刺激になっている部分はあるんじゃないでしょうか」

 同じく解説者の金村義明氏は「あくまで個人的な意見ですが......」と前置きした上で、このように語った。

「パ・リーグからメジャーやセ・リーグに移籍する選手が多いせいか、ポジションが空きやすいですよね。場合によっては、若い選手を育てるためにわざと空けるチームもあります。その空いたポジションを外国人や他球団からの選手で補うのではなく、生え抜きの選手に任せる。だから、選手のモチベーションがすごく高いですよね。そうした積み重ねが、パ・リーグの強さになっていると思います」

 ポジションが空くことで選手が育ち、新陳代謝が行なわれることでチームが活性化する。先を見据えても若い選手の起用が、強さの源になっているというのだ。

 もちろん、セ・リーグにも菊池や今シーズン大ブレイクした山田哲人(ヤクルト)のような有望な若手がいる。金村氏も与田氏もそこに期待する。

「選手個々のレベルはセ・リーグもパ・リーグも大きな差はありません。ただ、セ・リーグの選手はバランスがいいというか、言い換えれば個性がない。とんでもない速い球を投げたり、規格外のホームランを打ったり、そんな選手が出てきてほしいですよね。指導者はもっと個性を大事にすべきだと思います」(金村氏)

「今シーズン、山田哲人(ヤクルト)が大ブレイクしましたが、セ・リーグにも期待の若手がいっぱいいます。あとは、彼らがどのようにして経験を積むかです。結果を残してからレギュラーとして起用するという考えもありますが、意識的に育てていくというやり方も必要ではないでしょうか。それが実を結べば、リーグの格差などあまり話題にならなくなると思いますよ」(与田氏)

 目先の1勝に左右されず、チームだけなくリーグ全体の大計を描けということだろう。第4回WBCが行なわれるのは2017年。はたして3年後、侍ジャパンに名を連ねるのはどんな選手なのだろうか。

阿部珠樹●文 text by Abe Tamaki