ジュニアの日本王者を決める全日本ジュニア選手権が11月22〜24日、新潟市で開かれ、男子はショートで首位につけた15歳の宇野昌磨(うの・しょうま)が総合210.72点で初優勝した。しかしフリーは4度の転倒があるなど精細を欠きながらの優勝には、多くの課題も残った。2位は演技力に定評がある山本草太(やまもと・そうた)、3位はトリプルアクセルを成功させた中村優(なかむら・しゅう)がつけ、宇野、山本、中村、友野一希(ともの・かずき)、宮田大地(みやた・だいち)、鎌田英嗣(かまた・ひでつぐ)の6人がシニアの全日本選手権出場を決めた。

 宇野のショートは秀抜な演技だった。飛距離のあるトリプルアクセルを冒頭で決めると、流れと力強さにあふれるジャンプを次々と決め、82.72点をマークした。2位との点差は14.91点というダントツの首位で、世界ジュニアに3大会連続で出場してきた"格の違い"を見せつけるかのようだった。

 宇野は中学時代に身長が伸び悩み、滑りのダイナミックさやスピード不足のために、ジャンプも3回転5種類までで止まっていた。課題はトリプルアクセルと4回転トーループの大技の習得。むしろ、それさえ手に入れれば、シニアの世界トップグループ入りできるほどの滑りを持つ逸材だった。身長が伸び始めたのは今年の初め。高校入学時には155cmを超え、滑りの重厚感が増した。すると一気に、トリプルアクセルと4回転トーループを習得し、日本のジュニアでは当然ながらエース、そして世界でも表彰台が狙えるまでに成長したのだ。

 しかし翌日のフリーは、別人のようにジャンプが決まらなかった。4回転トーループを2本と、トリプルアクセル、3回転ルッツの計4回も転倒し、持ち味の演技力も見せ場がなかった。それでも得点は128.00点で全体の2位につけ、ショートの貯金を使っての優勝を飾った。

「まだ練習でもジャンプが全部決まることはない。跳べるようになった事が嬉しくて難しい構成にして、試合なら気合いで降りられるかと思っていたが、そういう考えが甘かった」と肩を落とした。

 実際のところ、男子ジュニアで優勝のおおよその目安は、国内ならトリプルアクセル1本、世界ならトリプルアクセル2本か4回転1本といったところ。宇野の「4回転2本、トリプルアクセル2本」という構成にかなり無理があったとも言える。

「12月のジュニア・グランプリ・ファイナルに向けては、もう一度ジャンプをしっかりやり直して、練習からちゃんと成功しているという状態で臨みたい」

 2位につけたのは、いまジュニアで最も成長株の14歳、中学3年生の山本だ。トリプルアクセルはまだ不安定だが、ほかの3回転ジャンプには安定感がある。ミスしても崩れない負けん気の強さと、感情を身体全体で表現する踊りなど、他の選手が努力しても手に入れられないセンスを持っているのが魅力。ジュニアグランプリでは2大会連続2位となってファイナル進出を決めている。

 山本の精神力の強さは、フリーで表れた。約15点差での2位に、ふつうなら諦めてしまいそうなところだが、闘志が燃えたぎっていた。冒頭のトリプルアクセルは転倒したが、そこから諦めずに残る7つのジャンプをすべてクリーンに着氷。フリーは134.69点で首位、総合202.50点で200点台に乗せた。宇野には及ばなかったが、気持ちの強さではピカイチだった。

「宇野くんのミスが多かったのをみて、自分がノーミスでいけば、優勝できるんじゃないかと思った。最初のトリプルアクセルは失敗したけれど、まだまだ行けると思って跳びに行った。悔しさはジュニアのグランプリファイナルにぶつけたい」と力強く言い切った。

 3位はショートでトリプルアクセルを決めた中村優。高橋大輔と同門で、本田武史からジャンプを習っている18歳だ。氷に吸い付くようななめらかなスケーティングもあり、総合力が高い選手に育ちつつある。フリーもトリプルアクセルのミス以外は7つのジャンプを成功させ、総合184.08点で3位となった。

「全日本ジュニアでの順位や成績はあまり考えないようにして、とにかくシニアの全日本選手権に進むことが目標でした。トリプルアクセルは『決めよう』と思いすぎて力んだのがミスの原因。シニアの全日本選手権ではしっかり結果を残し、世界ジュニアへの出場を狙いたい」

 4位は、16歳の友野一希。ショート、フリーともにトリプルアクセルで着氷が乱れたが、回りきるところまでは来ている。また、友野の一番の魅力はダンス。音楽と一体化し、ノリの良い踊りはもちろんのこと、ちょっと切ないしっとりとした演技も見事にこなす。ショート、フリーともに観客から手拍子が起こり、会場を沸かせた。

「歓声が温かく、滑っていて楽しかったです。ダンスの教室に通ってはいませんが、普段はインターネットで音楽のプロモーション動画を見て踊ったりするのが好きなんです。同じリンクで練習している町田樹選手から『お前も(シニアの)全日本に来いよ』と言われていたので、無事に出場できて嬉しいです」と笑顔を見せた。

 男子は、全体的にはまだジャンプ力が成長途中の選手が多く、この大会でトリプルアクセルを決めたのは宇野と中村の2人のみ。どちらかというと、踊りのセンスが光る選手が多かった。世界全体でも、男子はソチ五輪に向けて多くの選手がシニアに移行したばかりで、ジュニアはいったん若返りを図っている時期ではある。18年平昌五輪に向けた4年間は始まったばかり。ジャンプ力や演技力、スケーティング力などで、それぞれの選手がダイヤの原石のような可能性を示す大会となった。

野口美恵●取材・文 text by Noguchi Yoshie