アギーレジャパンを診断する
サッカージャーナリスト座談会(1)

ブラジルW杯が終了し、日本代表は4年後のW杯に向けて新たなスタートを切った。指揮官となったのは、メキシコ人のハビエル・アギーレ監督。9月から新生・日本代表を率いて、これまでに親善マッチ6試合を消化した。1月にアジアカップが控える中、順調なスタートを切ったと言えるのか。サッカージャーナリストの杉山茂樹氏、浅田真樹氏、中山淳氏に評価してもらった。

■ここまでのアギーレジャパンは「70点」

―― アギーレジャパンが始動して、9月、10月、11月と2試合ずつ、計6試合の親善マッチを行ないました。アギーレ監督はこの6試合を「1月のアジアカップのためのテスト」という位置づけで戦ってきましたが、その"テスト"はうまくいったのか、まずはみなさんの評価をお聞かせください。

中山:アギーレ監督が望んだとおりだったかは別として、アジアカップのためのテストとしては、半分くらいできたかな、という印象です。それは、メンバーをどうするのか、という点において、ですね。残りの半分、できていないと思うのは、サッカーの中身の部分。アギーレ監督がやろうとするサッカー、どういうサッカーをやっていくのか、というところまでは手をつけられなかったように思います。

浅田:"テスト"が「成功」か「失敗」か、と言えば、成功だったんじゃないかなと思う。ただそれは、(日本代表に)新しい選手が出てきた、という話ではなくて、アギーレ監督は新戦力を探したけれども、見つからなかった、というのが実情。そういう意味では「失敗」に映るかしれないけど、それはアギーレ監督の責任ではない。選手を育てられていない日本サッカー界の問題。だから、ここまでの6試合を評価するならば、100点満点で言えば、70点くらいといったところかな。

杉山:メンバー選考については、ひと通りのことはやったと思うよ。でも、最後にあのメンバー、ブラジルW杯を戦った既存のメンバーに固まってしまったことはどうなんだろう。「えっ、このメンバー?」っていう失望感は若干あるよね。順番的には、逆でしょ。「そのメンバーで、最初にやればよかったんじゃないの?」って、思った。

浅田:そう。最初にブラジルW杯組を中心にしたメンバーでスタートして、そこから少しずつ独自のメンバーに入れ替えていったほうがよかった。そういう順番で"テスト"をしていけば、もっと世間も納得したんじゃないかな。「結局、ブラジルW杯組かよ」といった批判や、マンネリ感も生まれなかったと思う。いきなり、Jリーグでも実績が少ないFW皆川佑介(サンフレッチェ広島)やDF坂井達弥(サガン鳥栖)を呼んだりして、"オレ流"を前面に出してスタートしたわりには、「えっ、このメンバーに着地しちゃうの?」という不満は拭えない。だから、導き出される結論は同じでも、やり方が逆だったという印象は、僕もある。

中山:最終的に11月のメンバーになったのは、杉山さんが言ったように、世間の空気感に影響された部分があると思います。実はこれが、日本のいちばんの問題。ザッケローニ監督もそうでしたけど、世の中の空気にどんどん流されていってしまう。「6試合はテスト」と言ったんだから、本来それを貫くべき。にもかかわらず、4試合テストしたところで、アギーレ監督も、協会も「勝ちにこだわる」と急に言い始めました。一貫性がないと思いますね。

杉山:そう、それが大きなマイナスポイント。

中山:早くも、ブレた感が拭えないですよね。やはり、チームを引っ張っていく監督というのは、ブレてはいけない。ザッケローニ監督でも、2年間くらいはブレずにやっていました。けど、アギーレ監督は、すでに日本の空気に流されている印象がありますからね、そこはちょっといただけない。

浅田:繰り返しになるけれども、もしメンバー選考の過程が逆だったら、ブレている印象はなかったと思うんだけどね。ただそこには、アジアカップの位置づけ、という問題が関係してくる。アギーレ監督の就任当初は、アギーレ監督にしても、協会にしても、アジアカップをどう位置づけていたのか、はっきりしていなかった。

杉山:でも、世間では急に「アジアカップは優勝しなくちゃいけない」といったムードになってきた。

浅田:そう。アジアカップで優勝したら、W杯前年に開催されるコンフェデレーションズカップに出られるわけだから、もしも「是が非でも優勝を狙う」というのであれば、最初から協会はもっとそれを前面に押し出すべきだった。監督にも「テスト」なんて言わせてはいけなかった。でも当初は、おそらくそこまでの考えはなくて、協会も"テスト"を容認していた。それが、なかなか結果が伴わなくて、世間の風当たりが強くなってきたから、「アジアカップで結果を残さなければいけない」といった"逆風"を吹かせて、アギーレ監督にプレッシャーをかけるというか、代表を取り巻くムード変えようとした感がある。

―― それで、ブラジル戦に惨敗したあと、世間の批判をかわすとともに、アジアカップで結果を出すための、現実的なメンバー構成になった、というわけですね。

杉山:そうだと思うよ。でも僕は、「ちょっと待ってよ」と言いたい。優勝した前回大会(2011年)だって、ベスト4くらいの実力はあったかもしれないけど、そこから上は紙一重。やってみないとわからない。それなのに今は、「優勝がノルマ」といった雰囲気になっている。それは、おかしい。4年後のW杯を考えた場合、アジアカップでの優勝が何の役に立つのか、という議論もしていないんだから。杉山 結局、10月のブラジル戦(0−4)で思いっ切り負けちゃったでしょ。あの結果、多くのメディアを含めて、世論がかなり批判的になった。それで、アギーレ監督も世の中を敵に回したくないから、11月にはブラジルW杯組をさらに招集して、世間の大半を占める意見に迎合したんじゃないかな。最後の最後で、改革者としての"カリスマ性"が乏しく感じられた。それを踏まえると、僕の評価も70点くらい。ブラジル戦までは、結構よかったと思うんだけどね。結果にとらわれることなく、いろいろな選手を呼んで、試合ごとにメンバーも代えて、"テスト"らしいことをしていたから。

浅田:語弊があるかもしれないけど、個人的にはアジアカップは負けてもいいと思っている。あくまでも4年後のW杯が最大のターゲットであって、アジアカップはそのための一里塚に過ぎない、という発想があってもいいと思う。そのうえで、アジアカップでは4年後を見据えた若手に国際経験を積ませる、というスタンスで臨むのもあり。でも、その方針が見えない。それは、監督というよりも、むしろ協会の問題。

■一戦必勝に走るメディアが代表をダメにする

―― 結局のところ、アジアカップの位置づけをはっきりさせていないから、アギーレジャパンに対する世間の風当たりが強くなって、アギーレ監督もブレてしまった、ということでしょうか。

杉山:アジアカップは、あくまでも4年後のW杯のための強化、ということであれば、世間が納得するかどうかはわからないけど、アギーレ監督は存分にテストを続けられたと思うからね。いずれにしても、協会がアジアカップの位置づけをしっかりとアナウンスしないのはいけない。

浅田:根本的な話、W杯と同様に、アジアカップでも結果を求めるならば、僕は代表の監督交代のタイミングも考えるべきだと思っている。就任して半年後に結果を求めるのは酷な話だからね。本来、そういう話もあってしかるべき。

―― 協会はなぜ、アジアカップの位置づけをはっきりさせられないのでしょうか。

中山:問題はマスコミでしょうね。日本代表は、テレビ、新聞、雑誌、あらゆるメディアにとって、優良なコンテンツ。特にテレビは、自分たちが中継する試合で「テスト」などと謳われたら、たまらない。視聴者の関心が薄れてしまうし、スポンサーがつかなくなってしまう可能性がありますから。そうすると当然、メディアは結果を求めて大いに盛り上げる。協会もそうしたメディアに支えられているから、はっきりとモノが言えないのではないでしょうか。だから、アジアカップの位置づけを明確にできず、表向きは「結果にこだわる」と言ってしまうのでしょう。おかげで、日本代表の試合はすべて、「勝った」「負けた」という話が前面に出て語られてしまう。もし勝ちたいだけなら、格下と毎回ホームで親善試合をすればいいっていう話ですよ。でも、そんなことをしていたら、W杯では勝てるわけがない。実際、それに近いことを日本は繰り返しているから、W杯で勝てないという歴史がある。もちろん我々も自戒しなければいけませんが、そのことをメディア全体が、そろそろ真剣に考えたほうがいいと思いますけどね。 

杉山:この前もテレビを見ていたら、スポーツニュースのキャスターが「ここまで、アギーレジャパンは4試合でわずか1勝。今度の試合は絶対に勝たなければいけない」と伝えていた。あれには、愕然としたね。4試合の結果に何の意味があるのかって。そんなに勝たせたかったら、相手はどこでもいいのか、って言いたかったよ。本当は強いチームとアウェーで試合をして、それで強化を図ることが大事。結果は二の次で、勝敗は五分であれば十分。にもかかわらず、日本のメディアは親善試合の勝敗だけを伝えて、それで勝ち越しているから「強い」といった評価をしてしまう。それで、失敗したのが、ザックジャパン。親善試合でどれだけ勝とうが関係ないのに、4年間の戦績だけを見て、選手も、メディアも、ファンも勘違いしてしまった。ブラジルW杯の敗因は、そこにもある。

浅田:仮に「常に結果が大事だ」と考えているマスコミの人がいるのであれば、アギーレ監督が「6試合をテストで使う」と言ったときに、「それはおかしい」と言えばいいんだよね。そういう指摘をしないで、批判するのはどうかと思う。

杉山:代表OBの解説者の人たちも「代表は育成の場ではありませんから」と、テレビでコメントしたりするでしょ。あれも、問題だよね。確かに昔の代表はそうだったかもしれないけど、今は違うでしょってこと。先を見据えて、W杯で結果を出すために、強化していかなければならないんだから。目の前の勝利にこだわっているだけでは、チームは成長しない。だいたい岡田ジャパンからザックジャパンまで、遠藤保仁(ガンバ大阪)と長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)をずっと2ボランチで起用して、その間、誰も育ってこなかった。それは、目先の勝利を求めて、選手を試さなかったからでしょ。やっぱり、意図的に新しい選手を起用していかないと、選手もチームも進歩していかない。ブラジルW杯は、それで失敗した。そういう過去があるのに、また遠藤と長谷部に頼ろうとしている。「今回も、ですか?」という感じで、呆れちゃうよね。

中山:ホンジュラス戦が終わったあと、失望したことがあるんですよ。それは、6−0と大勝して、周囲の評価が一変したこと。それまでのアギーレ監督に対して批判的だったマスコミも称賛するようになって、協会もそれに流されてしまった。でもあのとき、それまでの4試合とはまったく違うメンバーだった。アギーレ監督が前日練習しか参加していない中で、戦術が浸透するはずもない。つまり、あの試合のサッカーは、選手のアドリブによるところがほとんど、と見るのが妥当。アギーレ監督のサッカーとか、手腕とかを、どうのこうのと語れるような試合ではなかったわけですよ。それなのにマスコミは、強引に勝利と結びつけて、「アギーレジャパンが進化した」とか「攻撃がよくなった」とか言って騒いでいる。それって、その試合の意味というか、何を評価すべきか、ということが見えていない証拠でしょ。結局、この国は何も変わっていなくて、本当の意味でW杯の反省をしていない。目先の勝利だけにとらわれて、また同じ過ちを繰り返そうとしている。それと、いまだにマスコミが親善試合と公式戦との評価の住み分けができない。そういう日本サッカー界の環境に、ザッケローニ監督もそうだったと思うけど、きっとアギーレ監督もカルチャーショックを受けているんじゃないでしょうか。「この国では、親善試合と公式戦も一緒の認識なんだ」って。

杉山:日本の感覚は、やっぱり世界の常識からかけ離れている。ザッケローニ監督のときも、就任2戦目の韓国戦(0−0)を終えたあと、会見で監督が「アジアカップではベスト4を目指す」と言ったら、ある記者が「それでいいんですか?」って、当時強化委員長の原博実さん(現専務理事)に質問したわけ。さっきも言ったけど、ベスト4から先は紙一重なんだから、ザッケローニ監督の感覚は普通なの。それを「優勝がマスト」なんていうのは、無知の人の発想。謙虚さもない。とどのつまり、問題はマスコミにあるんだよ。大手メディアはもう仕方がないとしても、最近はサッカーメディアも「勝利至上主義」に流されている。それが、最大の問題だと思うよ。

(つづく)

スポルティーバ●構成 text by Sportiva