話題作『6才のボクが、大人になるまで。』は音楽愛にあふれてる
 いま話題を集めている映画『6才のボクが、大人になるまで。』。

 6才の少年が18才になるまでの12年間を、同じ主要キャストとスタッフが定期的に集まって撮影するという、映画史上に前例のない手法がクローズアップされています。

 監督のリチャード・リンクレーターは、『スクール・オブ・ロック』(2003年)でも知られる音楽好き。『6才のボクが〜』でも、その時間の流れに確かな彩りを添えているのが音楽の使われ方なのです。

⇒【YouTube】映画『6才のボクが、大人になるまで。』予告 http://youtu.be/9shRZ6qf5Lc

 とは言っても「このシーンであんな曲を流すの?」というようなケレン味とは無縁。映画の始まりでは2000年にヒットしたコールドプレイの「Yellow」、少し成長して家族で引っ越すために車に乗り込むシーンでは2002年にヒットしたシェリル・クロウの「Soak up the sun」がそれぞれ流れます。特に主人公の少年、メイソン・ジュニア(エラー・コルトレーン)を、姉のサマンサ(ローレライ・リンクレイター)が、ブリトニー・スピアーズの「Oops!… I did it again」を歌ってからかう場面などは最高です。

⇒【YouTube】Coldplay‐Yellow http://youtu.be/yKNxeF4KMsY

 実際の撮影時期とは多少のズレはありつつも、ほぼ同年代にヒットした曲が素直に使われているのでその時代の空気がストレートに伝わってくる。だから音楽マニアでなくても違和感なく映画に入り込めるし、作り手と受け手との記憶のギャップが極めて小さいことで密な空間が生まれるのですね。

◆“ここぞ”という場面で炸裂する音楽愛

 いわば常識的で客観的な音楽の使い方がされているこの映画ですが、だからこそ“ここぞ”の場面でリチャード・リンクレイター監督の音楽への愛情が炸裂するシーンが際立っています。ここからはそのいくつかをご紹介しましょう。

 ヒューストン生まれの監督にとって、やはり地元の風景を撮影することにはこだわりがあったのでしょうか。夜が明けて薄暗いオレンジ色の朝焼けが美しいヒューストンのビル群を眺めつつメイソン・ジュニアが恋人とキスを交わすシーンで流れたのが、ヨ・ラ・テンゴの「I’ll be around」でした。

⇒【YouTube】Yo La Tengo‐”I’ll Be Around” video http://youtu.be/KJyjzHIgqr4

 ミシシッピ・ジョン・ハートを思わせるアコースティックギターのオルタネイトベースが特徴的ですが、やはりコールドプレイやシェリル・クロウなどのヒット曲とは少し異なる色合いです。映画の中でも1、2を争う鮮烈な映像のバックに「I’ll be around」を流すことには、やはり作り手としての確かな意図があるように思います。

◆小道具のポスターも見逃せない

 次にテキサスを代表するシンガーソングライターであるタウンズ・ヴァン・ザントの伝記映画『Be here to love me』のポスターが小道具として使われていたシーンも見逃せません。イーサン・ホーク演じる実の父親メイソンが、姉弟を遊びに連れ出した先がチャーリー・セクストン演じるバンド仲間の友人宅。そのベッドルームに貼られていたものです。

 余談ですが『Be here to love me』はミュージシャンのドキュメンタリーという枠を超えた傑作です。片手にウイスキーの瓶を、もう一方の手にコーラの缶を持ち、それぞれ交互に含み口の中でウイスキーコークを作ってしまうタウンズ・ヴァン・ザントの迫力には底冷えがします。

⇒【YouTube】Townes Van Zandt‐Pancho and Lefty. Heartworn Highways http://youtu.be/zprRZ2wFQD4

 そしてリンクレイター監督にとって、もう一組特別なバンドだと思われるのがウィルコ。ジュニアとキャンプに出掛ける車の中で「Hate it here」が流れると、メイソンが「これはビートルズのアビーロードに匹敵する完成度なんだ」と熱く語りだします。

 確かにバンドのフロントマンであるジェフ・トゥイーディーの歌声には少なからずジョン・レノンの匂いが感じられるし、キーボードの音色やフレージングにはビリー・プレストンが見え隠れしている。歌詞は「Don’t let me down」に日常的なディテールを与えたようにも思える。劇中ほとんどアドリブなのではないかと思うほどの自在なセリフ回しを見せていたイーサン・ホークですが、この場面では書き言葉のように聞こえたのは気のせいでしょうか。

⇒【YouTube】Wilco‐Hate It Here(Live at Farm Aid 2009) http://youtu.be/7hS_A1uasRc

◆家族が即興で歌うシーンにも

 そんな名曲や伝説のソングライターに負けず劣らず、キャストも音楽の豊かな魅力を表現していました。ジュニアの高校卒業を報告するために、メイソンの再婚相手の田舎へと向かう。そして夜も深くなり、軒先でメイソンがギターを手に簡単なコードを弾いて歌いだすと、奥さんが続いて歌詞をつなげていく。それにならって、姉弟も歌詞のルールを守りつつメロディに合う言葉を探っていく。

<私のことをちゃんと知ってほしいと思いつつ
 でも謎めいた存在でもいたい>

<愛しすぎたら 嫌いになる>

<家から出なければ 遅刻することもない>

 こうして相反するフレーズをくっつけて矛盾を面白おかしく歌うお遊びのようなシーンなのですが、その歌詞が見事に韻を踏んでいて最後にはきちんとオチまでつけるのですから参ります。

<だって到着と出発は いつだってとなり合わせだから>

 ソングライティングが方法をともなった技術であり、それが日々の生活とそう遠くないところにある国の音楽の強さを痛感させられるシーンでした。そしてその遥か延長線上に、タウンズ・ヴァン・ザントやウィルコが存在している。

『6才のボクが、大人になるまで。』は、リチャード・リンクレイター監督の音楽に対する眼差しの正確さが光っている。その点でも名作だと言えそうです。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>