ジョン・ウォーターズ監督

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 過激で下品な映画を通して悪趣味文化を世に広めたジョン・ウォーターズ監督が、2000年に手掛けた映画『セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ』について振り返った。

 本作は、ハリウッド女優ハニー・ホイットロック(メラニー・グリフィス)がボルティモアで行われた試写会で、ハリウッドの製作に異議を唱えるセシル・B・ディメンテッド(スティーヴン・ドーフ)が率いるスプロケット・ホールズによって誘拐され、彼らに利用されてゲリラ撮影に参加するが、いつしか彼らの主張に同意し始めていくというもの。マギー・ギレンホール、マイケル・シャノン、エイドリアン・グレニアーなど、後にスターとなる俳優が出演している点でも注目すべき作品。

 今作は、ジョン監督がこれまで手掛けてきたさまざまな過激な要素が、ある意味集約された映画のようだ。「僕自身もそう思っている。もちろん、実際に起きた“パトリシア・ハースト誘拐事件”をモチーフにしていて、パトリシア自身も誘拐犯の一人の母親役で出演している。彼女は今作の出演によってあの事件を過去に葬り去ろうとしていると思う。よく主役セシルは僕と比較されるが、僕はユーモアがあるけれど、セシルにはユーモアが全くないから、少し違うね」と語った。

 今作のクライマックスシーンが野外映画で撮影されていたが、ジョン監督自身も野外映画に影響を受けたらしい。「僕はハーシェル・ゴードン・ルイスなどの作品を野外映画で鑑賞して育った。当時はほぼ毎夜通っていたよ。なぜならセックス、酒、ドラッグ全てができるからで、実際に未成年飲酒で逮捕されたこともあったくらいだ。でも、今日の野外映画はR-指定の映画はろくに上映せず、家族向け映画が中心になった。僕が子供の頃と全く違う状況だ」と残念がった。

 これまでジョン監督が製作してきたレベルの独立系映画が、今日では存在しないらしい。「今は、5億ドル以上の独立系映画を製作することが難しくなった。むしろ100億ドル近く掛ける大作や、5億ドル以下の作品を多くの製作会社は求めている気がする。だからある意味、若手監督にとっては、今が映画製作には最適な時代で、僕のように15作品以上手掛けてきた監督にとっては決して良くはない。もっとも、現在68歳の僕が若手のように革命的な作品を今手掛けたいとは思っていないけどね」と苦言を呈した。

 映画は彼の作品群の中でも意図が明確で鑑賞しやすい作品だ。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)