◎快楽の1冊
『或るろくでなしの死』平山夢明 角川ホラー文庫 560円(本体価格)

 私たちはいろいろなタレントに憧れる。アイドルなり俳優なり、有名な表現者に憧れるわけである。そして小説家にも憧れる。小説家はアイドルや俳優ではないけれど、タレントの一人ではあるだろう。優れた小説を書くことができる人を好きになるのは当たり前の感情だ。
 平山夢明は果たして大メジャーの作家なのか、あるいは好きな人だけが好きなマニアックな作家なのか、今の在り方に疑問を感じたりする。
 そう、この微妙なスタンスこそ彼の個性なのである。人気作家であるようなそうでないような…。
 今回取り上げた短篇集は最初、2011年に単行本で出て、今年10月に文庫化された。世の中から疎外された人たちが死んでいくさまを描いた作品が集められた本である。
 平山夢明は突如、この世に出現した作家、と言っていいかもしれない。'06年に『独白するユニバーサル横メルカトル』が日本推理作家協会賞・短編部門を受賞した。そして、同作を表題作にした短篇集が『このミステリーがすごい!』のランキングで第1位に選ばれるのである。さらに加えて長篇『ダイナー』が'11年に大藪春彦賞を得ている。
 この短篇集はさまざまな人間の死に方を描いている。悲惨である。しかし、どこかユーモラスでもある。そう、人は、動物は必ず死ぬ。死なない動物はいない。それをストレートに描いてシリアスな作品に仕上げる、という手法はあるだろう。しかし、平山夢明の書き方は違う。悲惨の中に含まれるおかしみ、ユーモアを書き込んでいるわけである。
 この作家のすごさ、才能の在り方は歴然としていて、愛読者がいるのも当然であろう。とにかく文章がいい。あまり書き込まずコンパクトな文章なのにシーンを読み取れる。
 この短篇集で怖く楽しい気分を味わいたい。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 女性が執筆したセックスマニュアルが相変わらず人気を博している。今回取り上げる『もっとセックスしたいあなたに』(イーストプレス/720円)も、官能小説作家・大泉りかの手による本だ。
 女にとってセックスとは「裸になって抱き合うこと全般」であるというのがテーマ。とかく男はペニスの挿入だけに執着しがちだが、女は「裸で抱き合う」というメンタル面をもっと重視している、というのがこの本の骨子である。
 ただ入れて発射するだけという男の一方的かつ身勝手なセックス観を否定し、女の気持ちや心を開かせる方法を中心に解説している、女性執筆者ならではの視点が興味深い。
 大泉りかは、自伝的小説『Fuck Me Tender』(講談社刊)や、イマドキの草食系男子向け恋愛マニュアル『もっとモテたいあなたに』(イーストプレス)の著者としても知られている。
 『もっとセックスしたいあなたに』は『もっとモテたいあなたに』の続編ともいえる内容だ。そのため、セックス相手が不足している男のための「彼女やセフレの作り方」等も取り上げており、一貫した主張は「女は男に大切にされる」と、心もカラダも感じる--ということ。
 本誌の読者諸兄が若かりしころに学んだモテ術、セックス術は“男は強く強引に、セックスも激しく荒々しく”というのが主流だったはずだ。だが、最近は無理せず、優しい男がトレンドらしい。
 時代は大きく変わったということだろう。しみじみと、そう感じる1冊。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)