「今オフの補強費用は青天井と聞いています。何しろ中国電子取引大手アリババへの投資で、20億円が8兆円に大化けしたばかり。軍資金は潤沢にある。ソフトバンクを球界の盟主にするためなら、選手獲得の予算は設けるべきではない。個人資産1兆8000億円、世界有数の資産家でもある孫オーナーは、事もなげに王貞治球団会長にそう話したそうです」(福岡のテレビ局記者)
 それもそうだろう。ソフトバンクの時価総額は11月5日時点で9兆円超。さらに同社が保有する上場株式の時価総額は12兆8000億円。ヤフー、ガンホーなど系列会社は1300社にも及ぶ。日銀が10月31日にマネー供給量を50兆円から80兆円に増やす金融緩和策を決めたことで世界同時株高となり、株価は急上昇。ソフトバンクの含み益も膨らむ一方で、100億円程度の補強費などまるで眼中にないようだ。

 おかげでへそを曲げてしまったのが、日本一を花道に退任した秋山幸二前監督だという。球団は11月24日に福岡市内でVパレードを予定しているが、秋山氏は「今の自分は福岡の一市民」とかたくなに参加を固辞。青天井でカネが使えるなら、辞めるんじゃなかったという無言の抵抗である。
 というのも、後継監督は“巨人・原辰徳監督”との情報が流れていたからだ。巨人は来季から松井秀喜監督にスイッチし、王貞治会長がポスト秋山として巨人から原監督を迎え入れる--それが巨人に代わって『球界の盟主』をうかがう孫オーナーの野望という情報を耳にしていたのだ。
 ところがどっこい、いざふたを開けてみたら西武時代の1年後輩、工藤公康氏が新監督に就任。自分のときは最大40億円だった補強費が、工藤監督には100億円。「話が違う」とムキになるのもうなずける。

 そんなことには全く気にも留めず、工藤監督は秋山色一掃の狙いもあり、チームの血の入れ替えに躍起になっている。
 新生ソフトバンクの“投打の顔”に期待するのは、メジャーでも大活躍した松坂大輔(ニューヨーク・メッツ)とキューバの主砲で今季途中から横浜DeNAに移籍し、打率.305の成績を残したユリエスキ・グリエル内野手だ。

 トミー・ジョン手術を受け長期離脱していた松坂だが、今季はメッツで34試合に登板して3勝3敗1セーブ。右肘が回復したばかりか、メッツとの契約も今季で切れた。
 「松坂は先発が約束される日本球界復帰を希望しており、古巣の西武と地元の横浜DeNAが有力視されていました。しかし、ソフトバンクが西武のOBでもある工藤氏を監督に迎えたことで形勢が逆転したのです。夫人の倫世さんは元日本テレビの看板女子アナで王会長とは旧知の間柄。しかも福岡県出身。今季の松坂の年俸は1億5000万円で、西武などの評価も同額程度。一方、ソフトバンクは年俸倍増どころか、5年20億円の提示をしているそうで、たとえ巨人が割って入ろうにも金額的に手が出ません」(スポーツ紙デスク)

 そんな巨人が何とか一矢報いようとしているのが、今年6月、DeNAに途中入団したグリエル。キューバ政府の海外派遣解禁の方針転換で来日したが、DeNAとの契約は今季終了までで来季は再入札になる。
 「当然、DeNAは残留を希望しており、年俸3億5000万円で打診している。しかし、ソフトバンクは4年16億円の提示を予定しており、とても勝負にならない。ソフトバンクにはスタンリッジ、ウルフ、サファテの3投手と主砲の李大浩の外国人4選手がいるが、今年6月に右肘の手術を受けたウルフは開幕に間に合わない。ウルフの代役を松坂に託し、三遊間をグリエルで強化する方針です。巨人もグリエルを高く評価しており、今年も獲得に乗り出したが、DeNAにさらわれた。しかし、二塁に期待したFA片岡治大が結果を残せなかったことから、再度グリエルに白羽の矢を立てているのです。ところが、ソフトバンクを上回る金額を出せないばかりか、グリエルもキューバもDeNAに恩義を感じており、同じリーグの巨人入りは選択肢にない、と否定的なのです」(キューバ野球に詳しいスポーツライター)