攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 、世界観はどこまで実現できるか? 研究者らが現状と課題をマジメに討論

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NTTドコモでスタートアップ支援を行うNTTドコモ・ベンチャーズは、イベント「NTTドコモ・ベンチャーズDay」を開催しました。この中で、研究者らが攻殻機動隊の世界をリアルに想像するトークセッションを実施。実際のところ、今どのあたりまで実現できるのか、が語られました。

登壇者はメディア技術の稲見昌彦氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)、脳科学の藤井直敬氏(理化学研究所 脳科学総合研究センター、ハコスコ代表)、ロボット工学の梶田秀司氏(産業技術総合研究所 )、遠藤諭氏(角川アスキー総合研究所)、秋元信行副社長(NTTドコモ・ベンチャーズ)。

研究紹介
攻殻機動隊は今年で25周年、作品について今更説明しませんが25周年を記念してサントラのハイレゾ音源配信、アンソロジー小説の公募などさまざまな形で攻殻機動隊取り組みが行われています。今回のトークセッション「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」もその一環、研究者たちで攻殻機動隊の世界観を現実的にとらえてみようというものです。

まず最初に稲見教授が研究している光学迷彩を紹介。この研究自体、攻殻機動隊の熱光学迷彩を元にしたものですが、反射材を使った光学迷彩はプロジェクターの投影が必要。反射材を備えたプリウスで車外の様子を車内に投影し、擬似的に車が透けて見えるかのような状況を作り出します。車の後方を確認しやすくするなど、実用利用を想定した研究です。

藤井氏は、過去と現実がわからなくなるという研究を紹介。ヘッドマウントディスプレイを装着した被験者に、今被験者がいるのと同じ空間の映像を表示し、過去に記録した映像をそこに重ねることで過去と今の錯誤を起こすというもの。

藤井氏は記憶の改変ができると話したほか、「被験者は皆、心配になると自分の手を見る。攻殻機動隊で記憶の改ざんのシーンがあるが、現時点でもやろうとすればできてしまう」と語りました。

梶田氏は、産業技術総合研究所 が共同開発に加わったHRP-2やHRP-4Cといったヒューマノイドロボットを紹介。「私が呼ばれたのは、攻殻機動隊の草薙素子が脳以外はロボットのサイボーグであるため」と話しました。

ドコモ・ベンチャーズの秋元副社長は、パワードスーツやロボットアームといった、人と機械のインターフェイスとなるブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)の競技会「Cybathlon」について言及。「2029年の攻殻機動隊の世界がそう遠くない」と話しました。ちなみにCybathlonは2016年にもスイスで開催予定、トレイラーをどうぞ。



電脳について
攻殻機動隊では多くの人が脳にマイクロマシンを注入し、ネットにアクセスし電脳化しています。この世界観の実現性について藤井氏は自身もマイクロマシンを作りたいと考えたことを明かし「そのための基礎研究だけでも小さい単位の億のお金が必要。おそらくこの研究を始めている研究者はまだいないのではないか」と語りました。

またその一方で「マイクロマシンについては今は進んでいないが、技術的にできないことはないと思う。人が考えることはたいてい実現するので」と話し、「歩行は難しいが、脳の考えを読み取りその意図を汲んでロボットアームを動かすことはすでにできる」と述べました。

とはいえ、課題も山積しています。藤井氏は脳の考えを読み取るために脳自体に電極を入れる手術が必要なものの、そういった患者が少ない点を指摘。「脳波を使うという手もあるが、脳波はノイズが多く取れる情報も少ない」と話しました。

侵襲性の課題、ウェアラブルの可能性
これに稲見氏も身体にメスをいれる行為、つまり侵襲性がボトルネックになるという点で同意。治療が必要のない人にとって、ウェアラブル機器など非侵襲性のデバイスが現実的との見方を示しました。稲見氏はメガネ型ウェアラブルの JINS MEME の開発研究にも参加しており、登壇時にもJINS MEMEで目の動きをとっていました。

稲見氏が「身体は脳の高性能なアンプで、心の動きが出ている」と話すと、これに遠藤氏が「読心術では目をつぶってと目の上に手をおいて目の動きを見るという話もある。ウェアラブルが果たせる役割がある」とコメント。梶田氏も「仮に剣山のようなものを大脳にさせたとしても身体は自由自在には動かせない。それは我々の脳の理解が進んでいなからだ」としました。

脳への書き込みに課題
身体と脳の出入力の話では、藤井氏がロボット義手について言及。「何かをつかめるし視覚情報も取れるが、触感などの情報が取れないため脳みそにとっても機械にとっても情報不足」とコメント。ただし触感を電気信号に変換し、それを神経戻る研究自体はあるとしました。

また、秋元氏がウェアラブル機器として代表的に名前の挙がる Google Glass について懐疑的な意見を述べると、稲見氏がウェラブルという言葉の間違えではないかとし「歩きながらメールとかちょっと違う」と発言。hitoe などのスマートウェア、生活に溶け込み違和感のないものに肯定的な見解を示しました。

これに対してアスキー総研の遠藤氏は「ウェアラブルは控えめなものが多い」と指摘し、プロダクトデザインのシド・ミードを例にあげて、もっと大胆なものが欲しいと求めました。さらに同氏は、藤井氏に対して「攻殻の中で勉強しなくても知識がつくような、物語を自分が体験したかのような話があったが、脳への書き込みはどの程度可能性があるのか」と質問。藤井氏は「触った感じを脳に書き込むことさえ難しい」としました。

電極なしでもある程度できる
続いて出力に関して。攻殻機動隊では義体という言葉でサイボーグ化の話が登場します。ロボット工学の梶田氏は人の筋肉は600程度ある一方で、HRP-4Cで44コの筋肉で動いていると紹介。

「ただこれはエンジニアの立場からすると、筋肉を3倍してもう一度3倍にすれば届く難易度。義体の機能的な実現は視野に入りつつある。むしろそれ以外のチャレンジの部分が大きく、たとえばバッテリー容量も課題。おそらく2025年ぐらいにはヒューマノイドは7〜8時間は動作する。燃料電池が使えるようになれば3日はいけるのではないか」と見解を述べました。

脳科学からの話として藤井氏は「おそらく歩くときに足の筋肉について脳は考えていない」とし、たとえば歩行時に脳が方向の指令を出し、あとは義体に任せられる可能性を指摘しました。梶田氏もこれに同調し、脳に電極をさすことなく義体側のインテリジェンスである程度のことができると説明。

稲見氏は「普段我々は身体を意識しておらず、ロボット的なところがある。そうした人のロボット的な部分はかなりチャンスがあるはずだ」と話しました。攻殻機動隊において草薙素子は脳以外はほぼサイボーグという設定です。稲見氏は脳を活かす臓器がないため、現時点で攻殻機動隊の世界は難しいとする一方で義手や義足といったすでに現時的としています。

加えて、ヒューマノイドを遠隔操作するいわゆるテレイグジスタンスについても言及。膨大な通信量が課題としました。秋元氏は攻殻機動隊の中にネットワークインフラの話があまり出てこないと指摘していました。

このほか、ネットワークを使った可能性に藤井氏は言及し、複数の人が1つのロボットや義体を動かす、複数の人が複数の義体を動かす魅力を説明。ロボットが乗り越えられないものを人が教えるような世界について語り、「ロボットから見ると人がお助けエージェントになる、そんな効率の良いシステムもできるのじゃないか」と話しました。