先週の三井住友VISA太平洋マスターズ(11月13日〜16日、太平洋クラブ御殿場コース)に世界ランク現在3位、今年のマスターズ覇者、バッバ・ワトソン(36歳/アメリカ)が参戦。最終的には3アンダー、24位タイという結果だったが、ピンクのドライバーを豪快に振り抜き、多くのギャラリーを魅了した。

 初日は先々週のWGCシリーズ、HSBCチャンピオンズ(上海)を制した勢いをそのままに、5アンダー首位タイでスタート。2日目には、10番(パー4・401ヤード)を、1Wで340ヤードドライブ。2打目、50度のウェッジで打って、直接カップイン。イーグルを奪うなど、"世界基準"のゴルフを十分に見せてくれた。

「バッバ・ワトソンは飛ばし屋の豪快なイメージがありますが、ショートゲームもうまいですし、器用です。そして、フェード、ドローを自由に打ち分けられて、攻め方も多彩。だから、戦略性の高いオーガスタのバック9も攻略できるんです(※)。子供のころ、家の裏に大きな木があって、その木を巻くように、右から左から曲がる球を打って遊んでいたそうですよ」と、ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏。
※バッバ・ワトソンは2012年もマスターズ優勝。今年が2回目の制覇

 現在、石川僚(23歳)、松山英樹(22歳)が、世界最高峰のPGAツアーを主戦場にして、健闘を見せている。しかし、日本人選手全体で見ると、"世界"との距離が離れたと言われて、久しい。バッバ・ワトソンはじめ、世界ランク上位の選手と何が違うのだろうか? 三田村氏に聞いてみると、まず、環境の違いをそのひとつに挙げた。

「アメリカでは"見る"ゴルフと"する"ゴルフの棲み分けが進んでいる。PGAツアーのコース設定は、飛距離や曲がる球など技術的なものはもちろん、ホールごとの攻略の仕方などインテリジェンスも求められ、観客やテレビ視聴者にとって迫力のある、おもしろい試合を提供している。一般の人にはとてもマネできないうようなゴルフを、アスリートとして鍛え上げられた選手たちが魅せる時代なのです。実際、それで成功していて、試合数も賞金総額も増えています。"する"という観点では、一般の人の競技人口が減ったり、ゴルフ量販店はつぶれたりという実情もある。日本のゴルフ場では、通常の営業を考えると、そういうトーナメントコースはなかなか作れないし、元々そんなに土地も広くないですから、観戦用のスタンドや駐車場を作るのさえ難しい」

 難しいコースを攻略しようとなると、パワーとテクニックが求められてくるのは必然だ。

「まず、日本人選手とショットの精度が全然ちがうでしょう。日本では(パー4なら)ドライバーを打って、次はショートアイアンやウェッジでOK。アメリカでは、2Iや4Iを使うホールも出てくる。いろいろなクラブを使いこなすことが求められるんです。

 また、グリーンやグリーン周りもこういうショットで攻めないと乗りませんよ。バーディーを取れませんよという設定になっていて、明確な意図があるんです。そして、100ヤード以内のショットに関しては、80ヤード、60ヤード......と20ヤード刻みで、あらゆる選手のショットの正確性を示す細かいデータを、PGAツアーが発表しています。それだけ、ショットの精度にこだわっている証拠です」

 実際、日本ツアーで勝つレベル、PGAツアーで勝つレベル、技術、意識においてどのくらい差があるのか。

「日本で勝てる人は、グリーンを8分割して攻めることができる。メジャーで勝つような人は16分割して攻めることができるのです。さらに、16分の1への攻略法として奥につけてバックスピンで戻す、真上から落として止める、手前から転がすなど、といろいろな攻め方が求められる。そういう点では飛距離も重要で、2打目の番手が2つも3つも違うと、やはり精度は変わってくる。今は技術があっても飛距離がなければ、アメリカでは勝てなくなっています」

 さらに、精神面も大事になってくる。

「日本にも"球打ち"が上手な選手はいっぱいいるんですよ。ショットはいい、でもゲームが下手。練習の時は0コンマ何ミリを追求するのはいいけど、試合は、その精度を極める場ではない。たとえば、ボクシングの選手が試合中に『今のパンチ、角度が2度違うな』とは思わないでしょ? ただ、ゴルフはいろいろと考えてしまう時間がたくさんある。ボールを打っているのは1日、正味3分弱だし、しかも試合中に3回寝なきゃいけない特殊なスポーツなんです。

 石川、松山あたりは上位の選手とショットの精度に関して、そんなに変わらない域に来ていると思う。でも試合になると、松山は8割、石川は6割くらいしか、本来の力を発揮できていない。技術を極めていく一方で、いい意味で試合ではミスを許容できるようになると一歩上のステージに行けるはずです」

 試合の組み立て方、コースマネージメントも大切な要素だ。そこにトップ選手と日本人選手に差を感じることがしばしばあると言う。

「メジャーで使用されるコースには、ドッグレッグのホールがアウト、インそれぞれ2つはある。それは報酬とリスクが隣り合わせで、バーディーもあれば、ボギー、ダボルボギーもある。そこが試合をおもしろくするんです。だから、ホールごとに漫然と攻めていてはダメで、4日間72ホール、どう攻めるか、あるいは守るかを考えることが重要になってくる。日本の試合を見ていると、初日、2日目から最終日みたいな攻め方をしているな、という時がある」

 環境、技術、インテリジェンス......あらゆる面で大きな差があるように思えるが、それを埋めるためにできること、すべきことはあるのだろうか。三田村氏に聞いた。

「ジュニア世代には、まず、英語の家庭教師を付けなさいと言っています(笑)。テニスの錦織圭のように、いま、国際的な活躍を望むなら英語は必須。そして、コミュニケーション能力も同時に必要です。石川は英語をしゃべりますが、彼がいまPGAで優勝したとき、何人の選手が18番のグリーンに来てくれるか......。選手同士でコミュニケーションをとることで、メンタルの部分で解き放たれる部分もあるでしょう。

 あとは今田竜二(38歳)のように、10代から、向こうの環境に身を置くことも大切かもしれない。最初に言ったように、いまや日本のコースとアメリカのコースは違いすぎるので、スポット参戦で大きなトーナメントに勝つのは難しい」

 今週のダンロップフェニックス(11月20日〜23日、フェニックスカントリークラブ)には、今年のマスターズでバッバ・ワトソンと優勝争いをしたジョーダン・スピース(21歳/アメリカ)と松山英樹も出場する。試合結果だけでなく、"世界基準"を意識してみると、よりゴルフをおもしろく見られるはずだ。

スポルティーバ編集部●文 text by Sportiva