前半途中のシステム変更に加え、後半開始から投入した今野のプレーが日本に大きく流れを引き寄せた。(C) SOCCER DIGEST

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 前半の攻防が明暗を分けた。
 
 新体制でスタメン平均25.6歳と若返ったオーストラリアは、初冬を迎えた大阪の好コンディションを満喫するかのように、序盤から飛ばして来た。日本の最終ラインまで厳しいプレスをかけ、ボールを奪うと果敢なフリーランニングで次々にパスコースを作り、スピーディーに展開した。まるで日本のお株を奪い、旧来のオーストラリアのイメージを一変させるような素晴らしい内容だった。
 
 ザッケローニ時代から日本代表は、こうしたアグレッシブなプレッシングに弱かった。序盤にしっかりとスウィッチを入れてくるブラジルからは決まって失点をしたし、結果的には勝利したフランス戦(2012年パリ/1-0)も息つく間もないほど一方的に押し込まれた。相手がフルパワーで前がかりに来ると、フィジカルの違いが浮き彫りになる。この夜のオーストラリア戦も、いかに第一幕を凌ぎ切れるかがポイントになった。
 
 ハビエル・アギーレ監督は振り返る。
「前半は相手が相当激しいプレッシャーをかけて来たので、あまりつなげなかった。こういうつなぎ難い状況では、なるべく自陣から遠いエリアに運びプレーをするべきだ」
 
 オーストラリアに押し込まれた日本に混乱がなかったわけではない。ボール奪取の位置が低くなり、ミドルゾーンでのミスパスからカウンターを食うシーンも散見された。開始30秒にはジェームズ・トロイージにゴール左からフリーで狙われ、17分にもロビー・クルーズに右サイドを抉られ、やはりフリーのトロイージが頭で狙う決定機を作られた。その直後には、本田圭佑が相手のバイタルエリアで横パスをさらわれ、マッシモ・ルオンゴに左サイドを攻略されている。それでもこの時間帯を無失点で切り抜けたことで、30分を過ぎるとオーストラリアの布陣が徐々に間延びし始め、流れは加速度的に日本に傾いていった。
 
 両チームともディフェンスラインの前にアンカーを置く4-3-3でスタートした試合で、日本は香川真司と遠藤保仁が交互にトップ下の位置に入りながら、長谷部誠を頂点とする逆三角形を微調整で変形させバランスを取っていた。どちらもインサイドハーフ2枚+アンカー1枚と中盤が逆三角形の構成なので、必然的に守勢に回ると数的不利に陥る可能性がある。
 
 そこでアギーレ監督は前半終わり頃に、役割を明確にするために、香川をトップ下、遠藤をボランチに固定、つまりMFの三角形を引っくり返した。ザック時代の4-2-3-1というよりは、3トップを維持したままトップ下の香川がフォローする4-2-1-3にシフトした。さらに指揮官は、後半から遠藤に代えて今野泰幸を送り込む。もちろん初招集の今野を試すのは予定通りだったのかもしれない。
 
 だが対戦相手との力関係を考え、ボランチならボール奪取力に長けた今野に適性があるという判断は、日本に傾きつつある流れをさらに助長した。相手のフォーメーションに対応して蓋をした日本は、後半の開始4分に早速今野が対面するルオンゴからボールを奪い取り決定機を演出するのだ。
「サッカーとは、こうして戦術的なゲームだ。オーストラリアは同じ戦い方は90分間続かない。後半日本にボールをつなぐスペースができるのは分かっていた」(アギーレ監督)
 
 初陣のウルグアイ戦やシンガポールでのブラジル戦を見る限り、どうも掴みどころがない印象だった指揮官が、ようやく信頼に足る采配能力の一端を示した一戦だった。一見ザッケローニ時代と大差がないように映るが、単純な継承とは意味合いが異なる。
 
 ここまでの6戦を振り返れば、新戦力を洗い出し、総体的に戦力を再点検した上でメンバーを絞り込み、ラスト2試合は現実を見据えて公言通りに勝ち切った。実績最優先で固定したザッケローニ前監督との違いは、何より今充実した選手たちが生き残っていることだ。
 
 大胆な抜擢が目立った最初の2試合では、日本らしさが薄れたかに見えたが、それでいてスペインの「マルカ」紙に語ったように、ショートパスをスピーディーに連ねるポゼッションスタイルが適していることを見抜いていた。その軸を成すのが、遠藤、香川、柴崎岳……、3世代を象徴するタレントだとすれば、彼らを効率よく生かすには、FWとの距離を詰め後方にアンカーを配すべきだと考えたのだと推測する。
 
 ただしこの夜の日本の勝利が、ホームと継続の利を生かしたものだったことも確かだ。アジアカップでオーストラリアは母国の声援を受けて戦う。17分間の出場時間でワンチャンスを決め切ったティム・ケイヒルは、スタメンで出場して来る可能性が高い。
 
 アギーレ監督の言うように、新鮮な刺激が入った日本代表は「コンセプトが浸透し、前進している」のは間違いではないだろう。だがブラジル戦を除けば、新体制はアウェーの洗礼を受けていない。アジアカップでは、さらに別次元で未知の試される局面が連鎖する。連覇が非常に難しいタスクであることには変わりがない。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)