武藤嘉紀 (撮影/岸本勉・PICSPORT)

写真拡大

 短いフレーズに、武藤嘉紀の思いが詰まっていた。

「もう少しやりたかったですね」

 聞き手が変わるたびに繰り返されるやり取りで、武藤は45分の出場に終わった悔しさをにじませた。

 時計の針は5か月前に戻った。

 11月14日のホンジュラス戦には、遠藤保仁、長谷部誠、内田篤人がハビエル・アギーレ監督指揮下で初めてプレーした。先発の11人のうち10人は、ブラジルW杯のメンバーである。W杯を知らない唯一の選手が武藤だった。

 ゲームの入りは悪くなかっただろう。

「ファーストプレーでミスをすると立て直すのに時間がかかってしまうので、そこは意識しました」と振り返る。

 開始早々にペナルティエリアの手前で相手DFからボールを奪い、岡崎慎司へていねいなパスを通した。吉田麻也が決めた先制のヘディングシュートも、彼の仕掛けでつかんだCKからだった。

 アンカーに長谷部、インサイドハーフに香川と遠藤が並ぶ新しい中盤は、4−3−3の左ウイングを務める彼にも好影響をもたらした。タッチライン際でパスを受けてのドリブルだけでなく、前線でのパスワークにスムーズに加わった。

「中盤でしっかりボールを収めてくれますし、落ち着いた時間があるので自分としても間で受けやすい。速いリズムだけじゃなくて、少し遅らせて全員で攻撃できる形が今日は多かった」という彼の肌触りは、ピッチ上に記されたプレーそのものである。
 経験豊富な選手たちに、寄りかかったところはない。周囲とのスムーズなコンビネーションは、自らの能動的な働きかけによるものである。

「どういう動きが必要かとかは、練習中にもう話してたんで。今日は連携がうまく取れないとかはなかった。ヤットさんとかからいいパスも入ってきてたんで、距離感というところのコミュニケーションをうまく取っていたこともあって、今日はいい距離感でやれてたんじゃないかと思います。ブラジルW杯のメンバーに自分ひとりが入って、まあ思っていたよりは連携も取れましたし、パス回しだったり、攻撃にしっかり入っていけたんじゃないかと思います。これからどんどんどんどんそういうのを上げていければ、自分の良さをもっともっと出せると思います」

 客観的に見ても、武藤の出来は悪くなかった。ディフェンスの局面での素早い切り替えも、いつもどおりである。

 だが、前半に生まれた3つのゴールに、直接的に絡むことはできなかった。

 後半に臨む11人から、背番号14は消えていた。武藤に代わって左ウイングに入った乾貴士は、2ゴールをマークした。

 来年1月のアジアカップを意識して、アギーレ監督は「結果重視」とも「現実的」とも言える方向へシフトした。選手選考の優先順位で、経験、実績、安定化らがランクアップしている。代表チーム内における彼の立ち位置は、1か月前と比べて微妙に変化している。

 とはいえ、ブラジルW杯への回帰が加速するなかでも、アギーレ監督のチーム居場所を見つけることはできる。

 それだけに、何が必要なのかは明確だ。

「課題はやはり、得点に絡むこと」

 ホンジュラスが期待外れだったとはいえ、経験者の存在感は眩しかった。チーム内の競争は激しさを増しているが、それもまた、22歳の若武者の成長を加速させる要因である。