ホンジュラスが不甲斐なかったとはいえ、縦に速い攻め、1対1の激しさといったアギーレの志向を体現しての勝利には価値があるだろう。 (C) SOCCER DIGEST

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 過去4試合の鬱憤を晴らすかのようなゴールラッシュ。これには、ふたつの大きな理由がある。
 
 まず、ベテランの復帰によって試合運びが格段に安定した。とくにアギーレ監督が「彼らは仕事がわかっている」と称賛した遠藤、長谷部の存在は大きかった。
 
 ぼくは戦前、「ベテランが戻ってきても、システムが違うのだから機能する保証はない」と書いたが、それはいい意味で外れた。彼らは監督の意図を汲み、球際の強さや縦への速さを表現した。
 ザックジャパンでも心臓として機能したふたりが、しっかりとリズムを作ったことで、チーム全体に落ち着きが生まれたのだ。
 
 もうひとつの理由は、対戦相手のホンジュラスが弱かったということ。
 アギーレ監督はスコアほど楽ではなかったと語ったが、その一方で「試合は個別に判断するべきだ」と述べている。
 つまりサッカーは相対的な要素が強いスポーツで、いいプレーをしても敵が強ければ負けるし、悪いプレーをしても敵が弱ければ勝つことができる。当たり前だが、対戦相手のレベルを考慮しなければ、試合を正しく評価することはできないのだ。
 
 だから、この勝利は手放しで喜ぶようなものではないだろう。ただ、その一方で得たものは決して小さくないと思う。
 それは縦への速い攻め、1対1での激しさといった、アギーレ監督が志向するスタイルを選手たちがしっかりと体現していたからだ。
 対戦相手はともかく、「新監督がやりたいのはこういうことなんだね」という手応えを選手(とファン)がつかんだのは、アジアカップに向かう上で大きいはずだ。
 
 サッカーは相対的なスポーツだから、4日後のオーストラリア戦(11月18日)でもこんなプレーができるかどうかはわからない。だが、ものすごく楽観的に捉えれば、こんなふうに考えることもできる。
 アギーレのサッカーは支配率よりゴール――。日本サッカー界が長く囚われてきたポゼッション幻想に、近い将来、終止符が打たれるかもしれないのだ。
 ポジティブなことを書いた後で、ちょっと気になることを。
 華々しいゴールラッシュの中、なかなか居場所を見つけられず苦しんでいた選手がいる。香川だ。
 トップ下から右サイドへ移った本田、右サイドからCFに移った岡崎、ボランチからアンカーになった長谷部は、「新しい職場」でも適応能力の高さを見せている。特に本田はスケールの違いを見せつけた。そんな中で、香川だけが戸惑っている。
 
 ザックジャパンでの香川は、長友、本田と近い距離でプレーしていた。前監督は圧倒的な力を持つ3人をセットで使うことで、チーム力を伸ばそうと考えたからだ。
 
 これは香川にとっては、プレーしやすい環境だった。
 近くにサポートがいて、しかも左サイドのタッチラインを背にしているため、得意のドリブルを仕掛けやすい。もちろんゴールも近い。
 
 だが、アギーレが監督になって環境は大きく変わった。
 味方との距離は遠く、中央、しかもゴールから遠い位置にいるため、仕掛けにくくなったのだ。さらに守備力も求められる。
 
 局面での巧さは相変わらずだし、後半には2本の美しいロングパスを通した香川だが、存在感はかつてほどではなかった。
 
 アギーレの4-3-3に香川がぴたりとはまるポジションは、いまのところ見当たらない。
 トップ下は存在せず、3トップの左サイドにしても長いボールを収めて、単独で敵陣に斬り込む力強さが求められる。
 
 いままでの自分のままではいられない――。香川は正念場を迎えた。
 
取材・文:熊崎敬