第44回:幕内優勝記録

九州場所(11月場所)で
偉大なる力士・大鵬関と並ぶ、
通算32回目の優勝を目指す横綱。
その大記録への思いとともに、
今回は今季のプロ野球界を盛り上げた
「二刀流」大谷翔平について語る――。

 11月9日から大相撲九州場所(11月場所/福岡県)が始まりました。

 秋場所(9月場所)で13勝を挙げて大旋風を起こした「モンスター」逸ノ城は、前頭10枚目から一気に西の関脇に昇進。東の関脇にも、ここに来てじわじわと力をつけてきたブルガリア出身の碧山が座りました。身長192cm、体重199kgという逸ノ城と同様、碧山も身長192cm、体重197kgと恵まれた体格の持ち主。私の身長も彼らと同じ192cm(体重157kg)ですが、体重が200kgに迫る超重量級の"新星"たちには、さすがに脅威を感じています。

 今回、この九州場所を前にして、本場所に向けての稽古、調整法をこれまでと少し変えてみました。今までは、番付発表(初日の2週間前の月曜日)の週は、部屋で若い力士らを相手に調整。翌週からは、本場所での対戦が予想される、活きのいい力士がいる部屋に私が出稽古に行く、というスタイルでした。

 そんな形を少し変えてみようと思ったのは、親方になった先輩力士の方々に話を聞いたことがきっかけでした。先輩方の話によると、かつては横綱に稽古をつけてもらうために、若手力士や新三役の力士が横綱のいる部屋に出向いていたそうですね。それが、朝青龍関が横綱になった頃から、横綱自らが相手力士のところへ出向くようになってしまった、とうかがいました。

 朝青龍関にしても、最初からそうしたかったわけではないと思いますが、横綱の強さに恐れをなした他の力士たちが、いつの頃からか、出稽古にやって来なくなってしまったんですね。しかしそれでは、番付を上げて、本場所で対戦する可能性のある新たな力士の研究ができません。横綱として、場所前には入念にやっておきたいことの、大きな案件のひとつがこなせなくなってしまうわけです。そこで、朝青龍関は「相手がやって来ないのであれば、こちらから出掛けよう」と。そういう意図があって、横綱自らが出稽古に行くことになったようです。

 その慣例に私もこれまでは倣(なら)ってきたのですが、今回は稽古で相手にしたい力士に声をかけて、私が所属する宮城野部屋に呼んでみたのです。すると、大関の琴奨菊をはじめ、幕内の豊ノ島や魁聖など、多くの力士が稽古に来てくれました。その際は、非常にいい稽古ができましたし、自分なりにもいい感覚を取り戻すことができました。慣れ親しんだ場所で存分に稽古できたのがよかったのかもしれませんね。

 もちろん、出稽古にも行きましたよ。ただここ最近、"ここ"というところで黒星を喫してきた、豪栄道が所属する境川部屋に出向いたときには、あいにく豪栄道が怪我の治療のために不在。空振りに終わってしまいました。

 ともあれ、固定観念にとらわれず、いろいろな稽古パターンを試みるのも悪くないですね。今後もさまざまなことにチャレンジして、なお一層精進していきたいと思っています。

 肝心の九州場所は、初日から満員御礼が出るほどの大盛況です。なんでも、初日の満員御礼は17年ぶりのことだそうで、私としてもうれしい限りです。なにしろ、たくさんのお客様の前で相撲を取れることは、全力士の喜びでもあります。誰もが「いい相撲を取ろう」という気概を見せていますし、今場所も先場所に劣らぬ白熱した戦いが期待できるのではないでしょうか。

 そんな中、私にはこの場所で大きな記録がかかっています。ご存知のとおり、通算優勝回数です。秋場所で千代の富士関(現・九重親方)の通算31回という記録に並んだ私は、ついに今回、尊敬してやまない大鵬さんの通算32回(歴代1位)という大記録に挑むことになりました。

 29回、30回、そして31回目の優勝も、常に苦しい戦いでした。知らず知らずのうちに記録を意識して、自分の相撲が取れないことさえありましたが、その場所ごとに心掛けていたのは、「優勝回数に恥じない相撲をしよう」ということだけでした。

 今場所も、決して楽な戦いにはならないでしょう。実際、日々厳しい取組が続いています。しかし今回、私は対戦相手にも、記録へのプレッシャーにも、負けないつもりでいます。昨年亡くなられた大鵬さんが「V32を成し遂げてくれ!」と、きっと応援してくださっているのではないか、と思っているからです。その声援に応えるためにも、一年納めとなるこの九州場所で、なんとしても大記録を達成したい。今は、その気持ちが強いです。

 さて、話はガラッと変わりますが、プロ野球は今シーズンも大いに盛り上がりましたね。セ・リーグの優勝を果たした読売ジャイアンツがクライマックスシリーズで阪神タイガースに敗れたときには、「こんなこともあるんだ......」と驚きましたが、その阪神と、パ・リーグを制した福岡ソフトバンクホークスが素晴らしい日本シリーズを見せてくれました。

 シーズンを通して、注目していた選手もいます。現在行なわれている日米野球(11月10日〜20日)でも、侍ジャパンの一員として奮闘している、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手です。日米野球では、ピッチャーとして参戦するようですが、メジャーリーガーを相手にどんなピッチングを見せてくれるのか、とても楽しみにしています。

 シーズン中は、まさしく「二刀流」と言うに相応しい活躍でしたね。ピッチャーとしては、160キロの剛速球を繰り出して、圧巻の投球を披露。そのうえで、11勝(4敗)という輝かしい成績を残しました。一方、打者でも豪快なバッティングでファンを魅了。ホームランは、ふた桁の10本を記録しました。投手でも、打者でも、立派な成績を残した大谷選手には、本当に「すごい」のひと言しかありません。

 私は野球のことをあれこれ語れる立場ではありませんが、大谷選手は身長193cmという日本人離れした体躯が何より魅力。今後も、その武器を生かして、大いに活躍してほしいものです。

 まだ20歳と若い大谷選手は、これからまだまだ学ぶことも多いでしょうし、いろいろなことにチャレンジしていくと思います。その中で、相撲の力士が得意な「型」を見出していくように、大谷選手も自らが本当に生きる「型」というものを見つけていくのでしょう。

 今は、その途中にあると思いますが、2014年シーズンに見せたものが、「大谷流」とも言うべき、新しいプレイスタイルの始まりであったことは間違いありません。それが今後、どう変化していくのか、これからもしっかりと見守っていきたいと思います。

武田葉月●文 text by Takeda Hazuki