離婚、転職、貧困…社会のスキマに堕ちていく女の物語【小説『絶叫』著者インタビュー】
 女性の平均給与は268万円で、男性(502万円)の約半分。

 単身女性の、3人に1人が年収112万円以下という貧困状態。

 こうしたデータとともに、ここ数年、「女性の貧困」が大きくクローズアップされています。NHKが『あさイチ』『クローズアップ現代』などで大きく取り上げ、また、女性の困窮をテーマにしたルポルタージュも多く出版されています。

 先日出版されたミステリー小説『絶叫』は、決して、「女性の貧困」をメインテーマにしたものではありません。が、「平凡」な「普通」の人生を送っていた女性が、バブル崩壊をきっかけとした父親の蒸発から家族を失い、幸せな結婚もつかのま、離婚。転職を重ねるうちに気づけば無縁状態となり、貧困のために体を売るようになり、その生活も破綻を迎えて……という、社会の隙間に堕ちていく女の生涯が、ある凶悪犯罪と絡んで描かれます。

 壮絶な主人公の人生がリアリティをもって迫るのは、作者の筆致の巧みさはもちろんですが、「社会の隙間に堕ちていく女」が、決して、現代の日本において絵空事ではない、という現実があるからではないでしょうか。

 作者の葉真中顕(はまなか・あき)氏に、『絶叫』に込めた思いを聞きました。

――デビュー作『ロスト・ケア』(第16回日本ミステリー文学大賞新人賞)では、介護問題を取り上げ、制度の未熟さや、社会の理不尽さを提示されていました。新作『絶叫』は、国分寺のマンションで「鈴木陽子」という女性の死体が発見されるところから始まります。その彼女の人生を追っていく過程で、「女性の貧困」のほか、ブラック企業、貧困ビジネス、DV、ネトウヨなど、さまざまな“現代”の社会問題が描かれますね。

『ロスト・ケア』は、介護問題というひとつの社会問題をクローズアップした小説です。一方、今回の『絶叫』では、さまざまな社会問題を取り扱ってはいますが、私の中では「時代を描く」ということを目指したんですね。

時代――つまり、個人の力ではどうにもならない大きなもの、流れのようなものを書きたいと思ったんです。

この世の中で、100%自分の思いどおりに毎日を生きている人なんていません。何か、自分の意志とは関係のない、大きなものに翻弄される感覚というのは、誰だって、多かれ少なかれ抱いているはずです。

とくに、バブル崩壊以降、それまでの「前提」というものが大きく崩れ、「そのうちなんとかなるだろう」という感覚はまったく共有できなくなった。2000 年前後から、より大きなものに翻弄される感覚っていうのは強まっていると思うんです。

「鈴木陽子」は架空の人物ですが、時代の変遷とともに彼女の一代記を描くことは、同じ時代を生きる、誰にでも当てはまる物語になるんじゃないかなと、思って書きすすめました。

――主人公の「鈴木陽子」は1973年にある地方都市に生まれ、両親と弟の4人家族。地味で目立たない「普通」の学生生活を送り、まあ、それなりに恋もして、「こんなもんか」と思いながら日々を過ごしています。それが、2000年、父親が失踪。そのとき、作品中にはこんな表現が出てきます。

 あなたはまだ気づいていなかった。(略)「地に足をつける」と思ったところで、その地面の中身がぼろぼろなら、ちょっとした拍子で崩れてしまう。

 ここから、陽子は堕ちていくわけですが、現在、注目を集める「女性の貧困」については、葉真中さんはどう思いますか?

昔からあったものではあるけれど、今、強く可視化されてきた、ということなんだと思います。社会の矛盾のしわ寄せは、基本的にいちばん弱いところにいきますから、それが近年になって、大きくクローズアップされるようになったのかなという印象ですね。

すごくわかりやすい例で言えば、たとえば、昔は女性が学校を出たあと、「家事手伝い」っていう、ひとつの身分というか進路がありましたよね。

もちろん、今でもそれが可能な家もあるとは思います。しかし、経済事情や家庭の事情で、いつまでも自立しない娘を家においてはおけないという家庭が圧倒的に増えています。

女の子は学校を出たら、家事手伝いをしてそのうち結婚でもすれば……というライフプランが成立しづらくなっていて、かといって、誰もが社会に出て働いて自立できるわけでもない。単身女性の3人に1人が貧困ライン以下の収入しかないことなどからも、個人の選択の問題以前に「イス取りゲーム」のイスが足りない状況は明らかです。

そもそも、女性が自立をして生きていくということを想定して、社会がデザインされていないわけです。かつての高度成長期なんかは、それで上手く回っていたのかもしれないけれど、バブル崩壊以降はそうはいかなくなってしまった。時代が変化しているのに、社会の枠が変わらないのですから、こぼれ落ちてしまう人が出てくるのも当然と言えば当然です。

そして、それは同時に「女性が弱い立場におかれやすい」ということの裏返しなんだと思います。社会に矛盾が生じたとき、そのしわ寄せは弱者にいきます。つまり、女性だけでなく、同じように弱い立場の人にも、同じような困難が降り注いでいるということもでもあるわけです。

メディアで「女性の貧困」がクローズアップされている影で、同じように貧困問題で矛盾のしわ寄せを受けている人も、当然いる、ということだと思います。

⇒【後編】「“バカな女”が転落するのは本人のせいなのか?」続く http://joshi-spa.jp/157805

【葉真中 顕(はまなか・あき)】
1976年東京生まれ。2009年、児童向け小説『ライバル』で角川学芸児童文学賞優秀賞受賞。2012年『ロスト・ケア』にて第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、ミステリー作家としてデビュー

<構成/鈴木靖子>