一般タイプのえちごトキめき鉄道ET122形ディーゼルカー。日本海の波をイメージしたデザインになっている(資料:えちごトキめき鉄道)。

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電車を走らせられる設備があるのに、ディーゼルカーを走らせる鉄道会社が2015年3月に開業します。なぜ電車を使わないのでしょうか。その背景には複合的な要因がありました。

電気で走る「電車」と軽油で走る「ディーゼルカー」

 北陸新幹線が金沢まで延伸開業することに伴い、2015年3月14日、並行在来線がJRから経営分離されます。

 そのうち、新潟県エリアの並行在来線を引き継いで開業する「えちごトキめき鉄道」が2014年11月11日、導入を予定している「イベント兼用車両」のデザインを発表しました。同鉄道によると、長岡造形大学(新潟県長岡市)との産学協同プロジェクトで制作したそうです。

 えちごトキめき鉄道には、山間部を走る妙高高原〜直江津間の「妙高はねうまライン」と、沿海部を行く直江津〜市振間の「日本海ひすいライン」の2路線があります。「イベント兼用車両」はそのうち、「日本海ひすいライン」の普通列車用に導入されるET122形ディーゼルカーをイベント対応仕様にしたもので、グループが向かい合わせで旅を楽しめる「対面式ボックスシート」を採用しているのが特徴です。臨時列車や貸切列車に使われますが、通常時は「日本海ひすいライン」の普通列車として走るといいます。

 さて、来春からこの「日本海ひすいライン」になるJR北陸本線の直江津〜市振間は現在、電化されており、「電車」が普通列車として走っています。分かりやすくいうと線路上空に電線が設置されており(架線)、そこから電気を取り込みモーターを回して走行する「電車」が走っています。

 しかし「日本海ひすいライン」に導入される車両は先述の通り、軽油が燃料のエンジンで走る「ディーゼルカー」です。ディーゼルカーは一般的に架線がない路線で使用されますが、なぜ架線があるのにディーゼルカーを使うのでしょうか。

電車だと無駄になる?

 その理由としてまず、「日本海ひすいライン」の糸魚川駅付近に存在する「交直セクション」が挙げられます。架線に流れている電気がそこを境に、交流と直流で切り替わるのです。そのため「日本海ひすいライン」を走る電車は、交流と直流の両方の電気に対応している必要があります(交直両用)。

 また「日本海ひすいライン」の需要は多くなく、ラッシュ時は2両編成、日中は1両編成で運行が可能です。しかし交直両用の電車は、最短でも2両編成になります。つまり1両分、むだが出てしまうのです。

 それに対しディーゼルカーは1両単位で運転できるうえ、そもそも電気を使わないので交直セクションの存在を考える必要はありません。そのため「日本海ひすいライン」では使い勝手が良く、むだなコストを出さずにすむディーゼルカーを使用するというわけです。

 ディーゼルカーを採用する要因はほかにもあります。同鉄道の資料によると、車両の製造費用について交直両用電車は2両編成で3.4億円しますが、ディーゼルカーは1両1.4億円と割安です。

 また同線を経由して近畿方面と北海道方面を結んでいる貨物列車は、電気機関車による運転です。しかしえちごトキめき鉄道の列車はディーゼルカーなので、架線などの電気設備を使用しません。そのため電気設備の維持経費をJR貨物に多く負担してもらうことができるといいます。

 ただディーゼルカーの採用によって、摩耗品が多いため電車より車両の維持管理費が割高であったり、電車よりCO2排出量が多いというデメリットもありますが、並行する北陸自動車道の排ガス量と比較すると54分の1しかないと試算されるなど、総合的に電車ではなくディーゼルカーのほうが適していると判断されました。

 このように架線がありながらディーゼルカーを使っている例は、同様に交直セクションがあるJR東日本羽越本線の村上〜酒田間にみられます。また九州の肥薩おれんじ鉄道も、交直セクションはありませんが、コスト面から電車ではなくディーゼルカーを使っています。

ディーゼルカーが軽油1リットルで走れる距離は?

 鉄道のディーゼルカー、はたしてその燃費はどのくらいでしょうか。

 2013年10月から設計・製造が始まっているえちごトキめき鉄道ET122形ディーゼルカーの主要諸元は、同鉄道の資料によると以下のようになっています。

・製造元:新潟トランシス(JR西日本キハ122形をベースに製造)
・重量:40.5トン(一般車両)
・最大長:20.8m
・最大幅:2.9m
・最大高:3.65m
・車体構造:ステンレス鋼製溶接構造(前頭部は鋼製)
・定員:113人(一般車両)
・エンジン:SA6D140HE-2×1台(過給器および吸気冷却装置付き直噴型ディーゼル機関・コモンレール燃料噴射システムの採用により排出ガス、特にNOxを大幅に削減)
・出力/回転数:331KW(450ps)/2100rpm
・最高運転速度:100km/h

 このスペックで、燃費は1.5km/Lとのこと。ただ鉄道のディーゼルカーは自動車と異なり、アイドリング状態のまま惰性走行する状態が長く続きます。そのため一概に自動車の燃費と比較することはできませんが、100人以上を乗せて1リットルの軽油で1.5km走れるという点は、鉄道の省エネルギー性という意味で注目すべきところでしょう。