中国のアリババグループがニューヨーク証券取引所に上場し、その調達金額が新規上場企業で過去最大規模になった。米国では中国ネット企業の人気が高いが、「中国株の空売り王」と呼ばれるブロック氏は中国ネット株人気に警鐘を鳴らしている。

9月19日、中国のEC(電子商取引)最大手アリババグループ・ホールディングがニューヨーク証券取引所に上場した。取引開始日の株価は募集価格を4割弱上回り、調達金額は新規上場企業としては過去最大規模となった。

上場した日の早朝にニューヨーク証取を訪問した創業者の馬会長は地元マスコミに追いかけ回されていた。熱い口調で語る馬会長は人を魅了する力があるし、上場で馬会長の保有資産は130億ドルを上回ったとされる。カリスマかつ金持ちはニューヨーカーが好む

タイプだ。

ニューヨークの地元シンクタンクは「社会を変えた人」という新設の賞で馬会長を表彰

することにした。10月にも市内で授賞パーティーが開かれる。上場に合わせて馬会長が授賞するとは偶然にもほどがあるが、アリババが企業のCSR(社会貢献)に関連して30億ドルの予算を新設したこともあり、「寄付金目当て」という皮肉交じりの声が聞かれた。

米国では中国ネット企業が人気を博している。アリババだけでなく米国メディアではインターネット検索大手の百度(バイドゥ)などの中国人経

営者が引っ張りだこである。

ウォール街でも中国ネット株は注目の的だ。米国S&PキャピタルIQによると上場する中国ネット株の多くは赤字か、黒字であっても予想PER(株価収益率)が50倍を超える銘柄は珍しくない。

馬会長がニューヨークを訪れる直前の9月上旬、中国ネット株人気に警鐘を鳴らす米国人が登場した。別名、「中国株の空売り王」。投資会社マディ・ウォーターズ・リサーチを率いるカールソン・ブロック氏である。

ブロック氏は数々のアジア企業の会計疑惑を暴いてきた。ビジネスモデルや会計報告に問題のある中国株への空売りで知られている。あまりにも影響力があるので、脅迫状が届き、中国政府からは情報収集活動を制限されているそうだ。本人はプライバシーを守るためにクレジットカードも名刺も使わない。

ブロック氏が問題視するのが、「VIE」と呼ばれる中国ネット企業が米国上場で利用する仕組み。インターネットなど中国では国益の絡む分野には外資参入が制限されており、その分野で活動する中国企業が海外で資金調達できるようにする「法テク」である。

まず、ケイマン諸島などで米国に上場するSPC(特別目的会社)を登記し、SPCは中国内にWFOE(外国人保有会社)を子会社として設置する。WFOEが外資規制されている分野の中国事業会社と役務契約を利用して、間接的に中国内の事業を支配する。

このため、米国の投資家は本当の意味での株主ではない。企業統治面が弱点となるのだ。

米国議会は今年6月にVIEの所有構造リスクに注目した報告書を発表しているが、ウォール街では反応薄だった。中国ネット株人気は、低金利政策が長期化する市場の「カネ余り」を象徴している。

Hajime Matsuura
松浦 肇
産経新聞
ニューヨーク駐在
編集委員
まつうら・はじめ/日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナズム・スクールにて修士号を取得。

この記事は「ネットマネー2014年12月号」に掲載されたものです。