もう一人、同じように劇症心筋炎を体験した都内の飲食店経営、Aさん(51)の例も紹介しよう。
 Aさんは沖縄県宜野湾出身。上京して20年以上になり、現在は陽に焼けた健康な人に見える。
 しかし、2年前は風邪をこじらせ、咳、熱、頭痛を発症し、近所のクリニックに駆け込み、その時は“風邪”と診断された。
 ところが、夜になると胸の上の方に痛みを感じ、心拍数もかなり速くなっていたため、インターネットで調べたら「心筋炎かも?」と不安にかられ、翌日に同じクリニックを再受診したという。
 「心筋炎と違いますか?」と医師に尋ねるAさん。「大げさだなぁ」と言いながら聴診器を胸に当てた医者は、異常を察知したらしく表情を一変させ、心電図も撮った。そしてすぐに、同じ区内の総合病院を紹介され再検査を受けることになった。

 その頃のAさんは、自分の容態のおかしさに気づいており、夕方には意識が朦朧とする状態に陥った。事態を重く見た担当医師は、高度な医療技術を備えた病院への転院措置を取り、大学病院へと救急搬送された。
 しかし容態はさらに悪化。転院先の医師から、「ご家族を呼びましょう」と告げられたことを、Aさんは微かに記憶しているという。
 心臓は、すでに自力で動くことができない状態で、一時は人工心臓が取り付けられ危機的な状態。
 「人工心臓で命はあるものの、あとは運次第で心臓が回復するか、自力では動かないかのどちらかです」と、医師から家族に伝えられたというから、相当深刻な状況だったことが想像できる。
 それでもAさんの心臓は強かった。死線をさまようこと2日、幸いにも心筋の炎症を乗り越え、一命を取り留めることができた。

 東京社会医療研究所・村上剛主任は言う。
 「その方は、心不全を起こすほどの致死的な状況だったのでしょう。補助循環法(経皮的心肺補助、大動脈バルーンパンピング、補助人工心臓)の処置がとられたと思います。しかし、心筋炎がすべて深刻な事態を招くかというと、そうではありません。心筋炎が悪化して劇症化する前に、適切な治療をしていれば死線をさまようところまでいきません。しかし、劇症化する危険はあるので、それに備える必要はあります。また、例え命が助かっても、その後に外科手術やペースメーカーが必要になる疾患も多いということを知っておくべきです」

 最後に、心筋炎を防ぎ、Aさんのように深刻化させないためのアドバイスを専門家が語る。
 「まずは風邪にかからないように心掛けること。また、咳、発熱などの風邪の症状に続いて、息切れ、胸痛、動悸、脈の乱れなどが表れたら心筋炎を疑って、専門医に相談すべきです。とにかく自己判断で風邪薬や消炎剤などは飲まないことです」

 温度差が激しくなるこれからの季節、体の自己管理は大切な事である。