11月特集 フィギュアスケート新時代 (3)

 11月8日のフィギュアスケート、グランプリシリーズの第3戦、中国大会の女子フリー。前日のショートプログラム(SP)でトップに立っていたユリア・リプニツカヤ(ロシア)の演技は、序盤から勢いのないものだった。

 リプニツカヤはふたつ目のジャンプの3回転サルコウで転倒。さらにステップシークエンスでは途中でエッジを氷に引っかけて一瞬止まってしまうミスが出るほど。後半に予定していた3回転+3回転の連続ジャンプは、フリップが1回転になり、次の3回転フリップは跳んだがダウングレードでさらに失速。その後の3回転ルッツも1回転になって手をついてしまい、スピードのない滑りのまま演技を終えた。

 最終滑走だったリプニツカヤの演技前の時点で、村上佳菜子はエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)に次ぐ2位。表彰台が確定していたが、リプニツカヤが低調な演技に終わったため、2位もあり得るかと期待が膨らんだ。だが、フリーで村上が4・94点リプニツカヤを上回ったものの、SPと合わせた合計得点では4・18点届かず3位に終わった。

 今大会の村上は、SPで3回転フリップが回転不足になるミスだけに抑えたが、得点は思ったほど伸びず60・44点に止まり「まだまだ練習どおりにできていないし、フリップが跳ねてしまって、うまくはまらなかったのが悔しい」と、反省を口にしていた。同時に、「まだ伸びシロがあるんだと確認できたのはよかった」と前を向く村上は、フリーでの逆転を狙っていた。

 だが、その思いが力みにつながったのか、フリー冒頭の3回転ループは回転不足になってGOE(出来ばえ点)で1・90点減点。続くダブルアクセル+3回転トーループは1回転半+1回転になってしまい、その後のふたつのスピンも丁寧にはこなしたもののスピードが落ちてしまっていた。

 それでも、「最初に失敗した時は焦っていました。今までは、ああなると立て直すことができずにグダグダになっていたけど、今回は立て直すことができたので、少しは成長したかなと思います」と村上自身が言うように、昨季までとは違う力強さがあった。

 後半に入って最初のジャンプだった3回転ループ+2回転トーループ+2回転ループの3連続ジャンプを、回転不足はあったもののすべて決めると、残り4回のジャンプはすべて成功させて演技を終え、「(3連続の最初の)ループが決められなかったらグダグダになったと思うけど、アンダー(回転不足)でも決められて自信になった」と笑顔を見せた。

「表彰台に上がれたのは嬉しいけど、自分の力を出しきれなかったのはすごく悔しいです。最初のループは朝の公式練習でも失敗していたから不安もあった。そのイメージを頭の中から消すことができなくて、スピードもなかったと思います。それでも後半は自分がやりたいことができたので、今望んでいる演技に少し近づけたかなと思います」

 今回の中国大会の3位で、村上は12月のグランプリファイナル進出(※)へ可能性を残した。初戦のアメリカ大会で2位だったトゥクタミシェワは、今大会の優勝でポイントを重ねてファイナル進出が確定。アメリカ大会優勝のエレーナ・ラジオノワ(ロシア)と、カナダ大会で優勝したアンナ・ポゴリラヤ(ロシア)も進出の可能性が高い。

※各大会を勝ち抜いたポイントの合計の上位6名が、12月にバルセロナで開催されるファイナルに進出。選手はひとり2大会まで出場。ポイントは1位:15、2位:13、3位:11、4位:9、5位:7、6位:5、7位:4、8位:3。

 また、ソチ五輪女王のアデリナ・ソトニコワ(ロシア)は、ロシア大会の欠場が決まってファイナル進出は絶望的。今回2位のリプニツカヤは、11月22日からのフランス大会で、ラジオノワやカナダ大会2位のアシュリー・ワグナー(アメリカ)との対決が待っている。仮にフランスでラジオノワが3位になってリプニツカヤとワグナーが2位以上になると、そこで3人のファイナル出場が決定し、ラジオノワが2位以上となれば、3位になった選手は最終戦のNHK杯(日本大会)の結果を待つことになる。

 村上の次の大会は11月28日からのNHK杯で、アメリカ大会3位のグレイシー・ゴールド(アメリカ)とカナダ大会3位の宮原知子との争い。そこで優勝した選手がファイナル進出を決め、2位以下になればフランスで進出を確定できなかった選手との競争になる。もし村上とワグナーのポイントが並んだ場合、村上はカナダ大会でワグナーが出した186・00点(SP、フリー合計)を上回らなければファイナル進出が難しくなるというきわどい戦いが待っている。

「以前は試合が怖かったこともあったけど、ソチ五輪の後は『自分がこれまでやってきたスケートを評価してもらえる機会は、この先何回かしかないんだ』と思ったら、怖がっている場合じゃないと思ったし、楽しもうと思えたんです。だから、試合に対してもリラックスした気持ちで臨めるようになった。練習はきついけど、勝つために頑張っていると思えばすごく楽しい。次のNHK杯はファイナルへ出るために勝つことを目標にしたいです。去年までの私だったらこういう時に『ベストを尽くして満足できればいい』と言っていたと思うけど、今は強気というか、『絶対に負けないぞ』という気持ちでいるんです」

 明るい笑顔を見せる村上が口にする「NHK杯で勝つための課題」は、「ジャンプの回転不足をなくすこと、要素と要素のつなぎをさらに洗練させていくこと」と言う。

 実際、今回のフリーを見ても、村上がミスをしなかったジャンプでもGOEの加点はほとんどの審判が1点で、中には0点やマイナス1点を付ける審判もいた。彼女のジャンプのひとつひとつを見ても、今回は跳ぶ前の準備動作が大きすぎた。また、要素と要素のつなぎの動作もロシア勢のように複雑さはなく、単調に見える部分が多かった。

 だが、ジャンプに自信を持てるようになれば、その動きも洗練されて加点をもらいやすくなり、そこでの余裕が、つなぎの動きにもゆとりを与えていくはず。そう考えると、早急に取り組まなければいけないのは、ジャンプの精度を上げることだろう。

 浅田真央の休養と鈴木明子の引退でエースとしての責任感が増し、勝利への意欲を持ち始めた村上。NHK杯まで3週間の取り組みと努力が、今季の彼女の行く道を大きく変えていくことになる。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi