古代メソポタミア文明の記録にもある「耳鳴り」。紀元前の昔から研究されているが、いまだに「難治」の病である。

 医学の父、ヒポクラテス(紀元前460〜370年頃)の仮説では、「頭蓋内の微細血管の拍動が、頭蓋内に反響すること」が原因。その後も様々な仮説が登場したが、いまだにこれといった決定的原因は判明していない。

 普通に社会生活を営んでいる人の有病率は10〜20%と案外高い。加齢とともに増加し、50代以降は男性の発症頻度が女性を上回る。このうち1割が睡眠障害やイライラ感、仕事や生活の妨げになるほどの慢性的な耳鳴りに耐えている。そんなときは「歳のせい」という思い込みや諦めは禁物。耳鳴りは難聴や他の疾患に伴うことも少なくない。専門医を受診することが先決だろう。

 先日、米国・耳鼻咽喉科学会から初の「耳鳴り診療ガイドライン」が発表された。18歳以上の成人の慢性的な耳鳴りが対象。ここでも片耳だけに発生し、6カ月以上続いている場合は、直ちに聴覚検査を行うよう推奨している。

 治療法としては唯一、「認知行動療法」が推奨された。その一方で、抗うつ剤や抗不安薬などの薬物療法、メラトニン、イチョウ葉などのサプリメントや電気的刺激療法は推奨されていない。

 認知行動療法は、耳鳴りに対する「不安・恐怖」をゆっくり緩和し、耳鳴りに注意を集中してしまう心理を改善する目的で行われる。カウンセリングや、バイオフィードバック療法──顔〜上半身の筋肉がリラックスした状態を自分で認識する訓練と、リラクセーション法の学習を含むことが多い。

「TRT」と呼ばれる音響療法を組み合わせることもある。これは、耳鳴りを妨げない程度の「ホワイトノイズ」を補聴器型の音源から流し、耳鳴りから気をそらす方法。原始的だが即効性と有効性は期待できる。機器の購入費用が高いのが玉にキズだ。

 残念だが耳鳴りの根本的な治療法はまだない。現段階での治療の目標は「治すこと」ではなく、「耳鳴りがあっても、苦痛なく普通に暮らせること」、これに尽きる。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)