就活で学生に不人気に職種の代表は「営業」だろう。なんとなく泥臭くてしんどいイメージがある。営業の真の姿とはどうなのか。どうあるべきなのか。1冊の本をきっかけに作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が考える。

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 営業。

 世の中の多くの人が営業職をしているのにも関わらず、これほど誤解されている職業もないのではないかと思ってしまいます。よくドラマなどではゴリ押しする、あるいはやたらとペコペコするイメージで描かれますよね。この職業の実態はどうなっているのでしょうか?

 そんな営業職の実態を捉え、その魅力と、強い営業とは何かを実にわかりやすく、絶妙なバランスで描いた本が登場しました。『営業部はバカなのか』(北澤孝太郎 新潮新書)です。

 予想がついた方もいらっしゃるかと思いますが、営業部はバカではないということを描いた本です。そもそも、バカかどうかの議論はほとんど出てきません。むしろ、営業という仕事がいかに深いかということがよく分かる本です。このあたりの、絶妙なタイトル設定と、内容のキャッチーさと深さの両立は、さすが最近ヒットが多い新潮新書という感じです。

 毎年、就活を始めたばかりの学生と話すと首を傾げてしまう瞬間があります。

「えっと、僕は、クリエイティブな仕事がしたいので、営業とかよりも、企画の仕事をしたいっす」

 みたいなことを言うわけですよ。こういう学生に限って、ちょっと広告研究会なんかに入っていて、でも学生時代に力を入れたことといえば先輩の代から毎年決まっている学園祭の企画に取り組んだくらいで、話も別に面白くないのですけどね。

「現場のニーズを掴んで、それを商品・サービスに落としこむような仕事をしたいです」

 なんてことを言うわけですよ。それって、営業の仕事じゃないですか。そう、実は営業の仕事には、商品・サービスに現場のニーズを反映させていく、一緒につくっていくという要素もあるのですね。これくらい、営業の仕事は理解されていません。

 ただ、無理もないです。皆さん、この職業をどう説明しますか?英訳するとしたならば、どうなりますか?私、これは、簡単そうで難しいと思うのですよ。以前の職場で、「営業にかわる肩書きを考えよう」というプロジェクトが実際にあったわけですが、その時はいったん「営業のままでいく」ということで着地しました。というのも、仮に英語で表現しようとしたところで、あまりに業務内容が幅広く、うまく表現できないのです。営業と一言で言っても、同じ企業の中でも新規開拓中心か、既存顧客が相手か、顧客は法人なのか個人なのか、扱っている商品・サービスは何なのか、単価は高いのか低いのかなどによっても仕事内容は違いますからね。

 この本は、実にわかりやすく、営業とは何か、果たすべき役割は何なのか、強い営業とは何かを説明しています。

 個人的に、秀逸だなと思った点の一つは、営業活動とは何かという定義です。ややネタバレですが、著者の北澤孝太郎氏は次のように定義しています。

 営業活動=新しい価値創り+ブランド構築や広告宣伝+セールス活動

 いかにも営業っぽい、セールス活動以外の活動に注目です。これは、まさにクリエイティブであり、頭を使う要素だとは思いませんか。個人的には、この定義に「ブランド構築」という要素が入っている点は注目すべきかと思います。「新しい価値創り」に関しては、よく現場のニーズを商品・サービスに反映させて行くのは営業の仕事というふうに説明されますからね。営業活動を通じて、商品・サービスや、もっと言うならば企業のブランドは創られていくのです。

 これまたネタバレですが、彼は営業力を次のように定義しています。

 営業力=(個別顧客対応力+新規顧客開拓力+顧客価値創造力)×好印象頻度

 詳細な内容は本書を読んで頂きたいとのですが、この式をみて私が考えたのは、顧客や市場に向かい続けることが、次の新しい価値の創造につながるということでした。そして好印象頻度というコンセプトは実に秀逸です。

 効率的な営業なるものが求められる時代でありますが、新しい価値の創造ということを意識しない場合のそれは、単なるルーチンワークであり、次の市場を創れず自滅することも再確認した次第です。

 この本を読んでいると、あたかも自分が売れる営業マンになったかのような気になってきます。ただ、この本で論じられているような、科学的でありつつ、市場や顧客と向き合い新しい価値を創りだすような営業をしている企業はどれだけあるのかとも考えてしまいました。そういう活動をしないから、タイトルにかぶせて言うならば「営業部ってバカじゃないのか」と思ってしまうのでしょう。

 世の中を動かしているのは、営業マン、スーパーマンではなく営業マンです。そして、この営業の仕事が理解されていないことは(されにくいことは)、日本の就職活動・採用活動の永遠の課題でもありました。ベストセラーでありつつも『13歳のハローワーク』(村上龍 幻冬舎)はキャリア教育関係者に必ずしも評判がよくないのは、社会を知らない少年にもわかりやすい専門職だらけで、多くの人が取り組んでいる営業という仕事があまり描かれていないことも一因でした。

 既に営業の仕事をしている人、これから社会にでる学生さんもそうですが、営業職の魅力をうまく説明できずに困っている企業の人事担当者、大学のキャリア教育関係者にもオススメの本です。

 さすが、営業のプロの方の本だけあって、この本の売り方にもプロを感じます。梅田の紀伊國屋書店では新書部門1位だそうですよ。

 ぜひ、チェックを。