王者の試練!練習中の激突・大流血にも負けずに演技をつづけた羽生氏は男だが、休むのもまた勇気だと思う件。
本人は「できる」と言うので、「やめる」を言うのは周りの仕事!

痛い所のないアスリートなどいない。多かれ少なかれ、身体を酷使するアスリートは一般人の思う「体調万全」とは遠い世界で生きていることでしょう。ヒザの痛みや腰の痛み、古傷の疼き、そういったものを抱えながら、だましだましで日々を過ごし、「競技に支障のない状態」をして「万全」と呼ぶのでしょう。

だから、痛いからといって、苦しいからといって、逃げることは出来ない。そんな意識も生まれるのかもしれません。多くの名選手がそうやって戦ってきました。足の靭帯を断裂しながら五輪の金メダルを獲った選手もいました。痛み止めをがなければ立ち上がれないような状態で強行出場する選手もいました。腰にボルトを埋めたまま祖国のために戦い、大会途中で力尽きる英雄もいました。切れた靴紐で演技をつづけた…は違うか。とにかく、「怪我を押して出場」することは尊い人間の輝きだと思うのです。

ただ、全部が全部、いつもいつでもそうである必要はないでしょう。

より大きな舞台を控えているとき、取り返しのつかない事態があり得るとき、そこは正しいバランス感覚で判断してもらいたい。選手はいつだって「できる」と言うもの。試合への興奮が天秤を「できる」に振り切らせているものです。だからこそ、コーチや医師など周囲の人間に「やめる」を決める仕事が求められるのです。ボクシングでもタオルを投入するのはセコンドの役目です。ドクターストップを決めるための医師がおり、その判断を促すレフェリーがいます。

その意味で、フィギュアスケートGPシリーズ第3戦中国杯での羽生結弦氏陣営は、どこまで周囲が主導権を持って判断できていたのかなと疑問を覚えます。頭・アゴを強く打ってしばらく立ち上がれなかった状態の選手が、ときおりカクカクと身体を揺らすような状態で、あえてつづけるべき試合だったのかなと。大丈夫かもしれませんし、本人の感覚は大丈夫だったのでしょうが、何があるかわからないのが頭部の怪我。足とか腕とかとはワケが違います。本人の「できる」だけで判断するようなことがあってはならない怪我だと思います。

やってしまったことは仕方ないわけですが、今後も同様の事故は十分に懸念されるもの。一応試合後には病院に向かい、日本に緊急帰国しての精密検査も予定しているようなので、そこで良好な診断結果が出ることを期待しますが、試合をする前に病院に行くくらいの警戒心を今後は持ってもよいように思います。先に病院に行けば、いろいろと不都合もあり、GPファイナル出場もなくなるでしょうが、それはそれでしょうがないでしょう。

ということで、練習中の衝突でリンクに倒れ込み、アゴから大流血の状態で試合に臨んだ羽生氏について、8日のテレビ朝日中継による「フィギュアスケートGPシリーズ・中国杯 男子フリー」からチェックしていきましょう。


◆頭を打った選手が競技に復帰する際の目安は、一応あります!


世界に衝撃が走った直前の6分間練習。羽生氏は軽快にジャンプなどを決め、会場をわかせていました。しかし、後ろ向きに滑りながら次の動作に移ろうとするところで、同様に後ろ向きで滑ってきた中国のハンヤンと激突。両者はリンクに倒れ込みます。羽生氏も倒れたときに強くアゴを打ち、リンクに擦って切ったでしょうか、アゴから大量の流血を見せます。

↓衝突するたびに思うことですが、6分間練習の仕組みはいい加減変えてもいいと思います!


そもそもゴチャゴチャしすぎなんだよ!

演技順での有利不利も大きいし!

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これは中国だからなのか、あるいはフィギュアスケートだからなのか。事故発生後の対応に僕は驚きを覚えます。頭部を打って倒れた選手が、起き上がれないでいるという状態で、ストレッチャーが出るわけでもなく、医療スタッフと思しき人物が起き上がる羽生氏を止めるでもなく、自力での退出を容認したのです。リンクから上がる際にはふらつくような仕草も見せた羽生氏を、そのまま動かしてよかったものか。医療スタッフはどういう判断だったのでしょうか。

例えばサッカーやラグビー、アイスホッケーなど頭部への衝撃、脳震盪などを頻繁に起こすスポーツでは、SCAT(Sport Concussion Assessment Tool)という基準を用い、選手の競技復帰を判断しています。これは国際スポーツ脳震盪学会なる会議で制定されたもので、脳震盪を起こした選手を評価するための標準化されたテストなのだとか。選手を復帰させる方向でのテストであって、安全管理を第一としたものではないかもしれませんが、一定のガイドラインはあるわけです。

↓Jリーグの場合で言うと、このような指針で対応することになっています!
1. ピッチ上での対応

ピッチ上で頭部外傷を被った可能性がある選手に対する対応は、以下の通りの順序で行うのが望ましい。

●呼吸、循環動態のチェックをする。
●意識状態の簡単な確認後、担架などでタッチラインへ移動させる。この際には、頸部の安静には十分に注意する。
●簡易的な脳振盪診断ツール(付図1)を用いて、脳振盪か否かの判断をする。これは、チームドクターによる診断が望ましいが、不在の場合にはATなどが代行する。
●診断ツールで脳振盪が疑われれば、試合・練習から退くべきである。短時間のうちに回復したとしても、試合復帰は避けるべきである。

http://www.jfa.jp/football_family/medical/b08.html

リンクで寝るのは辛いから選手も頑張って起きるわな!

でも、「担架でーす」とストレッチャーが飛んで来たら、自分で歩いて出たかしら?

そもそも、その場から動かしてよいかどうか、判断できる人物はいたのかしら?

本人の「大丈夫」を疑い、周囲が「大丈夫かな?」と評価する体制は必要です!

本人は大体「大丈夫」って言うんだから!

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リンクサイドで寝そべるハンヤンの様子を見ても、取り囲んでいるのは中国チームの面々だったりして、赤十字をつけた医療スタッフの姿は映像では見られません。フィギュアスケートの医療スタッフなんて、基本ヒマなわけですから、こういうときはマックスフル対応をしてもよさそうなものですが、どうなのでしょうか。今回は無事だったとしても、より深刻な事態となった場合に、最悪の事態を回避できる体制なのかは疑問に思います。

結局、羽生氏は立ち上がり、試合を続行します。頭には包帯をグルグル巻き、アゴにはテープを張り付けた姿で。「そのテープが剥がれて落ちた場合は、やっぱり1点減点なんやろか…」などという疑問を差し挟むことはもはや出来ない悲壮感。ときおり腰をかがめながら、フェンスに寄りかかりながら、そして逆に「ハンヤンは?」と激突した相手のことを気づかいながら、王者はリンクへ向かいます。

激突を起こしたのは、おそらく4回転サルコウの確認のところだと思われますが、復帰後の練習でも同じ箇所をしっかりと確認する羽生氏。後ろ向きに滑ることにビビッたりせず、先ほどの激突シーンと変わらない軌道を滑り抜ける強さを見せます。滑りの様子からは、痛めたアゴだけでなく、ほかの箇所にも影響があるのかなという素振りも見せますが、王者はリンクから頑として退きません。これが「王者」としての自覚なのかもしれませんが…。「王者」ってのは厳しいものですね…。

再開された競技。一時は棄権するのではないかという憶測も流れたハンヤンもリンクに戻ってきます。しかし、冒頭のトリプルアクセル、つづく4回転トゥループはいずれも転倒。それでもしっかりと回り切るあたりは男を見せます。2回目のトリプルアクセルは抜けて1回転に、スピンもレベルを取れる内容ではなく、苦しい演技がつづきます。後半のトリプルフリップは跳ぶ構えだけとなるなど、地元でなければ、きっと帰っていただろうなと思う状態です。

↓ハンヤンはフリー127.44点で総合7位に!


勝ち負けで言っても、今後のことを考えても、休んだほうが得だったのでは…?

地元のスターが休めないという事情はあるのでしょうが…。

うーん…。

衝突時の当たり方から言って、そのハンヤンよりもダメージが大きいように思われる羽生氏は、ハンヤンにつづいての演技順。ハンヤンが滑り切った姿に拍手を送り、自分も続くぞと気持ちを奮い立たせます。スタートのコール。すでに衣装には血の跡がつき、応急処置の絆創膏にも血が滲んでいます。

演技内容は厳しいものでした。冒頭の4回転サルコウは回り切って転倒。つづく4回転トゥループも同じく転倒。演技中盤、ファントムが仮面をはずすような仕草を見せる場面が、側頭部の傷を気にする仕草に見えてくる痛々しさ。演技後半に用意した4回転トゥループは回避するなど、本来の予定には遠く及ばない状態です。何度も転倒し、そのたびに起き上がるまでの停滞を見せる。そんな中でも、トリプルアクセル-シングルループ-トリプルサルコウという高難度コンボも決め、最後まで滑り切りました。演技は不満足なものでしたが、男は存分に見せてもらいました。

↓内容はボロボロでも154.60点の高得点!総合2位となりGPファイナルへの望みもつないだ!



よし、お疲れ!

今日はもう終わりだ!

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得点云々、内容云々への反省はもういいでしょう。無事に終えることが出来たなら、それでOKです。そして無事に終えることが出来たなら、この経験そのものが大きな勝利です。人生はいつだって不都合なもの。「こんなタイミングで…」と思うときに限って、怪我や不運が起きるのが人生です。

そのとき、逃げずにいられるか。それを乗り越えていけるか。逃げずに戦えたという事実は、試練の日に備える大きな自信となるでしょう。あえて何度も経験する必要はないことだと思いますが、この経験がいい収穫となるように、体調面での無事を祈りたいものです。だから、この次同じようなことがあったときは、勇気を持って休んでほしいもの。「僕はやる」「前もやれた」「だからやる」と、今回の経験を引っ張り出すタイミングは、もう生涯最後の五輪くらいしかないと思いますので。もう十分、「試練の日」用の経験は積んだと思いますからね。

サブリンクがあれば、そっちで順番にウォームアップできるんですけどね!