全日本女子待望の長身セッターとして、着実に進化を遂げている宮下遥。眞鍋政義監督が掲げる"ハイブリッド6"(※1)のキーマンである彼女に、話を聞いた。代表では最年少だが、物怖じせず、言葉を一つ一つ選びながら、丁寧に答えてくれた。

※ミドルブロッカー(MB)の位置にサイドアタッカーを置いて、より複雑で多彩な攻撃を狙う全日本女子の新戦術

 まず、今年8月に行なわれたワールドグランプリファイナルで銀メダルという成績を獲りながらも、翌月、イタリアで行なわれた世界選手権では7位に終わった。それについて、宮下はどう考えているのだろうか。

―― 世界選手権を振り返って、ワールドグランプリに引き続き、ハイブリッド6という戦術をやってみて、どんなところが課題で、どんな手応えがありましたか。

「日本は背が低いので、チーム力が大事になってきますが、世界選手権という大事な大会、大事な場面で、自チーム(岡山シーガルズ)でのような団結力が作れなかったことが悔やまれます。

 手応えは、条件がついちゃうんですけど、攻撃を中心に考えている戦術なので、良い時......のっている時やパスが入った時は、3人から4人の選手が同時に攻撃できるというのはすごく良かったですし、それによって相手のブロックも1枚とかにできるケースが多かったので、そこは手応えとしてありました」

―― 3次ラウンド(ベスト6)に抜けられるかどうかが決まるイタリア戦の2セット目終盤、リードされている重要な場面でぱっと入れられて、何を思いましたか?

「その試合は、勝たなくてはならなかった試合でしたけど、入る時は、勝つ負ける関係なく、自分ができることをやろうと思って入りました。3セット目も出ましたが、あの時の自分ができることは精一杯やりきったと思います」

 世界選手権、宮下はコンディションが万全ではなかった。左足に違和感を覚え、かばいながらのプレイだったと聞く。

―― 足をケガしかかっていたと。大会後のテレビで見たのですが。我慢しながらプレイしてたんでしょうか。

「我慢というか、スタッフにはきついということは言っていたのですけど、伝えても完全に外れるわけではなかったので、自分の足と相談しながらという感じでした」

―― ハイブリッド6は、セッターが真ん中でブロックしないといけないので大変でしたね。

「自分も真ん中でブロックに跳んだあと、(着地後、すぐに振り返って)いい状態でトスを上げることができたのは、本当に何本かしかなかったので、スパイカーもすごく合わせにくかったと思うし、あの戦術でこれからも戦うんだったら、そこを極めていかなければならない。でも、今はどうなるかわからないから、何とも言えないですね」

 時間をかけていけば団結力は高まるでしょうか?と問うと、宮下は首をかしげた。

「それはあまりないと思います」

―― 所属の岡山シーガルズのトスと全日本のトスはどう違うのですか? 全日本との違いで戸惑ったりしました?

「違いは、ネットに近いトスとそうでないトスです。去年初めて全日本に入ったときは、ネットから離したトスに抵抗があって、監督に『離せ』って言われても、『絶対間違ってる』と思って、なかなかやろうと思わなかったんですけど、それで去年は通用しなかった部分があったので、今年はちょっと受け入れてみようかなと思ってやってみました。そして、うまくいった部分もありました」

 なんと、眞鍋監督の指導を「絶対間違っている」と思ってその通りにはしなかったというのだ。当時、まだ彼女は10代。なかなか肝が据わっている。

―― あとはスパイカー個人個人の好みに合わせていく?

「はい」

―― 去年と今年の違いは?

「去年は、全日本というのは私にとって初めての経験だったので、本当に精一杯でしたし、すごく新鮮な感じだったんですけど、今年は1年経験している分、去年できなくて後悔したことをちょっと挑戦してみたいという意味での新鮮さがありました。」

―― どんなところを挑戦してみようと思ったの?

「去年は余裕がなくて、先輩とコミュニケーションをとることができなかった。全日本の戦術を覚えること、使いこなすことでいっぱいいっぱいだったので、周りのことを思う余裕がなかった。今年は正セッターじゃない分、負担も全然なかったので、コートに立っていない時になるべく上の方と話したりしてみました」

 自分からコミュニケーションをとるのはそんなに得意ではないという宮下が、今年はつとめて先輩と関係を持とうとしたようだ。話してみて意外だなと思った選手などはいたのだろうか。

「心を全部開いて話すというところまではいけないので、意外だなというよりは思った通りです」

―― その中でも仲良くなった先輩はいますか?

「NECの大野(果奈)さんが、今年初めての代表入りで、年も近いので、一緒に仕事(ボール運びなど)したりとか話もいっぱいしました」

―― 最年少だとやはり気を遣ったりしちゃいますか?

「一番下っていうのは、上の人に常に気を遣わないと行けない立場かも知れないですけど、それではやっぱりいい関係は作れないので、思ったことは、ちゃんと上の人にも伝えたりしてました」

 昨年の宮下は、全日本招集時の会見で「全日本のことよりも岡山を日本一にしたいという気持ちの方が大きい」と言っていて、ちょっとびっくりしたものだが、昨季岡山はリーグで準優勝を果たした。今年の春、「準優勝したんだから、もう気持ちは全日本が第一になった?」と聞くと、笑顔ではあるがきっぱりと、「いいえ、前よりももっと、まず岡山を日本一にしてから! と思います」という答えが返ってきた。今年度の全日本が終わって、いよいよ今季のリーグが始まる。

「チームに帰ってきて、今2週間、3週間弱くらいになったんですけど、(岡山という自分の)チームが、やっぱりいやすいし、チームメイトに生かされているなって感じたので、このリーグ、本気で日本一を獲りにいきたいですね」

―― (先月の長崎)国体で日本一を獲りましたね。これまで(バレー人生で)日本一を獲ったことはあります?

「私はないです。でも、あんまり(日本一だという)実感はないです。言われてみれば、という感じですね。国体の決勝も普通のリーグの1試合みたいな感じだったので、緊張もなくて、『明日も試合か−』みたいな感じで(笑)。相手も久光(製薬)さんで、選抜チームというわけでもなかったので特別感がなかったんです。でも、岡山に帰ってきて、『ありがとう』とか『おめでとう』と言ってもらったので、ああ日本一になったんだという気持ちになった。めちゃ嬉しいっていうわけじゃないです。やっぱりVリーグで勝たないと。でも(日本一になる)練習にはなったかなと」

―― (世界選手権などに出場して)世界で戦うのがおもしろいなということは感じましたか?

「やっている時は楽しいとか、おもしろいというのは全然なかったんですけど。中国のエースのシュ・テイが同い年で、言葉は通じないんですけど、去年からお互いがA代表に選ばれてて、顔見知りみたいになって、今回も頑張ってねって言い合って......。私もシュ・テイ選手のこと、同い年で中国のエースとして頑張っててすごいなあと思っているんですけど、人づてに聞いたのですが、彼女も私のことをすごく褒めてくれてて、(相手)ブロックを1枚とか1.5枚にするのが上手いと褒めてくれたのがすごく嬉しくて。日本と中国はライバルなんですけど、世界選手権で決勝を争ったチームにそういう(仲間意識を持てる)選手がいるのは、私にとって誇りです」

 これはなかなか意外だった。大会中言葉を交わしたりはするのだろうか。

「ちゃんと会話はできてないんですけど、私たちが負けて帰る前の晩にロビーで会って、私たちは帰るけど、頑張ってね、応援しているって伝えて帰ってきました」

 気持ちはすでに、11月15日に開幕するVリーグ。彼女にとって、そこは代表戦の課題をこなす場ではない。目指すは優勝。岡山は一昨年4位、昨年2位とじりじりと順位を上げてきている。

「今年は選手の入れ替えがあった年でもありますし、新しい選手と今までの選手が上手くかみ合えば優勝も狙えると思います」

 ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。

―― このチームには負けたくないとかありますか

「個人的にでいいんですか。まず、上尾さん、日立さん、(トヨタ)車体さんには絶対負けたくないですね! (強豪チームの)久光さんとか、東レさんには、最後の大事な試合で勝てればいいかなと思っています。順位が関わってくるような試合で。ずっと勝ち続けることはできないので」

―― 今年から新しい方式(※2)でリーグが始まりますが。
(※2)今年から世界大会基準に倣い、ポイント方式に。また、レギュラーシーズンの順位をプレーオフに反映させ、ポストシーズンの長期化による、緊張感創出のため、ファイナルステージに進出できるチームは4チームから6チームに

「やっぱり勝てるときは全力で勝たなきゃ後々苦しくなる。リーグを通して新しい選手とどうかみあっていくかを探りながら、絶対的な力をファイナルに向けてつけていきたい」

―― (2016年)リオデジャネイロ五輪のイメージはありますか?

「リオはまだ......。まだっていうか、あんまり強く思わないんですけど、去年、東京が決まって、私もそこを目指せる立場にあるので、あと6年? 6年後って、あっという間だと思うので、6年後の東京オリンピックで最高のパフォーマンスが出せるように、1年1年というより1日1日を大事にして積み重ねていきたい。

 課題は、言い出したら切りがないんですけど、体力とか技術というのは心があれば何とでも補えるものだと思うので、どんな時でもぶれない心、(チームメイトに)いい安心感を与えられるような心を強く持つことです。まず心ありきです」

 個人的には、もっと欲張って、リオでも正セッターの座をつかみ、自らの手でリオ五輪の出場権を取り、そして本大会でも勝利をもぎ取って、その上で東京五輪に臨んで欲しい。数日前に取材させてもらった東洋の魔女の井戸川(旧姓・谷田)絹子さんは、「金メダルポイントでは、全員が『私が決めてやる』という思いでいました」と語ってくれた。彼女たちには「自国開催だから出場枠を争わなくてよかった」という気持ちはみじんもなかっただろう。それくらいの気持ちの強さがなければ、いくら自国開催であっても金メダルを獲ることはかなわないのではないだろうか。

 最後に、今癒やしになるもの、くつろげるものは?と質問すると、ふっと表情が和らぎ、女の子の顔を見せた。

「最近は香り、アロマがすごく好きで、部屋でアロマを焚いたりしてます。グレープフルーツの香りがすごく好きなんです」

 今のバレーボールのスケジュールでは、代表選手となると、1年中、練習、試合をこなし、まとまったオフはほとんどない。そして、弱冠20歳の司令塔にかかる期待は決して小さくない。グレープフルーツの香りで癒やされながら、心身の疲れを取り、モチベーションを保っていってほしい。まずは、Vリーグで、岡山を日本一に。それが実現してから聞く宮下の五輪への思いは、きっとまた今とは違ってくることだろう。

【profile】
宮下 遥(みやした・はるか)
1994年、三重県生まれ。Vプレミアリーグ・岡山シーガルズに所属。身長史上最年少15歳2ヶ月でプレミアデビューを果たし、注目を浴びる。昨年A代表デビュー。日本期待の大型セッター

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari