テイラー・スウィフト、ガラリと路線変更した新作のスリル
 テラスハウスのテーマソングとして日本でもおなじみの「We are never ever getting back together」を収録し、全世界で大ヒットを記録した前作『Red』から2年。テイラー・スウィフトのニューアルバム『1989』(日本盤)が10月29日にリリースされました。比較的早い間隔でのリリースですが、その内容はガラリと一変。かねてからテイラーが公言していた通り、80年代後半のエレポップをモチーフとした音になっています。

◆アコギは封印、新作は80年代風のエレポップ

 そんな本作の特色は、キャッチーな曲はそのままでありながら聴き手の手とり足とり面倒を見るような親切さの一切がシャットアウトされていること。それはカントリーやフォーク的なギターの使い方をしない曲作りがなされているからなのでしょう。

 ベタっとしたコードストロークよりも、研ぎ澄まされたリフレインと歯切れのよいフレージングが全面に押し出されています。「You belong with me」や「Sparks fly」のような、いわば“お話”を読み聞かせるタイプの歌はここにはないのです。

 そうした新たなスタイルを象徴する一曲が、先行シングル「Shake it off」。ドラムのみのイントロに続いて高い音から駆け降りてくる歌いだしは、居合抜きのような鮮烈さです。しかしこの曲、よくよく聴いていくと実に変な曲なのです。Aメロ、Bメロ、ブリッジ、サビといった風に分かりやすく変化していない。それどころか、それらのセクションを印象付けるような“おいしい”メロディもありません。むしろここでテイラー・スウィフトが歌うフレーズは、曲をつなぐためのつがいにあたるところなのですね。歌い上げるよりもまず曲を先へ進めるため、水を運ぶように機能すべきフレーズだけでできているような曲なのです。

⇒【YouTube】Taylor Swift‐Shake It Off http://youtu.be/nfWlot6h_JM

 そう考えると「Shake it off」は、実に禁欲的な曲なのだと思います。歌い手と聞き手との間で安易に結託されそうな欲求を、見事に退けている。にもかかわらず、気持ちをたかぶらせる律動がある。きわめて狭い一点に力を凝縮させなければ成立しない楽曲ですが、テイラー・スウィフトは見事にそのストレスに耐えきっているのではないでしょうか。

 他にもファンキーなギターが印象的な「Style」や、イレイジャー、デペッシュモードのファンなら思わずニヤっとしてしまいそうな「Out of the woods」。さらにはイントロでU2の「Where the streets have no name」を思わせるギターが鳴ってから、畳みかけるようなボーカルの符割がスリリングな「I wish you would」などは、彼女の新しい試みが成功している好例です。

⇒【YouTube】Taylor Swift Performs“Out of the Woods” http://youtu.be/PVAfR3QjFKo

⇒【YouTube】Erasure‐A Little Respect http://youtu.be/x34icYC8zA0

◆前作から2年での激変ぶり

 それにしても、前作のリリースから2年しか経っていないのにこの激変ぶりには恐れ入ります。まだカントリーテイストを保ちながら、なだらかにマイナーチェンジしていく道もあったのではないかとも思ってしまう。しかし、そこには飽きられることが最も恐ろしい事態であるというまっとうな認識があるように思います。そのうえで次にとるべき音楽性が練られている。

 そのスピードとダイナミックさは、創作上の試行錯誤ではなく政策決定に近いのではないか。もちろん、そのような実も蓋もなさが音楽にとって良いことかどうかは難しいところなのですが。

 それはともかく、『1989』は聴き手を選ばないエレポップとして申し分のない一枚です。

 それでも以前のようにアコースティックギターをかき鳴らすテイラーの方が好きという人もいるかもしれません。しかし今回その姿を封印したことが、彼女の戻るべき場所を守っていることになるのではないでしょうか。この路線だっていずれ飽きられるからです。“守るべきものを守るために変わる”なんてことをよく耳にしますが、テイラー・スウィフトが身をもって教えてくれているように思います。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>