蛭子能収と名コンビの太川陽介。どん底から浮上できた「ひとこと」とは
 いまや『モヤモヤさまぁ〜ず2』と並んで、テレビ東京の看板番組となりつつある『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』。太川陽介、蛭子能収のコンビと女性ゲストが繰り広げるノープランの旅が思わぬハプニングを生み、じわじわと人気を集めてきました。2007年10月の放送開始から回を重ねること18回。いまではDVD化されるほどのキラーコンテンツにまでなっています。

 それにしても太川陽介と蛭子能収という不思議なペアリングがどうして誕生したのか全くもって謎です。しかしそんな二人も、いまでは絶妙なコンビプレーを見せています。自由奔放な蛭子さんに振り回されつつも、なぜか番組としてだれていない。そこには要所を締める太川陽介の存在があります。

 旅先で地元の料理をすすめられても「オレ、かつ丼」と我が道を行く蛭子さんに愛想を尽かさず、辛抱強く付き合う。おでこの皮が吊り上がりながらも、笑みを絶やさず和やかな空気を保ちつつ、最終的な決断は確実にくだす。その柔和なメリハリは、一体どのように培われたのでしょうか。芸能生活38年で初の著書『ルイルイ仕切り術』で、そんな太川陽介流リーダーシップ論が語られています。

◆「人に頼る」というタフネス

 路線バスの旅はもちろん、アイドル時代、そして俳優転身直後のどん底時代。さらには芸能界の先輩や家族とのエピソードから、そのベースとなる考えが作られていったといいます。

 それは「自分のことに関しては、周りの人にまかせる」(まえがきより)ということ。

 一見リーダーシップとは真逆のように思えますが、自分のことは自分では分からないのだから、他人の客観的な意見の方があてになるという実にシンプルな考えなのですね。そうして周囲が自分をどう見ているかが分かって初めて、その中で自分が何をすべきかが見えてくるというのです。

 だから「『話す』テクよりも『聞く』意識」(第2章08)が重要で、相手の話を利用すれば自分の話すことが見えてくるよと諭してくれます。そんな姿勢に相手も信頼感を寄せて、自然とリーダーシップが生まれるのかもしれませんね。

 そして『ルイルイ仕切り術』の肝は、そんな考えの背景に彼が味わったどん底の時代があると語っているところにあります。アイドル時代に司会を務めていた『レッツゴーヤング』を辞めて俳優への転身を決意するも、仕事が完全に途絶え一時は引きこもり状態にまでなったといいます。太川陽介は、この窮地をどう切り抜けたのでしょうか。

 友人から「今なにしてるの?」といつもの聞かれたくない質問を振られると、それまではウソをついたりお茶を濁したりしていたのを、その時を境にこう開き直ったのだそうです。

「今? ヒマ!! 全然仕事ないんだけど、なんかない?」(第3章11)

 そうして人に頼る覚悟を決めたことが、いまにつながっているのですね。このターニングポイントを語る箇所は、バス旅の裏話よりも興味深いものになっています。蛭子さんと数日間一緒に過ごせる明るいタフネスの所以、ここにありといった感じです。

『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』での太川陽介は、この人でなければいけないと視聴者に強く思わせるようなキャラではないかもしれません。しかしそんなライトな立ち位置にいることが「押しつけがましく仕切っていないのに、なぜか緻密に計算して仕切ったように物事がうまく運ぶ」(あとがきより)秘訣なのでしょう。

 肩の力が抜け、すこし視界が開けてくるような一冊です。

<TEXT/比嘉静六>