『ベスト珍書 このヘンな本がすごい』(中公新書ラクレ)

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『ベスト珍書 このヘンな本がすごい』──書名は「ベスト新書」と「このミステリーがすごい!」のパロディだが、珍書編集者、そして珍書ウォッチャーを自任する筆者が思わず仰け反った「ヘンな本」を百冊紹介したものである。オカルトや超常現象を扱った「トンデモ本」や、部数が少なかったり、入手が困難な「稀覯本」、あるいはウケを狙った「サブカル書」などはなるべく排除し、一見マジメな目的で執筆されているが開いてみるとビックリ仰天してしまったり、思わず失笑してしまう学術書や専門書、資料集を100冊紹介している。「意図せざる珍」という意味では、「イグノーベル書」の様なものといってもいいかもしれない。

 さて、今回の記事ではその『ベスト珍書』の著者である私が、この本で紹介した中でも特にヤバイと思った「ベスト・オブ・ベスト」、いや「ベスト・オブ・ワースト」と言っても良い究極本を5冊紹介しよう。これらの本は中身のヤバさから社会的に物議を醸したり、閲覧注意度数が高く、軽々しい気持ちで見ると激しく後悔する本など、いずれも日本の出版史上に残る究極本だ。


●『誰にでもできる職務質問 職質道を極める』(相良真一郎、神戸明・編著/立花書房)

 現役警察官による職務質問テクニック集。「暴力団員を職務質問しているときの私は、正に「すごく生き生きわくわく」しているのが感じられ、私の身体、細胞が喜んでいるという感覚にとらわれていたのです」や「慣れてくると、暴力団員を発見すると、「宝箱」に見えてしまいます。(中略)何が出てくるか、「蓋を開けてのお楽しみ」といった感じなのです」「自宅に帰り風呂に入っているとき、あるいは夕食をとっているとき、「遂に自分も覚せい剤を検挙できるようになったんだ。」と喜びが何度も何度も込み上げてきたのを覚えています」など、人間味溢れる赤裸々な言葉で記されている。犯罪者に対して手の内を明かして良いのかと問題視され、現在では警察官が所属先を明記した上で直接出版社から購入する以外に入手不可能になってしまった。続編の『誰にでもできる職務質問2』は国会図書館にすら蔵書されていない。同社の類書の『地域警察官のためのわいせつ事犯の初動措置要領』等も一般的に購入不可能の処置が取られてしまった。


●『流出「公安テロ情報」全データ イスラム教徒=「テロリスト」なのか?』(第三書館)

 インターネットに流出してしまった、公安警察がテロリストとしてマークしていた、在日イスラム教徒の顔写真や住所など個人情報をそのまま印刷して本にしてしまったもの。それだけでなく、公安警察の氏名や顔写真、住所や電話番号はおろか、実家の住所や家族構成、子どもの名前までも記載した前代未聞の内部資料暴露本。案の定、人権侵害なのではないかと抗議の声が上がり、ただちに裁判所から出版差し止めを命じられた。その後、多くの部分を黒塗りにした第二版を刊行したが、それも間を置かずして差し止められ、現在では中身をほぼ全て黒塗りにした第三版しか販売されていない。国会図書館でも第一版、第二版は閲覧制限が掛けられている。表現の自由とプライバシーとの兼ね合いや、国家権力による特定の宗教信者のテロリスト視など、様々な視点から物議を醸した問題作。


●『こじき大百科 にっぽん全国ホームレス大調査』(村田らむ、黒柳わん/データハウス)

 ホームレスの生態系を入念に調査した本。当初、出版社の社長によって『こじき』というシンプルな書名にさせられそうになったらしい。案の定、名古屋の労働団体から抗議が寄せられ、自主回収扱された。なお、著者は同団体からホームレスの実情についての講習を強制的に受けさせられたらしいのだが、既にその様な本を一冊書き上げている訳で、ほとんど全て知っている内容だったとの事。今度は数年後、竹書房からほぼ同一の内容の『ホームレス大図鑑』を出したものの、これもわずか数日で抗議が殺到しまたしても自主回収に。もはや伝説となりつつあったが、それから8年近く経った2013年、今度は『ホームレス大博覧会』を日本で最も不謹慎な出版社、鹿砦社から刊行した。なお、この本は「ホームレス・トレーディングカード」まで付いた凝った編集だ。これも刊行後、話題になったが自主回収や発禁には至ってない模様。


●『増補改訂版 笠井資料 日本女性の外性器 統計学的形態論』(笠井寛司/フリープレス)

 産婦人科用診察台の上に載せられた10代から40代までと見られる女性の性器の接写写真8330枚を、1135ページにも上って載せた約5万円の医学書。大陰唇や小陰唇、陰核、肛門などを詳細に分析している。被写体となった女性患者に無許可で撮影して掲載したのではないかと言われ、後に女性団体から訴えを起こされる。自由人権協会や法務省人権擁護局からも非難が寄せられ、日弁連は警告を発した。著者はその後、大学の助教授のポストを追われた。なお本書は最終的に「医学書」として認められ、現在でも一般的に購入する事は可能である。週刊誌などで度々話題になる本でもあり、世間的知名度は高く、本書の中身を勝手にスキャンしたCD-ROMも流通してしまっている。


●『子ども虐待の身体所見』(クリストファー・J・ホッブス、ジェーン・M・ウィニー/明石書店)

 この場で紹介する事も躊躇われる医学書。虐待された児童達の写真が膨大に掲載されている。アイロンを押し付けられヤケドを負ったものや、器物による痛々しい損傷や暴行による痣の例などは見るだけで胸が痛む。性的虐待にあった児童の性器や肛門も無修正でそのまま載っており、目を背けたくなる。「致死的虐待」という項目では死体も載っているので、閲覧するに当たってはくれぐれも注意が必要だ。翻訳者が興味本位で本書を閲覧する事に対して警告を発しており、実際軽々しい気持ちで見ると罪悪感を感じる事は必至だ。しかしこの本で載っている様な痣や傷を持った子どもを見かけたら、虐待されている可能性があるので、保健所や警察に通報した方が良い。その意味で言えば、実はこうした幼児虐待による傷や痣などの症例を数多く掲載した本書は、多くの人に見て貰った方が良い、社会的に有意義な資料とも言えるのではないだろうか。幾つかの例で虐待が発覚した後、保護され、養子先で健やかに育ち、健気な笑顔を見せている子どもが何人かいるのが救われる。児童虐待は周囲の人間による早期発見が肝要である。


 以上、本記事では『ベスト珍書』の中でも最もタブーに切り込んでいたり、見ていて気持ち悪くなってしまったり、世間を騒がせた究極の激ヤバ本をピックアップした。他にもここには掲載できなかったが、性病を患った性器の医学写真集、葬儀屋による死体の整え方の教則本、事故物件の不動産価値を算定する本など数多くの、特種な業種・読者層向けのブラック専門資料集を『ベスト珍書』で紹介したので、興味を持った方々には是非手にとって貰いたい。

 ただ、『ベスト珍書』は、決してここで紹介した様なブラックな本だけを集めたものではない。例えば極端な形をした変型本や、ラーメンの背脂だけをランキングした本、猫が登場する映画だけを集めた本、国内のロープウェイを制覇した本など、ゆるふわ系の珍書も多く紹介しているのだ。エログロに抵抗がある方々も本記事で紹介した様な本が載っている章を読み飛ばして貰えば、『ベスト珍書』は十分に楽しめる内容となっている。機会があれば「ゆるふわ珍書BEST5」も紹介してみたい。
(ハマザキカク)