31年の時を刻み、再びスウォッチが起こした腕時計のイノヴェイション「SISTEM51」

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1983年、51個のパーツでつくられた「クォーツ腕時計」を発表し、当時のスイスの時計産業を救ったスウォッチ。それから30年が経ったいま、スウォッチが新たにつくったのは、同じく51個のパーツでつくられた「機械式腕時計」だった。スウォッチが再び起こしたイノヴェイションの裏には、30年前から変わらぬ哲学があった。

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熟練の職人が長い時間をかけて、ひとつひとつ手作業でつくる高価な腕時計──そんな機械式腕時計に対するイメージを、スウォッチの「SISTEM51」(システム51)は見事に壊している。

SISTEM51は、製造が完全に自動化された世界初の機械式腕時計だ。構成するのはたった51個のパーツ。従来までは少なくとも100個のパーツが必要とされていた機械式腕時計(多いものでは600にもなる)を、実に半分の数でつくってしまったのである。

モデル名にもある“51”は、スウォッチにとってのラッキーナンバーだ。それは1983年にスウォッチが発表し、時計界に革新をもたらしたクォーツ時計(水晶振動子を用いて電池で動く時計)を構成するパーツの数。31年のときを経てスウォッチは、同じパーツ数で機械式腕時計をつくることにこだわった。継続的に投資をしてきた研究開発によって、SISTEM51は考案から2年でこの世に誕生したという。

機械式腕時計らしからぬカジュアルなデザインもスウォッチらしい。ブランドの大きな特徴のひとつである、透明なケースも引き継がれている。時計の裏側を覗けば、 SISTEM51を動かす小宇宙──見事に組み合わされて、くるくると回ったりせわしなく動いたりする部品の数々──を眺めることができるのだ。

かつてクォーツ時計で世界的な人気を得ることに成功したスウォッチは、なぜいま、機械式腕時計をつくったのだろう。

スウォッチが再び起こしたイノヴェイションの真価を知るためには、時計の針を31年巻き戻す必要がある。

SLIDE SHOW FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN FULL SCREEN GG100 GZ008

2/11スウォッチとアートが出合った最初のモデル。キキ・ピカソによるデザイン。85年。

LW110

3/11ラズベリーのような香りがする斬新なモデル。85年。

SAN100

4/11自動巻の機械式時計。91年。

GZ133

5/11ミンモ・ロテッラによるマリリン・モンローのコラージュを使用したモデル。94年。

YCS1000

6/11防水性を備えたクロノグラフモデル。「アイロニー・コレクション」の名で発売された。95年。

SFB100

7/11「スキン」シリーズは、その名の通り、薄く肌になじむモデルが揃った。97年。

GZ159

8/11当時ポンピドゥーセンターを手がけたレンゾ・ピアノによるモデル。99年。

SQZ101

9/11地理的な境界線をなくした全く新しい時間の概念「インターネット・タイム」搭載モデル。99年。

SUYN100

10/11「スキン」シリーズから、クロノグラフモデル。2001年。

SUFN102

11/11ダイヤルが回転する独特な機構を備えたモデル。02年。

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スウォッチが1983年に世に出した、最初のシリーズ。

GZ008

スウォッチとアートが出合った最初のモデル。キキ・ピカソによるデザイン。85年。

LW110

ラズベリーのような香りがする斬新なモデル。85年。

SAN100

自動巻の機械式時計。91年。

GZ133

ミンモ・ロテッラによるマリリン・モンローのコラージュを使用したモデル。94年。

YCS1000

防水性を備えたクロノグラフモデル。「アイロニー・コレクション」の名で発売された。95年。

SFB100

「スキン」シリーズは、その名の通り、薄く肌になじむモデルが揃った。97年。

GZ159

当時ポンピドゥーセンターを手がけたレンゾ・ピアノによるモデル。99年。

SQZ101

地理的な境界線をなくした全く新しい時間の概念「インターネット・タイム」搭載モデル。99年。

SUYN100

「スキン」シリーズから、クロノグラフモデル。2001年。

SUFN102

ダイヤルが回転する独特な機構を備えたモデル。02年。

腕時計を大衆の手に

1970年代、スイスの時計産業はかつてないほどの危機的状況にあった。

世界の市場は拡大しているにも拘わらず、スイスの輸出量は大幅に減少。1970年に約9万人いたスイス国内の時計産業で働く人の数は、1984年にはわずか3万人あまりまで減少したというデータもある。

その原因は、最初のクォーツ時計を開発した日本を含むアジアの国々にシェアを奪われていたからだ。そして何よりも、スイスの時計職人たちが伝統的な製法にこだわり続けており、時代に適応できていなかったからである。

それを救ったのがスウォッチのクォーツ時計だった。1983年に発表された世界初のプラスティック製腕時計は、当時の常識からすると考えられないほどのわずか51個のパーツで構成され、製造は完全に自動化。少ないパーツと新たな製法によって価格もリーズナブルになり、それまで高級品だったスイスの腕時計を、初めて大衆が手にできるものに変えたのである。

さらにスウォッチは、腕時計にアートとファッションを取り入れた。ファッションブランドのように毎年異なるデザインの時計を発売し、アーティストやデザイナー、映画監督とのコラボレーションも実施。時計をカジュアルなファッションアクセサリーに変えた最初のブランド、それがスウォッチなのだ。

腕時計はどうあるべきか

しかしそれから31年が経ったいま、時計の概念は再び変わってきている。スマートフォンが時計の代わりになり、腕時計をする人が少なくなった。Apple Watchなどのスマートウォッチは腕に着けるが、決して時間を知りたいから着けるわけではない。人々は、純粋に時を刻むための時計を身に着けることをやめつつあるのである。

スウォッチがSISTEM51によって起こそうとする革新は、まさにここにある。31年前に腕時計を大衆が手にできるものにしたように、今度は高級な機械式腕時計を大衆が手にできるものにした。そして同じく、カジュアルなアートとファッションを機械式腕時計に取り入れようというのだ。

歯車によって文字通り1秒1秒の時を刻み、使うごとに個性が出てくる機械式腕時計。デジタルにもクォーツ時計にもないその喜びを体験してもらうことで、スウォッチは時計を身に着けることを再び人々に提案しているのかもしれない。

かつてスティーブ・ジョブズが復帰したアップルが音楽や携帯電話のあり方を変えてきたように、スウォッチもまた、時計に対する“価値観のアップデート”を行い続けているのだろう。SISTEM51はスウォッチの伝統を尊重しつつも、いまの時代にふさわしい提案ができる時計を求めた結果なのだ。


SISTEM51開発の旗振り役となったスウォッチ グループ CEOニック・ハイエック。31年前にクォーツ時計を発表した創業者、故ニコラス・G・ハイエックの息子。


再び時計の常識を変える

SISTEM51のケースの中にも、イノヴェイションは詰まっている。51個のパーツから成る5つのモジュールが1本のネジでつながってできている。これらの部品はすべてSISTEM51に使用するためだけに考案・設計・製造され、スウォッチは17件の特許を申請しているという。

パワーリザーブ(ゼンマイの稼働時間)は最大90時間と、一般的な機械式腕時計に対して約2倍。その時計の心臓部をつくるのは、ARCAPと呼ばれる耐磁性に優れた銅・ニッケル・亜鉛の合金だ。ケースの密封性が高いため、湿気やホコリによるパフォーマンスの低下を防ぎ、長寿命と高精度を実現している。そして、機械式時計につきもののメンテナンス、オーヴァーホールも不要だという。

デザインはブルー、レッド、ブラック、ホワイトの4種類。いずれも、腕時計を動かすために使われる19のルビーのうちの6つが文字盤に顔を見せているデザインだ。裏側の透明なケースから見えるモジュール部分には印刷も可能で、今後、スウォッチがこれまで行ってきたようなアーティストとのコラボレーションを表現する場となることだろう。

SISTEM51は、開発や製造がすべてスイス国内で行われた、100%スイスメイドの機械式腕時計だ。その価格は17,500円と、従来の高価な機械式腕時計の何分の一。まさに30年前に誰もが手にできるスウォッチのクォーツ時計がスイスの時計産業を救ったように、SISTEM51もまた、これからのスイス時計界の未来を担っていくのかもしれない。

製造が完全に機械化され、オートメーション化されたことで、SISTEM51をつくりだした技術が、スウォッチの他シリーズに容易に展開されていく姿も想像できる。いままでは考えられなかったカジュアルでリーズナブルな機械式腕時計の誕生と普及によって、腕時計はどうあるべきか──31年前もいまも、スウォッチは常にこの問いを考え続けてきたスウォッチはいま、もう一度時計のあり方を変えようとしているのである。

SISTEM51|スウォッチ

ケース径42mm。機械式時計としては精度が非常に高く、日差約+/-10秒と高精度。カラーヴァリエーションとして白、黒、赤の3種も用意されている。