今季から採用されたフィギュアスケートの新ルールに苦しむ選手が続出しています。演技を開始する際、従来は名前をコールされてから1分以内に演技開始位置につけばよかったものが、今季からは名前をコールされてから30秒以内に演技開始位置につかないといけなくなったのです。この時間制限を超えると1点の減点をされるという、勝敗にも影響を与える重要な変更です。

先日行なわれたグランプリシリーズの初戦、スケートアメリカでは男子シングルのショートプログラムでロシアのガチンスキー選手が、このルールに抵触して減点されました。直前に行なわれたISU公認大会フィンランディア杯でも男子シングル・女子シングル・アイスダンスの各カテゴリで、スタートの遅れによる減点をされた選手が出ています。昨年までは40秒から50秒ほどじっくり時間をかけて演技への集中力を高めていたわけですから、すぐに適応できないのも無理はありません。

そんな中、スケートアメリカで優勝をはたした町田樹さんは、実にスマートな対策で、この変更を乗り越えていました。

町田さんも従来は名前を呼ばれてから演技開始まで、40秒から50秒ほどかけてリンクを周回しながら集中力を高めていたタイプ。しかし、今季からはそこまで時間をかけることができません。そこで町田さんは、準備時間を短縮するのではなく、先に動き始めることにしたのです。

まずショートプログラムの演技では、名前をコールされるより先にリンクを周回し始めることで、演技開始前の集中力を高める時間を50秒ほど確保。さらにフリー演技では、ショートプログラム同様に名前を呼ばれる前にリンクを周回し始めただけでなく、音楽が流れ始めたあとも10秒以上その場で静止するという演技構成で、集中力を高める時間を確保したのです。これにより、町田さんは新ルールにおいても従来通り、1分間ほど集中力を高める時間をとることができるようになったのです。

フィギュアスケート男子シングル・フリーの場合、「名前を呼ばれてから演技開始位置につくまで30秒」という開始時間の制限と、「動き出してから4分30秒(±10秒)以内に演技を終える」という終了時間の制限、2つの時間制限があります。町田さんは両方を満たしつつ、集中力を高める時間を十分に確保するため「演技開始位置に速やかについた上で、十分に集中が高まるまで動かなければいいんだ!」というルールの隙間を見い出したわけです。

独特な哲学に基づく発言など、知性的な面で注目を集める町田さんですが、その知性はしっかりと競技にも活かされているようです。町田流を見習って、演技冒頭でしばらく止まっている選手が、今後増えてくるかもしれませんね。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/