フォルクスワーゲン(VW)の7代目ゴルフを、ここで取り上げるのは今回で3度目である。1度目は1.2リッターターボを積むフツーのゴルフ(第64回)で、2度目はハナのアブラをちょっと塗ったゴルフGTI(第73回)だった。そして、今回のゴルフRは、今もっとも高価で、かつ最速のゴルフである。

 ゴルフRのエンジンはGTIと基本的に同じ2.0リッターターボ。ターボの原理は、みずからの排気でポンプを回してエンジン内に空気を無理やり詰め込む......というもので「エンジンが吸い込む空気量が増える→(計算上の)吸気量=排気量が大きくなる→よりエンジンパワーが出る」という仕組みである。ターボを利かせて空気を大量に送り込むと、基本的にはパワーが上がる。つまり、ゴルフRはGTIよりターボをガンガン利かせたタイプである。

 ただ、最近のターボは不要なときに不要なパワーを出さないように緻密に制御されるので、カタログ燃費も14km/L台。ひと昔前のスーパーカーみたいなスペックのクルマが、ひと昔前のコンパクトカーなみの燃費......とは、驚き以外のナニモノでもない。

 いずれにしても、ゴルフRのエンジンはフツーのゴルフの3倍近い(!)パワーを持つわけで、そりゃもう、とんでもなく速い。

 さらに(!!)、GTIまではフツーどおりの前輪駆動だったが、ゴルフRは四輪駆動。ドバドバとこぼれんばかりのエンジントルクを、4本のタイヤにシレッと分散して、勝手にうまく路面に伝えるので、運転にはフツーのゴルフ以上にコツいらずである。

 しかも(!!!)、電子制御で走行中にリアルタイムで硬さを変えていく可変ダンパーも標準装備。その他、エンジンやオートマの反応も含めて、数種類の走りのキャラをボタンひとつで変えられる。最硬派のレースモードにすると、スーパーカーばりの速さでもまったくネを上げなくなるが、柔らかいコンフォートモードにすると、乗り心地はまるでトヨタ・クラウンばりにフンワリ快適になる。

  繰り返しになるが、ゴルフRはすさまじく速い。なのに、目の前のカーブに合わせてステアリングを切って、テキトーにアクセルを踏んでいるだけで、つるべ落としのように速いのだ。エンジン音も勇ましくて"いかにも!"の音質だが、本物のチューニングエンジンが絞り出す、むせび泣くような色気......というより、「こんな感じが好きなんでしょ!?」みたいに、隠れたスピーカーから鳴っているような演出感たっぷりの音質だ。

 とどのつまり、これはゴルフのカッコをしたスーパーカーである。そしてコンフォートモードでは、今度はゴルフのカタチをしたハイテク・ラグジュアリーサルーンである。

 まあ、高性能タイヤと硬いサスペンションに、高出力エンジンを積めば、どんなクルマだって、ある程度は速くはなる。ただ、こんだけ簡単に速く、家族から文句の出ない乗り心地で、変幻自在に性格を変えながらも、それが1台のまともなクルマになってしまうゴルフって、どんだけフトコロが広いんだ!?

 ワタシ個人は少しばかり残ったクルマの弱点を、自分の手で補完しながら走ってこそ、"人車一体感"が得られると信じて疑わないクチである。なんでもソツなくこなす優等生タイプには、あまりシンパシーを感じないヘソ曲がり人間であることは否定しない。

 このゴルフRもまた、ゴルフのクセに(失礼!)ときには高級セダンのように快適で、本気を出せば高性能スポーツカーばりに速い。しかも、細部まで作りがていねいで、自動ブレーキや車間距離維持クルーズコントロールなどの今どきのハイテク装備もあらかたついていて......の優等生タイプの典型だ。

 ただ、ゴルフRの場合、その"こなす"のレベルが"ソツなく"なんて甘っちょろいものではなく、快適性は700〜800万円級のラグジュアリーサルーンのごとく、そして速さは1000万円超級のスーパーカーなみ......という空前の次元にイッちゃってるのだ。ゴルフRに"あばたもエクボ"的な弱点は皆無。はっきりいうと、ワタシはこのクルマに愛嬌をまったく感じない(また失礼!)。

 しかし、このスーパーエリート優等生ぶりを見せつけられると、「ツボが......ツボが......」などと重箱のスミをつついては喜んでいる自分という人間の小ささを痛感させられて、精神的にへこむ。で、それでもゴルフRに乗っているうちに、今度は、その敗北感がやけに気持ちよくなってくる......。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune