センターで好守備を見せた大島洋平と大和

野手の守備範囲を数字で捉える

 守備の巧みな選手を選ぶ「ゴールデン・グラブ賞」の発表が来月6日に迫っている。しかし、打撃や投球に比べ、評価に用いることのできる数字が少ない守備は評価の難しい領域といえる。多くを主観に頼るほかなく、投票を担当するプロ野球担当記者も判断に苦しむ賞の1つだろう。

 だが、アメリカでは10年ほど前より守備の評価手法の開発が進んでおり、評価のしにくさは改善されてきた。そこで、守備の各要素の中から守備範囲を評価する1つの手法を紹介したい。

 選手の守備範囲を数字で捉える際のおおまかな手順は次のような流れとなる。

[1]グラウンドを網目状に区分けし、全打球が各ゾーンに何本ずつ飛んだかを集計する。その際、打球はゴロ、フライ、ライナー、フライとライナーの間の“フライナー”の4種類に分けて集計する。

[2]各ゾーンに飛んだ打球が、アウトになったか、ならなかったか、またアウトになった場合はどのポジションの選手がアウトにしたのかを集計する。これで「●%の打球がアウトになるゾーン」というように、各ゾーンの平均的な打球処理の難しさが設定される。(ただし、同じゾーンでもどのポジション視点かによって難しさは異なる)

[3]評価したい選手(選手A)が守備位置についていた間に、各ゾーンに打球が飛んできた回数を数える。さらに、そのうち何度打球をアウトにしたかも数える。

[4]平均的に打球がアウトになっている割合([2]で設定した“●%”)と、選手Aが守備位置についていた間に打球が飛んできた回数([3]で数えたもの)を掛け合わせる。これで“選手Aの代わりに平均的な選手が守った場合、打球をアウトにするであろう回数”が出る。

[5]平均的な選手がアウトにするであろう回数([4]で算出したもの)から、選手Aが実際に打球をアウトにした回数([3]で数えたもの)を差し引く。これで選手Aについての「代わりに平均的な選手が守り、打球が同じ回数飛んできた場合と比べてどれだけ多く(少なく)アウトを獲ったか」という推測値が算出される。

 グラウンドを網目に区切り、処理の難しいところ、簡単なところをはっきりさせる。その難易度に対して妥当なレベルで打球をアウトにできているかどうかを確かめて、選手の守備範囲を捉えるのである。

 この手法を使って、外野全ポジションにおいて実際に2014年にNPBでプレーした野手の守備範囲を捉え、優れていた選手の傾向を紹介してみたい。

 なお、外野への打球はライナーとフライ、フライナーを対象に傾向を見ている。ほぼアウトにならないゴロの処理状況は除外した。また各ゾーンの「平均的に打球がアウトになっている割合」は、12球団全体の数字を合算して算出している。

 まず、セ・リーグのセンター、大島洋平(中日)、大和(阪神)が広い範囲で、打球を高い確率でアウトにしていた。どちらも守備のうまいイメージのある選手だが、大島は一二塁間を越えてきた左前方の打球などに強かったようだ。大和はプラスを示す赤いゾーンが左右に広がっており、左中間、右中間の打球をまんべんなく拾っていたと見られる。

秋山、陽、平田、雄平らも好値をマーク

 パ・リーグもセンターの秋山翔吾(西武)と陽岱鋼(日本ハム)がよく打球をアウトにしていた。秋山は三遊間を越え左中間破り得るボールをよく捕っている。陽は前方に強く、内野の背後に落ちるような当たりを全般的によく捕っていたようだ。

守備を数値で評価できる日も遠くない

 ライトでは、平田良介(中日)と雄平(ヤクルト)がプラスのゾーンを広げている。2人はタイプがやや異なり、平田は二塁手の背後など前方に強く、雄平はライト線の打球をアグレッシブに追いかけアウトにしていたようだ。

 なお、ここで図示している数字は平均との差なので、守備についた選手の平均的な能力が異なるセンターとライトの選手の数字を直接比較できないので注意が必要だ。

 6選手の打球処理の傾向を紹介したが、日頃抱いていた印象と一致する部分もあるのではないだろうか。“ブラックボックス”だった守備の評価も、徐々にだが手がかりが見出されている。打撃や投球のように、守備も数字で評価されるようになる日も遠くないのかもしれない。

【了】

DELTA・岡田友輔・秋山健一郎●文  text by DELTA OKADA,Y. AKIYAMA,K.

DELTA プロフィール

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1〜3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート3』が4月5日に発売。