2006年4月12日に突如、解散を表明し、それから8年後にあたる2014年の同じ日、ふたたびあの5人でステージに立つことを宣言したPIERROT。

そして、さらに半年と少々を経た10月24日、さいたまスーパーアリーナにて、その復活ライヴが実現した。

この日、会場に詰めかけたのは1万5000人ものファン。開演前から場内には不思議な空気が漂っていた。それは、このバンドとの再会を待ち焦がれてきた人たち、あるいはかつて彼らのライヴを原体験できなかった人たちの多くが、今回の特別な機会をどのような意味合いで捉えるべきかを、いまだ判断し兼ねていたからかもしれない。が、開演予定時刻の18時半を8分ほど過ぎ、場内が暗転し、ステージを覆う幕の向こうにメンバーたちのシルエットが浮びあがると、それまで抑えつけられていた感情が噴出する。記念すべき日の幕開けを飾ったのは、『HELLO』。かつて解散宣言の2ヵ月後にリリースされたラスト・シングルである。

キリト、アイジ、潤、KOHTA、そしてTAKEO。5人は曲間に無用な空白を設けることなく、かといって観衆を大仰に扇動しようとすることもなく、むしろ淡々と演奏を続けていく。オーディエンスもまだその時点では、平熱と微熱の間をさまよっていたことだろう。しかし冒頭の3曲を披露し終えた後、キリトが「会いたかったぜ、キ×ガイども。やり方わかってんだろ? ぶっ壊すぞ!」と叫び、『ENEMY』が火花の爆裂を伴いながら炸裂すると、場内の熱気が一気に高まっていく。

以降、5人はPIERROTの歴史を彩ってきた必殺チューンの数々を惜しみなく披露し、広い場内を埋め尽くしたファンは、往年と同様に、曲に応じた振り付けやヘッドバンギングで同調していく。一体感というのはライヴについて評するときによく用いられる言葉だが、やはりPIERROTとピエラーたちのシンクロニシティが織りなすそれは、半端なものではない。過去にどれほどの頻度で彼らのライヴに通い詰めた人であろうと、最短でも8年間のブランクがあるはずなのに、まるでそうした時間の経過が感じられないのだ。

実際、ステージ上のメンバーたちもそれを実感していたようで、キリトもMCの際に再三にわたり「久しぶりという気がしない」という言葉を吐いていた。もちろん彼ら自身のライヴ・パフォーマンスについても同じことがいえる。この5人でステージを共にするのは8年ぶりだというのに、まるでツアー中の1本のライヴのようなグルーヴがあり、しかもどの曲にも懐かしさ以上に新鮮さが感じられる。本来ならば矛盾する言葉だが、“熟成された新鮮さ”とでも言えばいいだろうか。確実に各々のメンバーがこの時間経過のなかでスキルを磨き、成熟を重ねてきているにもかかわらず、楽曲自体にはむしろ目新しく感じられるところがあるのだ。もしかするとそれは、現在の音楽シーンにPIERROTのようなバンドが他に存在していないからかもしれない。過去も実際、そうだったように。

結果的にこの夜の彼らは、全7曲に及ぶアンコールを含めてトータル25曲を披露し、すべての演奏を終えて5人がステージから去る頃には、開演から2時間半を経過していた。メンバーたちがライヴに満足感をおぼえていた事実は、「みんなとこうして、ここに居ることが特別なんだと思います(TAKEO)」、「久しぶり。いい光景です!(KOHTA)」、「やっぱ半端ねえな、おまえら!(潤)」、「キミたちの、キミたち史上最高のライヴにして帰ってください(アイジ)」といった、アンコール時、メンバー紹介の際の各自の言葉からもうかがえるだろう。キリトなどは最後の最後に「きょう満足したんで、明日は中止にしたいと思います」とまで発言していたほどなのだ。もちろんこれは彼ならではのジョークだが。

そう、PIERROTのライヴは10月25日にも、同じ場所で行なわれる。今回の、さいたまスーパーアリーナでの二夜公演は「DICTATORS CIRCUS FINAL」と銘打たれており、第一夜には“I SAID「HELLO」”、そして第二夜には“BIRTHDAY”というサブタイトルが掲げられている。第一夜のステージは、まさにそのタイトルが象徴するように『HELLO』で幕を開け、かつてPIERROTが解散前のライヴの最後に演奏したという『SEPIA』で着地点へと到達した。しかしそこで披露されたのは、セピア色の記憶の再現などではなく、むしろ鮮やかな原色の現在だったといえる。実際、去る4月に公表された復活声明のなかでも「過去を再生するのではありません。現在のPIERROTを観てください」と訴えていた彼らだが、オーディエンスがこの夜に経たのも、過去の追体験ではなく、現在との初めての対峙だったはずなのである。

そして、こうした充実度の高いライヴが成り立ち得たのも、やはりステージ上でキリトが語っていたように、「解散から8年、誰ひとり止まらず、第一線を全力で突っ走ってきた」からこそ。彼はそんなバンドを誇りに思うとも語り、「心の底から、最高のバンドだと思います」と、喜びに満ちた表情で言い切っていた。さて、これほどまでにバンドと観衆が満足を共有できた第一夜公演を経て迎える“BIRTHDAY”と命名された夜は、果たしてどのようなものになるのか? もうまもなく、その答えも提示されることになる。
TEXT:増田勇一