若年層の強化を巡る議論に、危機感が滲んでいる。U−16、U−19、U−21の各代表が、アジアの舞台で連敗したからだ。

 僕はどのカテゴリーも現地で取材をしていないので、具体的な敗因には言及できない。ただ、かねてから感じていたことがある。

 日本は「上から目線」だ。

 9月のアジア大会で準々決勝敗退に終わったU−21代表は、直前に数日間合宿をしただけで大会に臨んだ。メンバーはJ1、J2のリーグ戦に配慮し、同じチームからは一人しか招集できない取り決めがあった。FC東京とサンフレッチェ広島から2人が選出されたのは、期限付き移籍所による復帰が早まったことによるものだった。

 ほとんどぶっつけ本番に近いスケジュールで、ベストメンバーではないチームが送り込まれたのは、リーグ優勝、ACL出場権、J1残留、J1昇格、J1昇格プレーオフ出場といったクラブごとの目標への配慮がなされたからだろうU−21代表の勝敗よりも、Jクラブの利益が優先されたのだ。

 4年前のアジア大会に出場したチームも、十分な準備期間を与えられたわけではなかった。メンバーは大学生が主体である。得点王に輝いた永井謙佑は、Jリーグ各クラブが熱視線を送る福岡大の学生だった。キャプテンの山村和也も、流通経済大学の選手だった。

 関塚隆監督に率いられたチームは、それでも初優勝を飾った。だから今回も大丈夫だ──日本サッカー協会やJリーグがそう考えたとしたら、あまりにも短絡的である。

「黄金世代」とか「プラチナ世代」と言った表現が使われるように、年齢で区切られる代表はタレントにばらつきがある。日本もアジア各国もそれは同じだ。

 分かりやすいのはイラクだろう。2013年のU−20ワールドカップでベスト4入りした彼らは、2016年のリオ五輪を目ざす戦いをリードする存在だ。

 しかも仁川には、大会の規定どおりに23歳以下でチームを編成し、オーバーエイジも加えてきた。チームの経験知でも個の能力でも、手倉森誠監督のチームを上回っていたのは明らかだ。
 
 準々決勝で敗れた韓国も同様である。23歳以下の選手でチームを固め、そのなかにはホッフェンハイム所属のキム・ジンスも含まれている。さらにマインツでプレーするパク・チュホ(27歳)も、オーバーエイジで招集した。ブンデスリーガの開催中に、彼らを呼び戻したのだ。ブラジルW杯に出場した長身FWキム・シンウク(26歳)も、オーバーエイジとして参加している。

 ベストメンバーを編成したわけでなく、国際大会にふさわしい準備をしたわけでもない。それでも勝てると考えていたら、「上から目線」と言わざるを得ないだろう。アジア全体のレベルが上がり、実力が拮抗してきている現状を考えれば、手倉森監督のチームが苦戦するのは必然だったのだ。

 U−20ワールドカップ出場を逃したU−19代表も、最高の準備で大会を迎えたわけではない。8月のSBSカップでも、ケガやチーム事情で南野らの主力が参加できなかった。南野は9月のベトナム遠征にも参加していない。

 チームの総仕上げとなる段階で、エース格の選手を欠いてしまう。それで万全の準備と言えるのだろうか。自分たちの力を過信していた、と指摘されても抗弁できない。

 Jリーグが各クラブの育成組織に格付け化の導入を検討したり、技術委員会が若年層の育成について議論をしたりするのは、もちろん悪いことではない。しかし、日本の立ち位置を自覚することから、すべては始まるのではないか。

 アジアのサッカーはレベルアップしている。日本の優位性は薄れている。そのうえで、どうしたら結果を残せるのかを論じていくべきだ。

 南野のようにU−19年代でクラブのレギュラーとなる選手は、今後も出てくるだろう。スイス・ヤングボーイズの久保裕也のように、五輪を目ざす世代で海外移籍を果たす選手も、もはや例外ではない。

 Jクラブの利益と代表の活動が衝突したり、選手の招集に障害が生じたりするケースは、今後も十分に想定される。常態となることも考えられる。

 そのなかで代表の活動期間を確保し、なおかつ選手をきっちり集めるには、サッカー協会とJクラブのコンセンサスが不可欠だ。個人的には国内合宿の回数を増やしてチームの練度を高め、公式戦の開催時にはリーグ戦の日程を変更したい。たとえば、年代別代表に複数の選手を送り出したチームのリーグ戦は、日にちを変更するなどの対応だ。ACLでやってきたことを若年層の国際大会にも取り入れることで、クラブの利益を担保するのである。

 若年層の大会で勝てなくなったのは、日本人選手のレベルダウンだけが理由ではない。勝つための準備を、それも時代に即した準備を怠っていることにも、大きな原因がある。