『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)

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 昨日最高裁が、妊娠による降格は「マタニティ・ハラスメント」に当たり、「違法で無効」との判断を初めて示した。一昔前に比べれば女性の育児休暇が取りやすく、また復職もしやすいという風潮にはなっている。しかし妊娠や出産をきっかけに解雇・雇い止め、減給・降格などの"マタハラ"はいまだ横行している。この最高裁判決がマタハラへの一定の抑止力になることが期待される。こうした法制度の充実が必要なのは言うまでもないが、明確なマタハラがなくても、妊娠・出産を機に退職したり、閑職へと異動する女性も少なくない。

 とくに有名大学を出て、就職活動を勝ち抜き、人一倍仕事への意欲を持っていた女性ほど、そのような傾向が強いと言われている。そこには一体どんな理由が隠れているのだろうか。

 "バリキャリ"だった女性15人の生の声をもとに、女性が労働を継続しにくい社会の原因を分析したのが、『「育休世代」のジレンマ』(中野円佳/光文社新書)である。

「育休世代」とは、1999年の男女雇用機会均等法の改正、2001年の育児・介護休業法の改正を経て、社会が実質的に女性の労働継続に向けて動き始めた時期に就職した世代、具体的には1978年生まれ以降を指している。

 一見すると制度が整った後に社会へと出た恵まれた世代に思われるが、著者はその世代の女性特有のプレッシャーを指摘する。それは、「『男なみ』に仕事で自己実現をすることをたきつけられる『自己実現プレッシャー』」と「できれば早めに母になり、母としての役割を果たすことを求めれる『産め働け育てろプレッシャー』」だという。

 自己実現プレッシャーに内包される要因としてあげられるのは、女性の「マッチョ志向」だ。これは親のジェンダー観に大きく影響されるものであり、「自立した女性」や「男まさりに」と育てられることにより、「男性中心主義的な社会で『男に媚を売る』『サポート役になる』のではなく、同等に競争したいという意識」を強く持って成長することをいう。そしてこのマッチョ志向の女性は、就職時に「はたらきやすさ」よりも「やりがい」を重視する傾向があり、さらにやっかいなのは、「自分よりも仕事の上で有能な男性を勝ち得ることが自分の『性的魅力』を確認させてくれる」という"同類婚"を選びがちなことだ。しかし、その有能な男性のほとんどは日々の業務に忙殺され、家庭や子育てを顧みる時間がなく、家庭を潤滑に回す役割を女性が引き受けざるを得ない。

 一方で、「産め働け育てろプレッシャー」も深刻だ。「育休世代」が就職をし始めた2000年代には、高齢出産のリスクや不妊の実情が浮き彫りになった時期であり、自ずと人生設計を前倒しにする人も少なくなかったはず。出産し、復職を願おうにも、女性の多くはを親(子どもにとっての祖父母)に預けることを嫌がる。そこには、親の体力を心配する思いや親世代との子育て観の違いなどもあるが、「自立したい」という気持ちが大きな割合を占める。そうなると、子育てと仕事の両立には保育園が不可欠なのだが、待機児童問題のように入園前にも問題が山積みだ。仮に入園したとしても、長時間子どもを預けることへの罪悪感や、子どもと離れている時間と仕事におけるやりがいのアンバランスなど、いくつもの精神的な重荷がのしかかってくるのだ。

 この2つのプレッシャーに押しつぶされ板挟みとなり、結果として職を手放す、または閑職を受け入れる女性も少なくない。問題解決として、企業が制度から漏れ出ている問題をどのように受け止め、解決に導けるか。男性の育児参加や社会の母性神話からの脱却、母親自身が「理想の母親像」を打ち捨てることが求められるが、現実はそう簡単には進まない。
(江崎理生)