『老人脳はなぜ先が見えるのか (文春新書)』立花 隆 文藝春秋

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「私は今年七十四歳を迎えたが、この年になって世の中が前より一層よく見えるようになった気がする」

 評論家・ジャーナリスト立花隆さんの新著『四次元時計は狂わない』のまえがきには、そう記されています。

同書は、立花さんが「文藝春秋」2011年5月号より2014年7月号まで連載した巻頭随筆全39話を収録。

 この巻頭随筆を執筆するにあたり立花さんは、もともと自身の出発点である取材記者というスタイルを貫くべく、「取材して書く」ことをその中心にしようと思ったそうです。そのため、科学技術や社会問題など、様々な観点から綴られた全39話は、実際に立花さんが現場へと足を運んだ体験と共に語られていきます。
 
 では、具体的にどのようなテーマに立花さんは注目したのでしょうか。そのひとつとして取りあげられたのは、光格子時計。

 光格子時計とは、日本で研究開発が進められている100億年に1秒しか狂わないという世界で最も精確な時計のこと。実はこの時計が日本で作られつつあるというのです。

「いま現在、世界で最も精確とされ、世界標準時刻を刻むのに用いられているのは、セシウム原子時計。ところがこの時計は数千万年に一秒くらい狂う。千万年を秒でかぞえると、十の十五乗だから、これを時間精度十五桁という。光格子時計は、理論的に十八桁の精度を出せる。一挙に千倍も精度がアップするのだ」(本書より)

 そこで立花さんは、光格子時計のアイデアを出し、試作機を作っている東大大学院の教授のもとを実際に訪れ取材。そしてその帰り道、時計の歴史を知りたいと思い、上野の国立科学博物館へ立ち寄ったのだといいます。  
 
 本書では、立花さんが博物館で知った和時計の驚くべき歴史が綴られていき、この光格子時計もその歴史の延長線上にあることが示唆されているのです。
 
「世界標準時刻設定の大本のところでは、これまでにないスケールの大激戦が繰り広げられているわけだ。これまで、精度を一桁上げるのに十年かかるといわれてきたが、光格子時計は、それを一挙に三桁上げて、究極のステージまで上がろうとしている。そのとき時計は時計以上のものになり、日本はもう一つの世界一を持つ」

 そして立花さんは、「アベノミクスなどいつポシャっても不思議ではないが、四次元時計の話を聞くと、日本はまだまだ大丈夫と思う」と、光格子時計の明るい可能性について述べます。

 東大の先生、そして国立科学博物館で、立花さんは何を見聞し、このような考えに至ったのでしょうか。本書では、この他にも、それぞれに特色のある、濃密な随筆に触れることができます。