ラグビーのトップリーグは第1ステージが終わり、A組のパナソニック、B組のサントリーなど各組上位4チームが順当に第2ステージ上位グループ進出を決めた。その中で最大の不思議は、「日本ラグビーの宝」、日本代表の松島幸太朗(21・サントリー)の第1Sのトライ・ゼロである。

 19日の秩父宮ラグビー場。薄暗い通路の隅で、NTTドコモ戦(61−12)を終えたばかりの21歳はいつものポーカーフェイスを少し歪めた。

「何回かトライ・チャンスはあったんですけど、ちょっと、うまくコミュニケーションがとれなくて...。ただ要所要所で自分のプレースタイルは出すこともできた。満足ではないですけれど、徐々に調子が上がってきている感じですね」
 
 松島はケガもあって、第1Sの出場は7試合中3試合にとどまった。ポジションがFB(※1)からWTB(※2)に変わった。チーム1年目。まだサントリーの攻撃ラグビーの中で十分に生きても、生かされてもいない。
(※1)フルバック。最後方に位置し、バックスを統率するポジション
(※2)ウイング・スリークォーターバック。攻撃の際はライン際に位置し、トライを取りに行くことが求められるポジション

 この日の試合序盤。NTTドコモによもやの先制トライを奪われた後だった。サントリーがPKの速攻から連続攻撃を仕掛ける。いいテンポで相手ゴール前のラックから左にボールが出た。ディフェンスは2人。3人のラインができたサントリーでは、外のWTB松島があまっていた。絶好のトライ・チャンス。
 
 SO(※3)トゥシ・ピシからフッカー小澤直輝にはやいリズムでボールが回ったが、小澤から松島への外のパスが浅かった。スローフォワード。チャンスがつぶれた。
(※3)スタンド・オフ。スクラムやラックなど、密集から出てきたボールを最初に受け取るポジションで、キック、パス、ランなどを選択し、攻撃の起点に

「あの時、トゥシに"カットで放って"と言ったんですが」と松島は振り返る。つまり、小澤を飛ばして、ピシから直接、ボールをもらいたかったのだ。だから、上がりがはやく、浅くなったのだろう。でも、そのコールはピシには届いていなかった。
 
 サントリーのラグビーは"はやい"。全員がはやく判断し、全員がはやく動いている。相乗効果を出すためには、周囲との連係が求められる。特にボールを持っていない時の動きやコールが大切なのだ。
 
 大久保直弥監督は言う。

「マツ(松島)、2トライはできましたよ。基本的に静かな男だけど、少しずつ、声は出るようになってきた。もっとトライをとれる選手になるためには、ボールを持っていない時の動きを考え、プレーしないといけない」
 
 才能は文句なしだ。南アフリカのプレトリア出身。天性のバネとセンスは神奈川・桐蔭学園時代から光り輝き、高校卒業後の南アフリカ挑戦でさらに磨かれた。抜群の馬力、体幹のつよさ、スピード......。バスケットボール選手のごとく、予期せぬ角度に鋭いステップも踏める。もう、見ていてワクワクする。
 
 178センチ、83キロ。ただ自分のスピードに耐えうるストレングスがまだ、ない。だから、ケガが多くなる。周囲との意思疎通も物足りない。大久保監督は「もっと自分を出せ!」と檄をとばす。

「もっと自分を出していけば、要求も出てくる。彼は、2019年(日本開催のワールドカップ)の時、日本の中心にいないといけない。"その自覚はあるのか"と本人には言います。サントリーとしても、日本の宝を預かっている責任がある」

 松島は昨年11月の英国グロスター戦に日本代表として途中交代でデビューしたが、負傷退場した。今年5月のアジア五カ国対抗のフィリピン代表戦でテストマッチデビュー。直後のサモア戦では変幻自在のステップで秩父宮のスタンドを熱狂させた。
 
 そのサモア戦でのケガが尾を引き、北米遠征では途中離脱した。ケガも治り、21日からの日本代表合宿に参加する。日本代表は11月1日(神戸)、8日(秩父宮)でマオリ・オールブラックスと戦い、欧州遠征ではルーマニア代表、グルジア代表と対戦する。

 松島の代表でのポジションはCTBかWTBか。「今年はケガがちょっと多いので、そのケアをしながら」と前置きして、日本のホープは淡々とした口調で話す。

「どのポジションでも、積極的に取り組んでいきたい。(サントリーと同じように)ジャパンもアタッキングラグビー。アタックの姿勢を崩さずに、ワイド、ワイドに振っていければ...。トライもそうですが、ラインブレイクもどんどんして、(日本代表戦)全勝を目指します」

 モットーが『マイペース』。己のスタイルをひたひたと貫きながら、やがて世界トップクラスのステージに登るのだ。悩み苦しみながらも、その足取りは着実と見た。

松瀬 学●取材・文 text by Matsuse Manabu