とあるブランドのキャンペーンが論議を呼んでいる。

そのブランドとは「ダヴ」。石鹸をはじめとしたトイレタリー製品を売っているユニリーバ傘下のブランドだ。ダヴが2004年から継続的に発表している「リアルビューティーキャンペーン」動画シリーズは、世界的な広告賞を受賞し、「感動する動画」として話題にも上がった。動画を使ったブランディングの成功例として取り上げられることが多いので、ご存知の方も多いだろう。

ブランド認知の効率性から見れば、ダヴのリアルビューティーキャンペーンは大成功といえる。しかし、同時にこのキャンペーンは本当に「女性に正しいメッセージを送っている」と言えるのだろうか? フェミニストの間では疑問の声も上がっている。

「あなたは、自分が思うよりも、ずっと美しい」

例えばダヴの大ヒット動画のひとつである「ダヴ リアルビューティー スケッチ」

このビデオでは、FBIで訓練を受けた法医学画家が、まずカーテンごしに女性が話す「自分の顔の特徴」をもとに、本人を見ないまま肖像画を制作する。次に、その女性と実験前に会ってもらった赤の他人に、「自分が会った女性の顔の特徴」を言葉で説明してもらい、肖像画を制作。2枚の肖像画で描かれた女性は同じ人物のはずだが、見比べると、自己申告によって制作された肖像画より、他人の目を通じて描かれた肖像画の方がずっと美しいことがわかる。「あなたは、自分が思うよりも、ずっと美しい」それに気づいた女性たちは、感動の涙を流す。

このビデオは、多くの再生数を獲得し、一時はYouTubeでもっとも再生回数の多い動画にすらなった。

しかし、「自分の美しさに自信がない」女性たちに対して、「自分で思っているより美しいので大丈夫ですよ」と言い聞かせて安心させるというのでは、結局「女性の価値は外見の美しさにある」という価値観自体は温存されたままだ。

さらに、肖像画アーティストが男であるところも、見る男/見られる女、評価する男/評価される女という構図が繰り返されている。結局女は「男」に「綺麗だよ」と評価されることで喜びを感じる生き物だと言いたいのだろうか?

さらにこの動画のより深い問題は、女性が自分のちょっとした外見の不完全さのせいで自信をなくしてしまうのを、まるでその「女性たち自身」の問題であるかのように表現していることだ。女性たちが外見に対する非現実な期待を抱くようになったのはいったい誰のせいだろうか?

「脱毛しろ」「美白しろ」とプレッシャーを与える一方で「自然な美しさ」を訴える

ユニリーバはダヴ以外にも多くのブランドを所有しており、中には肌の色を薄くするというクリームや、「これをつければ女の子がゲットできる!」と女性を性的対象にしながら男性向けに広告をするデオドラントブランドなどの製品も扱っている。

ダヴは、また別の動画キャンペーンでPhotoshopによって「非現実的な女性像」が作られることを暴きながらも、自分自身が広告でPhotoshopを使っているかどうかについては情報を公開していない。絶え間ない広告と不自然なほど完璧な女性のビジュアルを氾濫させて、「脱毛しろ」「美白しろ」「シミを消せ」「シワを消せ」「あれも使え」「これも使え」と女性にプレッシャーを与えている張本人である美容会社が、一方で「自然な美しさ」を訴え、女性たちを励ますメッセージを発するというのには、無理がある。

ダヴの動画キャンペーンには確かに感動できる要素がある。10年間継続してリアルビューティーキャンペーンを続けていることも評価に値する。しかし感動的なビデオで涙を流したその勢いのままでダヴの石鹸をまとめ買いするのは、あまりにナイーブすぎるかもしれない。本当の美しさの意味を知る女性ならば、企業の発信するメッセージのその裏まで読み取ったうえで、自分のお金を消費する対象を吟味したいところだ。

(市川ゆう)